軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

214

今日は若葉ちゃんの家で鉄板焼きだ。お土産はもちろん上質な牛肉。タダ飯を食べるわけにはいきませんからね!

「高道さん、これね、お肉なの!よかったらあとでみんなで食べましょう?」

「ええっ!わざわざお肉を持ってきてくれたの?!いいのに~。わ、重い。ありがとう」

「いいえ~」

うふふ、鉄板焼き、鉄板焼き。ホットプレートで鉄板焼き~。

「どうぞ。あがって、吉祥院さん」

「お邪魔いたしま~す」

若葉ちゃんのあとについてリビングに入ると、若葉ちゃんの弟妹が出迎えてくれた。

「いらっしゃい、コロちゃん!」

「来たな、コロネ!」

「いらっしゃい」

「こんにちは。お邪魔します」

すっかりコロちゃん呼びが定着しちゃっているね。寛太君はキッチンに立ち、なにかを作っていた。

「吉祥院さん、座って?麦茶でいいかな」

「ええ、ありがとう。寛太君、なにを作っているの?」

「ミルクプリン。コロネのぶんもあるからな」

「わぁ、嬉しい。ありがとう寛太君!私も手伝おうか?」

「いい。コロネは座ってろ」

「は~い」

寛太君は口はちょっと乱暴だけど、面倒見がよくて凄くいい子だ。いや、食べ物に釣られたわけじゃないよ?

私は若葉ちゃんに出された麦茶を飲んで、しばし休憩。はぁ~、落ち着くわぁ。

さっそくだけど、私は若葉ちゃんの家に遊びに行ったら、絶対に確認したいことがあった。それはもちろん例の、鏑木手作りネックレスのことだ。鏑木の話ではテディベアの首に架けて渡したらしい。恐ろしいが聞いてしまった以上、確かめねばなるまい。

私は隣で4月からの授業の話をしている若葉ちゃんに、さりげな~く話を振ってみた。

「ねぇ、高道さん。前に鏑木様にテディベアをプレゼントされていたでしょう?可愛かったからもう一度見せてもらえない?」

「えっ?うん、いいよ」

若葉ちゃんはなんの疑いもなく私を自分の部屋に案内し、テディベアを見せてくれた。

「はい、これ」

「ありがとう」

私の記憶通り、渡されたテディベアの首に鏑木の言っていたネックレスは見えなかった。そっと服をずらして首回りを確かめる。無い。

「可愛いよねぇ、このテディベア。吉祥院さんから値段を聞いてびっくりしたけど」

「そうね。目がクリクリしてて可愛いわね」

若葉ちゃんに相槌を打ちながら、服に隠れた胴部分などを隈なく手で探ったけれど、金属の感触はどこにもなかった。

「…これはクリスマス限定テディベアですから、季節に合った可愛いマントをしていますわね。ほかのテディベアだとクリスマスプレゼントを持っていたり、小道具にも凝っていたりするのよ。この子はなにも持っていなかった?」

どう聞いていいかわからなかったので小道具の話に絡めてみたけれど、若葉ちゃんからは「なにも持っていなかったよ!」という返事しか返ってこなかった。

え~っ!じゃあ鏑木が重すぎる気持ちをこめて作ったハートのネックレスはどこにいった?!

私はひっくり返したり全身を触ったりして、もう一度隅々まで確認した。ないじゃん!

「吉祥院さん、ずいぶんそのテディベアに興味があるんだねぇ」

「えっ、あ、私は手芸が趣味なので、今度自分で作ってみようかと思って。ごめんね、ジロジロと」

さすがにちょっと挙動不審だったか。

「ううん、全然。そっか、吉祥院さんって手芸部だもんね。どうぞゆっくり見て!」

「ありがとう…。えっと、この子は女の子かしら?女の子のテディベアだと、ティアラを付けていたりアクセサリーを付けていたりするのもあるのよ?」

「そうなんだぁ。マントが女の子っぽいから女の子かもね」

「そうね…。この子はなにも付けていなかった?その、アクセサリー的なモノを…」

「アクセサリー?付けていなかったと思うけど…」

「そう…」

私は諦めて若葉ちゃんにテディベアを返した。すると受け取った若葉ちゃんが「あ!」と声をあげた。

「思い出した。この子ネックレスを付けてたよ」

「えっ?!付けてたの?!」

やっぱりあったんだ!

「うん。可愛いハートのネックレス。そうだった、あれは元々この子が付けていた物だった」

「それはどこに?!」

私は意気込んで尋ねた。

「妹が持ってるよ」

「菜摘ちゃんが?!」

なんで若葉ちゃんの妹が?!

「うん。なっちゃんが一目見て気に入っちゃってさ。ほら、おしゃれしたい年頃でしょ? でもまだ小学生だからね。ちゃんとしたアクセサリーなんて早いけど、ぬいぐるみが付けてたおもちゃのネックレスならいいかなって思ってね。あげたんだ」

「……」

鏑木…、なんてこった。

「そのネックレス、良かったら見せてもらえないかしら…?」

「え?うん、いいけど。じゃあ、なっちゃんに言ってみるね!なっちゃーん!」

鏑木、どうしよう。若葉ちゃんはネックレスの価値にも意味にも、本当に全く気づいていなかったよ。

若葉ちゃんに言われて小学生の妹がネックレスを持ってきてくれた。

「これだよ」

それはパヴェダイヤをぐるりと敷き詰めた、オープンハートのプラチナネックレスだった。

「全然おもちゃに見えないでしょ?」

おもちゃじゃないからね……。

「ぬいぐるみのおまけとは思えないよねぇ」

そもそもこのネックレスのおまけが、テディベアだからね……。

私はネックレスを手に取ってじっくり見せてもらった。

手作りっていうから、もっと歪な形の素人作品を想像していたけれど、鏑木は無駄に器用だったようだ。普通に売っている物と遜色ないクオリティだった。頑張ったんだね、鏑木…。さすが優理絵様に毎年作ってプレゼントしていた実績持ちだけあるよ。裏に小さく“M&W”と彫られているのを見つけた私は、幻の涙が止まらないよ。

これは若葉ちゃんのために、鏑木が工房に通って一から作った重い重い気持ちのこもったハートのネックレスだ。しかし菜摘ちゃんが嬉しそうに自分の首に架けているのを見て、私はとても本当のことは言えなくなった。とっても気に入っちゃってるんだね、菜摘ちゃん…。

うん、なかったことにしよう。見ざる、聞かざる、言わざる…。

あぁ、でもせめて、おもちゃ扱いで鏑木の手作りネックレスが簡単に失くされたり捨てられたりしないように…。

「これね、クリスマス限定商品だから、テディベアが付けているアクセサリーも、普通に人間が使える良い品だったりするの。だから大切に使ってあげて?」

「ええっ?!そうなんだ!なっちゃん、大事にしてね?」

「うん!」

忘れよう。鏑木が若葉ちゃんを想いながらデザインを考え、若葉ちゃんを想いながら工房に通ってコツコツ作り、若葉ちゃんへのサプライズでテディベアにネックレスを架けて、ドキドキしながらクリスマスにプレゼントしたことなんて、全部忘れるんだ。

なにも知らない高道姉妹は無邪気な笑顔の陰で、私は幻の涙をそっと拭いた。