軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

21

案の定、1時間目が終わった途端に、私の周りには人がワッと集まった。

「さっきのはどういう事ですか?麗華様!」

口火を切ったのは、1年の時から同じクラスの取り巻きその1、芹香ちゃん。

「鏑木様と親しかったなんて、私達聞いてませんでしたよ?」

これまた1年の時から同じクラスの取り巻きその2、菊乃ちゃん。

このふたりは、取り巻きの中でも私に一番近い人間として認識されているので、こういう時は一番初めに発言する。

「落ち着いて、皆様。私と鏑木様は特に親しいわけではありませんわ」

「でも、鏑木様がわざわざ女子に会いにくるなんて」

「実は、ある頼まれごとをされたので、そのお話をしていただけですのよ?」

「頼まれごとですか?それはなんですの?」

「それは私の口からは…」

その時、教室のドア付近から黄色い声があがった。

「吉祥院さん、いるかな」

「円城様―!」

私を囲んでいた子達が、円城の登場にきゃあきゃあ騒ぎ出した。

こいつ、一体何しに…。

「あ、吉祥院さん、そこにいたんだ。さっきの雅哉との話だけど、給食が終わったらピヴォワーヌのサロンに来てね」

そのセリフに騒ぎがさらに大きくなった。

あぁ私の平和な日常が…。

「あ、あの円城様?麗華様が鏑木様に頼まれごとしたって本当ですか?」

「あぁうん。そうだよ」

また悲鳴と歓声。

「頼まれごとってなんですの?」

「悪いけど、それは言えないな。君達もあまり詮索しすぎると、雅哉を怒らせちゃうよ?それは困るでしょ?吉祥院さんも黙っててね」

「えぇ」

じゃあねと円城は笑顔を振りまいて教室を去って行った。

突然の円城訪問に、女子達の興奮はまだ冷めないようだったが、余計なことを探ると鏑木雅哉が怒るという円城の言葉に、私から根掘り葉掘り聞き出そうとしていた子達も、これ以上切り込むことが出来なくなった。

あいつ、給食終わったらサロンに来いなんて、たったそれだけを言うために、わざわざ短い休み時間に私を訪ねてきたの?

うーん。もしかして私が鏑木との仲を追求されるのがわかってて、それをフォローしにきてくれたんだったりして。

いや、そこまで親切かなぁ?

でもマンガの中では、主人公をさりげなくフォローしてたよね。そういう事のできる下地は持ってるって事か。

うーん…。

ま、どっちでもいっか。

これなら、あの日サロンで「スパイしてこい」発言を聞いていた子達も、余計な事はしゃべらないかもしれないし。

そもそも元凶はあいつらなんだから、これくらいのフォローしとけってんだ!

昼休み、行きたくなかったけどすっぽかしたら後が恐ろしいので、心の底から嫌々ながらサロンに行った。

皇帝はいつもの特等席にふんぞり返っていた。

先週に比べて、ずいぶんと元気になっちゃったじゃないか。

いっそあのまま、ふらふらの抜け殻でいたらよかったのに…。

「遅いぞ!」

もうなにも言うまい…。

「吉祥院さん、とりあえず座って?」

「円城様、さきほどはフォローしに来てくださって、ありがとうございました」

そう言うと、円城はニコッと笑った。

ふーん、あれってやっぱりそういう事だったんだ。

別に感謝はしてないけどね。

「おい、なんの話だ?」

「なんでもないよ。それより、今後の事を話し合うんだろ?」

「そうだった!優理絵に俺が反省してる事をわかってもらうには、どうすればいい?」

他力本願かよ。

「まずは雅哉の意見は?」

「俺は、優理絵に俺の気持ちをわかってもらう為に、毎日会いに行って謝ろうと思う!」

このストーカーの発想が!!

こいつ、全然反省してないんじゃないの?

「雅哉、それって逆効果だと思うけど」

「なんでだよ?!」

いっそ清々しいほどのバカだ。

「じゃあ秀介はどうすればいいと思ってるんだよ!」

「ほとぼりがさめるまで連絡を一切しないで、静かに許されるのを待つ」

「却下!」

まぁ確かにそれは、ストーカー君には耐えられないだろうな。

「よしスパイ!お前の意見は?」

もういい加減、その呼び方やめて欲しい。

「鏑木様、私の名前は吉祥院麗華といいます。スパイはやめてください」

人前でスパイなんて呼ばれたら最悪だ。

「そうだよ、雅哉。相談に乗ってもらってるんだから、名前くらいちゃんと呼ばないと」

「ふんっ」

態度悪いな~。

ま、そういうヤツだとわかってますけどね。

「で?何かいい案を考えてきたのかよ」

顎で発言を促された。

チッ…。

「私は毎日手紙を書くことを提案しますわ」

「手紙?」

そうだ、手紙だ。

本当は円城の言うように、しばらくおとなしくしてるのが一番いいのだろうけど、この一途という名のストーカーには、耐えられまい。

「どれだけ自分が反省しているか、今の状況をどう思っているのか。まぁいわゆる反省文ですわね。メールでは無機質でいまひとつ心が伝わりにくいと思うのです。そこで直筆の手紙です。優理絵様への想いを手紙に綴るのです。日本では古来より、恋愛は恋文から始まると決まっているのです」

「そうなのか!?」

さぁどうだろう?

「1通1通丁寧に、心を込めて書いてください。便箋と封筒は優理絵様が好きそうな物を選ぶのです。それが、優理絵様の気持ちを尊重してるよ、自分の気持ちを押し付けてないよというアピールにもなるのです。時には小さな花束を添えてもいいでしょう。間違っても大きな花束にしないように」

「なんでだ?どうせなら俺の気持ちをアピールするために出来るだけ大きな花束のほうがいいだろう?」

「それが押し付けがましいのです。小さな花束のほうが、年下の一途な初恋の想いを表現できるのです。優理絵様の情に訴えかけるのですわ」

「は、初恋ってお前!」

「今更です。学院中が知っています。それよりも鏑木様は今日授業が終わったら、すぐにレターセットを買いに行くべきですわ」

鏑木は“初恋”の言葉に、しばらく顔を赤くして口をパクパクさせていたが、やがて立ち直ると、

「よし!その意見、採用だ!放課後、レターセットを買いに行くぞ!二人とも、わかったな!」

え、何言ってるの?

「私は行きませんわよ」

「は?なんでだ?」

それはこっちのセリフだ。なんで私が一緒に行かなきゃいけない。

「私は放課後、習い事がありますもの。それに、鏑木様?さっきの優理絵様の報告書に書いてありましたよね。“周りの人間を巻き込まない事”。私を巻き込んではまた、優理絵様がお怒りになりますわ」

鏑木はしばらく黙りこんでいたが、

「…わかった。ご苦労だったな」

「えぇ。では私はこれで。ごきげんよう」

私は笑顔でサロンを後にした。

その後、手紙作戦は功を奏し、絆された優理絵様が鏑木を許したそうだ

任務は無事成功した。

私はこの仕事を最後にスパイを引退し、普通の女の子に戻ります。

探さないでください。