軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

206

まずい、まずい、どうしよう!私が若葉ちゃんの家に遊びに来ていることを、鏑木に知られるのはすっごくまずい!

私が若葉ちゃんに縋って頭を横にブンブン振ると、若葉ちゃんは「わかってる」と頷いて玄関を出て行った。頼むよ、若葉ちゃん!私は今、心臓がドクンドクンいって、手汗が止まらないよ!

「どうしたんだよ、コロネ」

「私がここにいることを、鏑木様には知られたくないの」

「なんで?同じ学校なんだろ?」

「同じ学校だから、よ」

あぁ、神様神様、私を守ってくださいっ!

狼狽える私を見て寛太君はちょっと考える表情をすると、「じゃあさ、こっそり見てみようぜ」と誘ってきた。ええーーっ!

と言いつつも、気になってしかたがなかったので、寛太君の誘いに乗っかる。寛太君は2階にある若葉ちゃんの部屋に入って行った。

「寛太君、ここ高道さんのお部屋でしょ?勝手に入ったらまずいんじゃない?」

「大丈夫だって。ほら、やっぱりこの下にいたぞ」

若葉ちゃんの部屋の窓の下がお店の裏になるらしく、ふたりはそこで立ち話をしていた。若葉ちゃんの手には、家を出る時には持っていなかった花束があった。鏑木が持ってきたのかな。

私達は気づかれないように、窓をそっと開けてカーテンの隙間から片目だけ出した。

「……見つかっていなくて。でも絶対に見つけるから」

「もういいんです。私も出来れば、これ以上騒ぎを大きくしたくないから」

ん?聞こえてきた話の内容からして、ロッカー事件の犯人捜しの話か?あ、でも若葉ちゃんは瑞鸞で嫌がらせを受けていることを、家族に知られたくないそうだから、これは寛太君に聞かれるのはまずいんじゃ…。

「姉ちゃん、なにかあったのか?」

案の定、寛太君がひそひそ声で私に聞いてきた。

「さぁ…」

咄嗟に上手い言い訳が見つからなかった。どうしよう。ここは話を逸らしてみる。

「ねぇ寛太君、あの人はよく遊びにくるの?」

「月に1回くらいはケーキを買いにくるぞ」

うげーっ、月イチ訪問ですか。そりゃ鉢合わせもするさ。鏑木のヤツ、私の知らないところでずいぶんいろいろと動いているな。あの本棚に置いてあるテディベアも、確か鏑木のクリスマスプレゼントだったはず。

「な、な。鏑木さんって姉ちゃんと付き合ってるの?」

「たぶんそれはないと思うけど…」

「でも鏑木さんって絶対に姉ちゃんのこと好きだと思わね?」

「そうねぇ、どうかしら。高道さんはなんて言ってるの?」

「そんなんじゃないって言い張ってる。この話をするとすぐに怒るんだもんなー」

「なるほど」

その内ふたりは、春休みの課題や休み前に受けた模試の話などをしだした。さすが成績上位組。

話している内容は勉強の話なのに、鏑木の声が心なしかいつもより明るい。おぉ、笑い声まで。好きな子とおしゃべり。そりゃ楽しいよねぇ。

「ところで高道は、春休みはなにをしているんだ?」

「私はお店の手伝いや図書館に勉強に行ったりしていますよ」

「そうか。今日は…」

そこへ遊びに行っていた妹の菜摘ちゃんが帰ってきた。

「ただいまー。あっ、鏑木さん、こんにちは」

「こんにちは」

妹が名前を覚えて普通に挨拶をしちゃうくらい、この家に来ているか、鏑木め。

鏑木に挨拶をした菜摘ちゃんは、「お姉ちゃん、お姉ちゃん」と若葉ちゃんに声を掛けた。

「ねぇ、お姉ちゃん、コロちゃん来てるの?」

うえわあああああっっ!

心臓が一瞬止まった。衝撃で目が見えなくなった。

「おい!大丈夫かよ、コロネ!」

今私は白目をむいているようだ。

「コロちゃん…?」

よもや鏑木の口からコロちゃんという単語が発せられようとは。痛いっ!胃に搾り取られるような痛みがっ!

「誰か来てるのか?」

「えっと、はい。友達が遊びに来ているんです!なっちゃん、お家入ってて」

「はーい」

「そうか。友達が…」

じゃあ俺も一緒にとか言うなよ。絶対に言うなよ!空気を読めよ、鏑木!

「じゃあ俺はこれで帰るから」

鏑木が空気を読んだ!

「わざわざ、どうもありがとう。あっ、このお花も」

「いや、この辺りを偶然通りがかっただけだから。ケーキも食べたかったし」

偶然通りがかるわけないじゃん!しかも花束を持って!鏑木よ、なんという見え透いた言い訳だ!でも私が来ていなかったら、鏑木が若葉ちゃんと過ごせたんだよね。邪魔してごめん?

鏑木は若葉ちゃんに右手を軽くあげると、止めていた車に乗って帰って行った。はあーーっ。

しかし菜摘ちゃんの不意打ち発言には、胃に激痛が走ったな。これからは高道家での私の呼び名はコロちゃんで統一してもらおう。

そして若葉ちゃん、私のことを友達だって言ってくれたよね?本心ですか?

鏑木を見送った若葉ちゃんは、家に戻ってくるともらった花を花瓶に生けた。

「お姉ちゃんは学校でお花を習っているんだよねー。いつも生け方を私にも教えてくれるんだよ」

それを見て若葉ちゃんの妹が、自分のことのように自慢げに言った。

「ちょっと、恥ずかしいから吉祥院さんの前で余計なことを言わないで」

妹の菜摘ちゃんは「なんでー?お茶も教えてくれたじゃん。茶碗を回すんだよね」と言って、若葉ちゃんを慌てさせた。若葉ちゃん、家でそんなことしているんだぁ。でも瑞鸞での授業を、楽しんでくれているなら良かった。

「えへへ。華道、茶道と習ったから、3年では書道を選択しようかと思っているんだ」

若葉ちゃんは照れたように私に言った。

やる気のあるのはいいことだけど、書道なんて選択したら、頭から墨汁ぶっかけられるんじゃないか?

外で遊んできた妹がおなかが空いたと言ったので、若葉ちゃんがお好み焼きを作ってくれることになった。お好み焼き!今世で食べるのって初めてじゃない?!

わぁい、かつおぶしが踊ってる!ソースとマヨネーズの匂いがたまらんっ!粉もの万歳!

もうひとりの弟も帰ってきたので、ホットプレートを出してみんなでお好み焼きパーティーを始めた。焼いて食べて、焼いて食べて。私がひっくり返したお好み焼きは見事に崩れた。なぜだ。それを見た寛太君に戦力外通告を受けた。泣く。若葉ちゃん、キャベツの千切り早いなぁ。

「吉祥院さんも、もう1枚食べる?」

「いえ、私はもうおなかいっぱい。あぁ、でもタネが余っているのでしたら、一口だけいただこうかしら…」

楽しいなぁ。おいしいなぁ。若葉ちゃんの家は本当に居心地がいい。

「なんだかいつも、ごちそうになってしまって…」

私は帰り道で若葉ちゃんにお詫びを言った。気が付けば私、若葉ちゃんの家に行くたびに何かごちそうになってる。さすがに毎回食べさせてもらっているのは、図々しすぎるよね。今度お肉を手土産に持ってこようか。

「全然気にしないで~。みんなも吉祥院さんと一緒に食事をするのが楽しいって言ってるし。よかったらまた遊びに来て?」

「ありがとう」

そんなこと言われちゃったら、またすぐに来ちゃうぞ。

「そういえば、鏑木様は…」

「あぁ、うん。近くを通りがかったから、ケーキを買いに寄ってくれたんだって。それとロッカーの犯人も捜しているけど見つからないって」

ええ、知っています。盗み聞きしていました…。

「高道さんは犯人を捜し出したい?」

「ううん。私はこれ以上騒ぎを大きくしたくないから。鏑木君にもそう言ったんだ。もう捜さなくていいって」

「そう」

鏑木が動くとどうしても目立って事が大きくなるからね。

「高道さんは、鏑木様のことをどう思っているの?」

「えっ!」

若葉ちゃんはぎょっとした顔をした。あ、やっぱり聞いちゃダメだったかな?

「ほら、えっと人柄とか。どう思っているのかな~って」

マンガではとっくに若葉ちゃんは鏑木を好きになっていて、すれ違いや障害を乗り越えて盛り上がっている時期なんだけど。今のところ、障害はあっても盛り上がってはいないよね?

「う~ん、最初は凄く近寄りがたい人で私とは別世界の人って思ってたけど、でも話してみると少しだけ印象が変わったかな」

「たとえば?」

「そうだなぁ…。私に怪我させた時にね、凄く真摯に謝ってくれて、毎回病院に付き添ってくれたりとか」

「それって普通じゃない?」

「そうかなぁ。お金で解決しておしまいってしないで、最後まで自分で責任を取るっていう姿勢は偉いなと思ったよ。ちゃんとしてるよね」

「ふぅん」

「その時にいろいろ話して、私なんかの話を笑って聞いてくれたのには驚いた。だって瑞鸞の皇帝だよ?!」

その皇帝のあだ名の由来は騎馬戦だけどね。そのことを外部生の若葉ちゃんは知らない。

「そこから少しずつ身近に感じられるようになったかな。普段は大人っぽいのに、時々子供みたいな時があるんだよね、鏑木君って」

おや?若葉ちゃんの中での鏑木のイメージは、まるで君ドルの皇帝のようじゃないか。もしかして脈あり?しかし美化されている気がするなぁ。時々子供みたいって、本当の鏑木の精神年齢は寛太君より下だと思う。

若葉ちゃんに鏑木を好きなのかすっごく聞きたいけど、さすがにそこまでは聞いちゃ悪いよね~。さっきもぎょっとしてたし。でも本当は聞きたい…。

「どうかした?」

「えっ、いえ。高道さんは春休みは図書館で勉強しているの?」

「うん。あれ?私そんな話したっけ?家だと下の子達がうるさいからねぇ。近所の図書館に行ったり、たまに遠くの大きな図書館に行ったり。前に水崎君にね、カフェが併設されている大きな図書館を教えてもらったんだ」

「まぁ、水崎君に?」

それって一緒に行って勉強してたりして…。

「水崎君と図書館で勉強しているの?」

「時々ね。ほとんどはひとりで行ってるけど。あ、でも今度一緒に勉強する約束をしてるんだ」

それは私の憧れの図書館デートじゃないか?!ちょっと若葉ちゃーん…!

「実はね、生徒会として、いつかふたりで成績表のワンツーフィニッシュを飾ろうって言ってるの。打倒ピヴォワーヌ!なんてね。あっ、嘘だよ!打倒ピヴォワーヌだなんて!気を悪くしちゃった?」

「ううん、全然。でも鏑木様と円城様は手強いですわよ?」

「そうなんだよね~」

鏑木!あんたの知らないところで同志当て馬と若葉ちゃんは着実に距離を縮めているぞ!偶然を装ってケーキを買いに行っている場合じゃないぞ!

「でもさ、人間って話してみると印象が変わる人が多いんだなって、瑞鸞に来て思ったよ」

「そう?」

「うん。入学した当初は私、吉祥院さんとこんなに仲良くなれるとは思ってもみなかったもん」

「そうね」

私と仲がいいって思ってくれてるんだ。嬉しい。それとさっき、鏑木をごまかす時に友達が来てるって言ってくれたよね。私のこと、本当に友達だと思ってくれてるのかな?

「私の印象ってそんなに悪かった?」

「悪くなんてなかったよ!ただ鏑木君と同じで、私とは別世界だなぁって思ってただけ」

「今も?今も別世界の人間だと思ってる?」

「う~ん。同じだと言い切ることはできないけど…」

「でも私は、高道さんと友達になれたらいいなって思ってるわ…」

「本当?えへへ、実は私のほうは、とっくに吉祥院さんを友達だと思ってたんだけど」

若葉ちゃん!

感動した私は、がっしりと若葉ちゃんの両手を握った。

その後、若葉ちゃんに書道を選択するのだけはやめとけとアドバイスをして、駅の改札の前でお別れした。

「また遊びに来てね~。みんな待ってるから」

「ありがとう!」

強い風が吹いて、私の髪が舞い上がった。あっ、ちょっと私の髪にお好み焼きの匂いが!帰ったら気が付かれない内にお風呂入らなきゃ。でも今日も楽しかった!

電車の中でカバンから携帯を取り出すと、鏑木から“例の件について相談したい”とメールがきていた。うげっ。

昼間若葉ちゃんの家に行って、即行で私に相談のメールか。面倒くさ~い。はっ、まさかコロちゃんが私だとはバレていないでしょうね?!

でもまぁ、面倒くさいとは思うけど、今日の鏑木の恋路を邪魔したのは私なので、ちょっと罪悪感がある。なんかね、嬉しそうで楽しそうだったからね、若葉ちゃんといる鏑木がさ。鏑木だって若葉ちゃんと一緒にいたかったよね?…ごめん。

仏心を出して“相談はメールより電話のほうがいいですか?あまり時間は取れないですけど”と返信したら、“では今度の観桜会でゆっくり話そう”って。はああっ?!いつの間に私が今年の鏑木家の観桜会に出ることになっているのさ?!