軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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やっと、来たよ、待ちに待ってた春休み!

私が保身と意趣返しのためにやった蔓花さんへの情報操作で揉め事が起き、そのギスギスとした学院の空気を変えようと、今度はみんなのアイドル円城様の恋の噂を提供したら、すぐさまその円城に尻尾を握られた。怖かった…。

あの後春休みに入るまで、サロンや廊下で会うたびに、微笑の円城の視線に体を縮こまらせ、ビクビクと怯えていたよ。目で語ってくれるな、円城。自業自得とはいえ、胃がキリキリとした。

軽挙妄動は良くない。心から反省。

そして逃げるように迎えた春休み。私は受験生なのでもちろん塾の春期講習に通う。

春期講習では梅若君達と同じ教室だ。ただ私は塾以外に家庭教師も付いているので彼らよりも受講する講座は少ないけど。

さすがに今年は受験を控えている年なので、教室にいる学生達の顔も本気になってきているなぁ。これが受験か。

私は梅若君達と一緒に座り、授業が始まるまで他愛もないおしゃべりをして過ごした。森山さんはさっきからずっと携帯をいじってメールを送っている。

森山さんには彼氏が出来た。同じ学校の同級生だそうだ。森山さんはずっと梅若君を好きだったけれど、梅若君の飼い犬への過剰なまでの溺愛っぷりを知り、それを目の当たりにするたびに、いろいろと思うところがあったらしい。

うん、瑞鸞の学園祭で梅若君が私の作ったニードルフェルトのベアたんぬいぐるみに、人目を憚らず頬ずりして抱きしめてキスをしていた時、森山さんドン引きしていたもんね。あれがトドメだったな、きっと。

で、まぁそんな時に行った修学旅行で、意気投合した男子と森山さんは付き合うことになっちゃったんだってさ。修学旅行をきっかけに付き合うって、共学の定番だよね~。かーっ、羨ましいっ!

しかし片思い相手がドン引きするくらいの犬バカ君に春は来るのかね。私は隣に座る梅若君を横目で見た。梅若君は私の視線に振り返ると、「あ、もしかして気づいた?」と言って、自分のピアスを指差した。真ん中にふたつ凹みのある楕円形のピアス。ぱっと見はスカルモチーフのピアスかと思いきや、目を凝らしてよく見るとそれは犬っ鼻だった。とてもよくお似合いですよ、梅若君。

あぁ、彼にはすでにベアトリーチェという永遠の恋人がいるのだから、いらぬ心配をした私がバカでした。

お幸せに、ベアたん&あーたん。

そして春期講習の同じ教室には、例の多垣君もいた。たぶんあの騒動の前に申込をしちゃったんだろうなぁ。

私と同じ教室になってしまった多垣君は、目に見えて怯えていた。それはもう、私と目があった瞬間に、この世の終わりといった表情になるくらいに。

「吉祥院さん、あいつと何かあったの?」

「う~ん、あったような、なかったような…」

ポロっと自分が余計なことを言ったせいで、私を窮地に陥らせた自覚はあるらしい多垣君は、あれから学院でもガタガタ震えて過ごしていたという噂だ。別に若葉ちゃんも鏑木も信じてくれた今となっては、怒っていないんだけどね。

口は災いの元ということわざが、お互い身に染みますね。

でもこのままじゃよくないよなぁ。ということで、休み時間に話しかけてみた。

「多垣君」

「…!」

私はできるだけ優しく声を掛けたつもりだったんだけど、多垣君は声にならない悲鳴をあげたあと、「ごめんなさい!ごめんなさい!」と頭を抱えて謝り倒した。ちょっと、やめてよ!

「あの、多垣く…」

「わぁぁっ!ごめんなさいっ!許してください!助けてっ!」

教室にいたほかの受講者達がなにごとかとこちらを見ている。これじゃまるで私がリンチでもしているみたいじゃないか、やめてくれ!

「吉祥院さん、彼どうしたの?」

一緒に来てくれた梅若君達が目を丸くしている。私だって困惑だ。とにかく落ち着いてもらわないと。

「多垣君、私は別に怒ってはいませんから。落ち着きましょう?ね?」

「ごめんなさい!ごめんなさい!」

いや、殴ったりしないから、その頭を庇って怯えるのだけはやめて。

「多垣君、とりあえず吉祥院さんが話があるらしいから聞いてあげてくれないかな」

梅若君が多垣君の体をポンポンと叩いた。ほかのみんなも「大丈夫だから落ち着け~」「はい、深呼吸~」と多垣君に声を掛けてくれた。

多垣君は頭から手は離さなかったけれど、やっと黙って私のほうを涙目でそろそろと見た。どんだけ怖がられているんだ、私。

「多垣君の謝罪は受け入れましたから、そんなに怯えなくてもよろしいのよ?」

私が慈愛の笑みを浮かべると、多垣君はさらに怯えた。なんでだよ!

「なに、多垣君は吉祥院さんになにかやらかしちゃったの?」

北澤君が面白そうに聞いてきた。

「まぁ、たいしたことではないんですけどね。多垣君がずいぶんとそれを後ろめたく思っているようなので、私は気にしていないと伝えたかっただけなのですわ」

ふーんと言いながら、みんなは怯える多垣君を見た。

「多垣君さぁ、吉祥院さんのこと怖いの?」

梅若君がずばり聞いた。多垣君は返事に困って目を泳がせた。

「あ~、俺達は吉祥院さんの瑞鸞での様子はよく知らないけど、少なくとも多垣君がそこまで怖がるようなことをするような人ではないと思うよ」

梅若君の言葉に北澤君達も頷いた。

「そんなに怖がらなくても平気だって。この子そんなに悪い子じゃないよ?それにもし吉祥院さんになにかされたら、私が助けてあげるからさ!」

森山さんが多垣君の背中を叩いた。多垣君はやっと頭から手を下して私と目を合わせた。

「多垣君もそうやって毎日怯えて生活するのは大変でしょう?もう気にしなくていいですから、普通になさって?」

私はもう一度多垣君に微笑んでから、自分の席に戻った。これで少しは気楽になってもらえればいいけど。私へのストレスで受験に失敗したとかってなったら、こっちが罪悪感に潰される。

もうちょっと気さくなキャラになりたいなぁ。

次の日に、多垣君からデパ地下の高級プリンをたくさんもらった。どうやら梅若君達が女の子へのお詫びにはスイーツがいいとアドバイスしたらしい。ありがとうございます。

お昼にそのプリンを、無理やり多垣君も誘ってみんなで食べた。多垣君はプリンを食べ終わると即行逃げて行った。そんなに怖いか。

「あそこまで怯えるって、吉祥院さんって、瑞鸞でどういう立ち位置なの?」

学院の特権階級に所属し、女子の最大派閥のリーダーという立ち位置です。