軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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4年生になり、そろそろ暑くなってくる季節になった頃、事件は起こった。

他校の男子生徒が優理絵様に告白したというのだ。

ちょうどその情報が入ったのは放課後、鏑木雅哉がプティピヴォワーヌのサロンにいた時。私も習い事までの時間を潰すためにサロンにいたのだけど、人間が魔王に変身する瞬間を目撃した。

猛ダッシュでサロンを飛び出した鏑木を円城が追いかけ、残された私達はこの話題をしていいのかどうか、互いの目を見交わして様子をうかがっていた。

結局その他校の男子生徒は、駆け付けた皇帝に瞬殺で仕留められ、優理絵様はそのまま皇帝の車に乗せられて、その場には倒れた男子生徒だけが残されていたらしい。

その日以来皇帝は、優理絵様に近づく男をすべて駆逐すべく、登下校は必ず鏑木家の車で一緒にし、離れている間は、中等科にいる鏑木家に縁のある生徒に見張らせ、優理絵様の習い事にも時間が許す限り迎えに行っていたらしい。

女子生徒達の憧れの皇帝陛下は、立派なストーカー予備軍になっていた。

そんな毎日が続けば、さすがの優理絵様だって息が詰まる。いくら可愛い弟の執着だって、我慢の限度がある。

そして当然の事ながら、優理絵様に怒られ、反省させる意味も込めてしばらくの間、接近禁止令まで出されてしまった。

そりゃそうだ。中学2年生ともなれば、たまにはお友達と放課後遊びに行ったりもするだろうし、ひとりになりたい時もある。

四六時中見張られ、べったりくっつかれて、あまつさえ少しでも優理絵様に近づく男がいたら、猛犬のように唸る。

むしろ、しばらくはその状態を許していた、優理絵様の心の広さに脱帽だ。

そして今、優理絵様を怒らせ接近禁止令まで出された皇帝は、地の底まで落ち込んでいた。

その姿はまさに、どよ~ん。

俺様ではないけれど、常に実力に裏打ちされた自信に満ち溢れ、この世を我が世と言っても許されるオーラを放っていた王者の姿は、今はもうそこにはない。

背中を丸め死んだ目をした彼からは、負のオーラが漂っている。

この抜け殻を立ち直らせる術は、さすがの円城も持っていないらしく、隣で困ったように見守るしかないようだった。

サロンには、悪い気に当てられたくないためか、ここ最近参加する人数も前より少なくなっている。

確かに賢明な人間なら、そうするだろう。

しかし粗忽者の私は何も考えず、今日のお菓子を求めてうっかりサロンの扉を開いてしまった。

先見の明がないにも程がある…。

私以外にもそんなうっかり仲間がいたので、その方々と静かにお茶を飲む。

今日の紅茶はイギリス王室御用達の品だ。

添えられた同じブランドのジンジャーのクッキーが甘くて、あぁおいしい。

しかし最近、スイミングスクールを辞めたせいか、心なしか太った気がする…。

脂肪細胞は思春期に増えると聞いたことがある。

そして一度増えた脂肪細胞は一生減らないらしい。恐ろしい事だ。

気を付けねば…。

このおいしいジンジャーのクッキーは、もう1枚食べて終わりにしよう。

「俺は、もう駄目だ…」

なにやら聞いてはいけないセリフが聞こえてきたような。

「優理絵が電話にも出てくれない…」

この期に及んでまだ、しつこく電話なんてしてたのか。

そんな事したら、余計に怒らせるだけなのに。

「優理絵―…」

頭を抱えるその姿は、奥さんに逃げられたダメ亭主のようだ。

もう見ちゃいらんない。

そんな私は、優理絵様の本心を知っている。

実は4月から通い始めた英語教室で、同じ教室に通っている愛羅様と時々顔を合わせる機会があるのだ。

私が授業が終わって帰る時間と、愛羅様が来る時間がかぶる為なのだけど、この前、その愛羅様から親友、優理絵様のお話を聞かせてもらった。

愛羅様曰く、優理絵様は皇帝のあまりに行き過ぎた束縛に、このままでは“可愛い弟、雅哉”の為にも良くないと思い、突き放す事で反省を促し、子供の我がままを抑えられるように成長して欲しいと願っているそうだ。

「ちょっとお灸を据えないと」だそうだ。

あまりに効きすぎているお灸だと思うけど。

誰が見ても、皇帝は優理絵様を姉などと思ってはおらず、恋する少年そのものなのに、本当に優理絵様は気づいていないのだろうか。

そのへんのところを愛羅様に聞いてみたのだが、愛羅様もわからないらしい。

「たぶん雅哉の気持ちはわかっているんだろうけど、それをはっきりさせて今の関係を壊すのが嫌なのかもね~。優理絵自体は雅哉を弟としか見ていないし」

中学2年生のお姉様からしたら、小学4年生の子どもに現実突きつけてきっぱり振るなんて、残酷なことできないものね。

つらいなぁ、皇帝。

そういえば、マンガでも優理絵様に失恋して、ボロボロになってた事があったな。

この頃からの筋金入りだったんだな。

ボーッとそんな事を考えていたのを、野生の勘でキャッチしたのか、皇帝がギロッとこちらを睨みつけた。

げっ、まずい。

「おい、お前」

「は、はいっ」

あわわ、大変。

手負いの虎の尾を踏んでしまった!

「何か言いたい事があるなら言ってみろ」

「い、言いたい事?」

言いたい事、言いたい事…。なんだ、私の言いたい事って。

あぁ、恐怖で頭の中がパニック状態だ。

「え、えっと、ゆ、優理絵様はちょっとお灸を据えるつもりだそうです!」

「あ゛ぁ?」

うひょー! 口が滑ったー!!

「なんでお前がそんな事を知ってる」

「あ、愛羅様から聞きましたー!」

愛羅様、ごめんなさい!

「愛羅?お前、愛羅と仲がいいのか」

「英語教室が一緒です!」

「英語教室…。そうか」

皇帝はブツブツとなにやら考え始めたが、ふいに顔をあげると私をしっかりと見据えた。

そしてその目には、先ほどまでの抜け殻状態が嘘のように、力が宿っていた。

「よし、お前。愛羅からスパイしてこい」

えーーーーーっ!!