軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第89話 王立アルヒ学園 入学式

年始の休みが明けた勇者暦一〇二二年 美月(ティファレト) (四月に相当)十日、今日は王立アルヒ学園の入学式だ。

ちなみに、アルヒ王国の一年は 美月(ティファレト) に始まり、 光月(オウル) で終わる。

制服は合格が決まってから、すぐに手配し、一か月前に届いている。

教科書は学園から人数分が郵送されてきていて、ルクスたちの手元にある。生徒手帳も 然(しか) り。

忘れ物もない。

ルクスたちは制服を纏って、学園の入学式に参加すべく、ベネディクトゥスとヘレナ、ヴォルフとアデリナに見送られて屋敷を出立した。

ルクスは珍しく眼鏡をしている。

この眼鏡には魔法が付与されていて、目の色が変わる仕様だ。

ルクスの目は眼鏡を通して見ると、アルヒ王国西部に多い緑色に見える。

何故この色を選んだのかといえば、赤髪に合いそうだったのと、ラエティティアの母であるヘレナの目の色と同じだからだ。

ラエティティアにとって身近な目の色の方がラエティティアとイチャイチャするとき、違和感が少ないかもしれないというルクスの勝手な予想により、緑色になった。

眼鏡自体を作ったのはドニで、魔法を付与したのはルクスだ。

なぜ、目の色が変化する眼鏡をルクスが掛けているのかといえば、貴族子女が多く通うアルヒ学園で目立たなくするためだ。

金色の瞳を晒せば、貴族子女なら、帝国皇族の血が入っていることが分かるので、ルクスは仕方なく眼鏡を掛けている。

ちなみに、制服だが、男子は黒い燕尾服にチョッキ、黒いパンツが共通で、学年ごとにタイの色が変わる。

一年生は黄色のタイだ。

女子は、白いジャケットと膝下まであるスカートが共通で、学年ごとにリボンの色が変わる。

男子と同様、一年生は黄色のタイだ。

成績上位者は獅子が刻まれた金色のバッジを身につけることになる。ルクス・ラエティティアは入試で上位だったので、この金色のバッジを付けている。

その中でも『品格のある優れた者』は『|高貴なる心を持つ者の集まり《ノーブレッセ・ゼーレ・ティーム》』略してノブゼームというグループに入ることができる。会員は、ノブゼームの為に用意された庭や部屋を利用することができ、食堂でも特別な部屋で特別な料理を味わうことができるという。彼らの特徴は、ダイアモンドのブローチだ。

高学年の四年・五年生になると、生徒会や寮の監督生になる者もいる。

生徒会のメンバーは赤いチョッキを身に纏う義務がある。監督生は金のボタンのチョッキを身に纏うことになる。

そんな情報を入学前までに調べたルクスは仲間たちに先日、念のために共有している。

情報はたくさん持っている方が良いものだ。

共有したとき、アランはクラーラにくっつかれて上の空だったので、恐らく身に付いていないかもしれないが。

ルクスたちは学園の門の付近にいる教師らしき大人に話しかけた。

「あの、俺たち新入生なのですが……」

「えーっと、念のため、生徒手帳を見せてくれるかな?」

「「はい」」

全員が生徒手帳を見せた。

「うん、大丈夫だね。入学式は会館で行うよ。あのルネッサンス様式の白い石の建物の一階だからね」

ルクスたちは会館に向かった。

ちなみに、教室や職員室がある校舎と、男子寮と女子寮は赤レンガと白い石のコントラストが特徴的な建築で、ルクスは東京駅を思い出した。

赤レンガは耐火煉瓦が使用されている。耐火煉瓦は外国からの輸入品なので、学園の建物には相当お金がつぎ込まれたことが分かる。

学園は約五百年前の王の肝いりの政策だったので、お金を掛けるのは当然のことだったのだろう。

なんにせよ、火事には強そうな建物で良かったと、ルクスは思った。

「新入生の皆様、入学おめでとうございます」

新入生全員が席に着いた頃、入学式が始まった。

校長たちの長々しい挨拶に船をこぐ生徒も何人かいるが、ルクスたちの中に眠る者はいなかった。

なぜなら全員別のことを考えてやり過ごしていたから。

ルクスは魔法のこと、バートは哲学のこと、アランはクラーラのこと、クラーラはアランのこと、ラエティティアは授業のことを考えていた。

全員寝ない為に、ルクスは事前に長々しい挨拶があったら別のことを考えるようにと、皆に共有していたからだった。

「新入生代表、シルウェステル・アルヒ」

「はい」

制服に身を包んだシルウェステルが壇上に立ち、話し始めた。

「ご列席の皆さま、本日は私たち新入生のために入学式を開いていただき、誠にありがとうございます。今日、私たちは学園の生徒として新しい一歩を踏み出します。期待と少しの不安を胸に、この日を迎えました」

シルウェステルは顔を上げた。

「これからの学園生活では、勉強や部活動、学園行事、更には、《《学園の外》》でも、たくさんのことに挑戦し、成長していきたいと思います。分からないことがあっても、先生方や先輩方に教えていただきながら、少しずつ自信をつけていきます。そして、お互いを思いやり、助け合いながら、笑顔の絶えない学園生活を送りたいです。これまで支えてくださった家族や国民の皆さまに感謝し、その思いを胸に努力を続けます。最後に、私たち新入生一同、この学園で多くのことを学び、心豊かに成長できるよう頑張ります。どうぞよろしくお願いいたします」

シルウェステルの挨拶だからと、ルクスは聞く努力をしたが、眠気に襲われ、半眼になった。

慌てて、別のことを考え始めたルクス。

しばらくすると、入学式は幕を閉じ、クラス分けが始まった。

クラスは全部で六つ。上からS、A、B、C、D、F組だ。

前に立った教師が一人一人の名前を呼んで、クラス分けをしていく。

S組にルクス・ラエティティア・シルウェステル・レヴァナが、A組にバートが、B組にクラーラとアランが組み分けられた。

それぞれのクラスに生徒たちは向かった。

ちなみに、一クラス三十人で、内訳は、貴族が二十人、平民が十人となっている。

昔はもっと平民が少なかったので、これでもマシな方だ。

S組では全員の自己紹介をし、教師が自己紹介を始めた。

「えー、私はこのS組の担任、カルロス・クライシェ。ラッツェル侯爵の三男だが、今は家を出て、一教師として従事している。専攻は薬学だが、魔法学にも造詣はある。王立アルヒ大学も出ているから大体のことは答えられるだろう。気軽に接してくれ」

王立アルヒ大学とは三百年前に創設された高等教育機関で、王立アルヒ学園の隣にある。王立アルヒ学園からほんの一握りの生徒しか通えない特別な学び舎だ。

その大学を出ているカルロスが自分たちの先生になると分かった生徒たちは目を輝かせている。

「本日は授業について説明する。一年生は必修科目以外に選択授業を受けることができる。必修科目は礼儀作法・数学・歴史・魔法学だ。選択授業は語学・剣術・弓術・薬学・舞踏・経済学となっている。今から用紙を配るから、用紙に書かれた選択授業で、受けたい授業を選んで〇を付けて提出するように。名前を書くのも忘れずにな。書いた者は私に提出して寮に行って良い」

カルロスはそう言って三十枚の羊皮紙を配る。

生徒たちは配られた羊皮紙と睨めっこして、選択していった。

ルクスはすらすらと〇を書いて、先生に提出した。

「早いな……。ふむ、問題ないな。帰って良いぞ」

「はい、ありがとうございます」

ちなみにルクスが選択した授業は『語学・薬学・経済学』の三つだった。舞踏つまりダンスは社交界に出るつもりがないルクスとしては無意味な授業だと思ったため、選択しなかった。剣術・弓術は既にスキルがあるので、選ばなかった。調薬スキルがあるのに薬学を選んだのは、ゲームとは違う現実で素材をどのように扱っているのか知るためだ。

ルクスに続いてラエティティアとシルウェステル、レヴァナもさっさと選択授業を選んで教室から出てきた。

ラエティティアを待っていたルクスは、予期していなかった二人が出てきたので、少し驚きつつも、微笑んだ。

「シルウェステル君とレヴァナさんも寮に行くの?」

この王立アルヒ学園に通う生徒たちは全員寮生活を行う決まりになっている。

なので、ルクスたちはこれから寮で生活することとなる。

ちなみに、寮は四人部屋が基本だ。

「うん、レヴァナを女子寮まで送ってからね」

「シルウェステル様……」

らぶらぶな雰囲気の二人にルクスは苦笑した。

「うん、俺もティアを女子寮に送ってから行くよ」

「ルクス様……」

人のことは言えないお熱い雰囲気のルクスとラエティティアだった。

四人は女子寮にやってきた。

「じゃあ、レヴァナちゃん、行きましょう」

「はい、ラエティティアちゃん」

ラエティティアとレヴァナは仲良く女子寮に入っていった。

「よし、ルクス君、男子寮に行こうか」

「うん、行こう、シルウェステル君」

ルクスとシルウェステルは女子寮から少し離れた男子寮にやってきた。

男子寮のエントランスでは上級生たちが一年生を事前に決められた部屋割りを元に、部屋に案内していた。

ルクスたちの元にも上級生がやってきた。

赤いタイを身につけているので、四年生だろう。

「君たちも一年生だね?」

「「はい」」

「えーっと名前を教えてくれるかな?」

「俺はルクス・フォン・フォルティスと申します」

「僕はシルウェステル・アルヒです」

「(王子と大物だ……うわぁ)えーっと、じゃあ、部屋に案内するね」

「「お願いします」」

上級生に案内されて、ルクスたちは一階の角部屋の【十一号室】に案内された。

「一年生は全員一階の部屋に振り分けられるんだ。フォルティス君とアルヒ君は運よく同じ部屋になったようだね」

角部屋に入った二人はこれから始まる寮生活に胸躍らせている。

「二人とも荷物はアイテムポーチに入ってるの?」

「「はい」」

「じゃあ、荷物整理とか色々あるだろうし、俺はここで失礼するよ。……クローゼットは四つないから、皆で話し合って使うようにね」

クローゼットは部屋に二つ付いているようだ。

「分かりました」

「ありがとうございます、先輩」

「うん、どういたしまして。じゃあね」

上級生は部屋から出て行き、エントランスに向かった。

「シルウェステル君、二段ベッドだけど、どっち側が良い?」

「僕は左かな」

「俺も左が良い。……俺が下でも良いかな?」

「僕が上で大丈夫?音とかすると思うけど」

「大丈夫だと思う」

「じゃあ、とりあえず、それで」

二人は広い窓辺にやってきて、外を眺めた。

「良い天気だね」

「うん」

木々が見え、小鳥の囀りが窓越しに聞こえる長閑な日和だ。

「着替えよっか?」

「そうだね」

念のためカーテンを閉めて、二人は制服から普段着に着替えた。

ルクスは白いシャツと黒い半ズボンにサスペンダーが付いている。何故半ズボンなのかといえば、温かい季節なのと、背が伸びる年齢なので、少し伸びても履けるようにするためだ。

シルウェステルは白いシャツと金糸で刺繍が施された紺色の半ズボン、ベストを纏っている。

王子様らしい雰囲気が引き立てられる服装だ。

「クローゼットはどうする?」

「俺たちは俺たちのベッドの近くのクローゼットを使えば良いんじゃないかな?」

ルクスたちは左側のクローゼットの前で、どのくらいの服をハンガーに掛けるか話し、服を掛けていく。

「よし、これで良いか」

「そうだね」

終わったところで、ノックの音が響いた。

「はーい」

「失礼します……」

入ってきたのはルクスたちと同じ年頃らしい茶髪のくせ毛の眼鏡を掛けた少年だった。

おどおどした様子なので、小心者なのだろう。

(シルウェステルが王子だと知ったら失神しそうだな)

と、ルクスは心配しつつ、少年に声を掛けた。

「ようこそ、【十一号室】へ。俺はルクス・フォン・フォルティス」

ルクスは少年に手を差し伸べた。少年はおずおずとその手を握った。

「僕はシルウェステル・アルヒ」

「ひぃ……ぼ、僕はトマス・フォン・リュールです。父は宮廷子爵で、宮廷魔導士を務めています」

宮廷子爵つまり宮廷貴族というのは、君主のそばに仕える特権階級つまり、領地を持たない貴族のことを指す。

「そっか、俺も一応、宮廷貴族なのかな?」

「どうなんだろう?ルクスは自由だからなぁ」

「フ、フォルティス君はどこかの貴族の令息ではないのでしょうか?」

「あー、実は元々平民だったんだけど、武功?を立ててしまって、伯爵になったんだよね……一応、名誉元帥だけど、仕事してないしなあ」

「す、凄いです!!元帥といえば、宮廷魔導士長や軍務卿よりも偉い立場ですよね!?そんな凄い方が同室なんですか……」

魂が抜けそうです、と言うトマスはふらふらしている。

そんなトマスの肩に手を置いた人物がいた。

「大丈夫か?ふらふらしてるけど」

「あ、ありがとうございます。持病みたいなものですから」

「持病!?本当に大丈夫か?」

心配そうにトマスを見ている少年は整った容貌で、黒髪に銀色の瞳を持っている。

(銀色の瞳……ラエティティアの親戚かな?)

と思いつつ、ルクスは少年に声を掛けた。

「君も十一号室かな?」

「ああ」

「入口で話すのもなんだし、中で話そうか」

「おう」

「うん」

四人は部屋の中央にあるソファーに座った。

「じゃあ、改めて自己紹介するね、俺はルクス・フォン・フォルティス」

「僕はシルウェステル・アルヒ」

「ぼ、僕はトマス・フォン・リュールです」

「俺はエクトル・フォン・ネーフェ=シュトゥーベン」

ルクスはシュトゥーベンと聞いて北の公爵を思い出した。エクトルは公爵令息なのだろう。

「「よろしく(お願いします)」」

エクトルは身を乗り出して、ルクスにきらきらした目を向けた。

「フォルティス殿は、あの魔族を倒し、名誉元帥になられたフォルティス伯爵という認識で大丈夫か?」

「あ、うん」

「そうか!本当に素晴らしい方と同室になれて、俺は感激している……」

エクトルは頬を紅潮させ、胸に手を当てて感動を噛みしめている。

「あはは、えっと、リュール君もシュトゥーベン君も俺のことはルクスでいいよ」

「僕のこともシルウェステルで良いよ」

「じゃあ、俺のことはエクトルでいい」

「僕も、トマスでいいよ」

全員が苗字ではなく名前で呼び合うことになった十一号室の面々は笑い合った。

「じゃあ、紅茶でも淹れようか」

ルクスはそう言ってアイテムボックスから既に紅茶が入ったティーポッドとティーカップを取り出した。

「もう紅茶が入ってるティーポッドか……魔導具かい?」

「ううん、紅茶を入れておいた状態で保管してたんだ。そういう魔導具があったら良いんだけどね……」

と言いつつ、ルクスはティーカップに紅茶を淹れた。

「さあ、どうぞ」

「「ありがとう(ございます)」」

四人は紅茶を味わいつつ、談話を楽しんだ。