作品タイトル不明
第132話 みんなで迷宮都市大探索 前編
囲碁やチェスはとんとん拍子でライセンス契約が結ばれた。ライセンス契約を結んだのは迷宮都市の大きな商会と迷宮都市バッハ商会支店だった。
バッハ商会支店から連絡を受けたバッハ商会の商会長と副商会長は絶対に売れると確信した。
バッハ商会の商会長と副商会長の肝いりの案件になった囲碁とチェスの発売は約三カ月後の 慈月(ケセド) を予定している。
迷宮都市の大きな商会も同じ頃に囲碁とチェスを発売する予定だ。
「飽きた」
ソファに座ったクラーラが果物を 頬張(ほおば) りつつ、チェスや囲碁を指差した。
「あー、俺もやり尽くした感じがする」
「二週間も囲碁とチェスばかりやってたからね……」
アランとバートもクラーラの意見に同意した。
「あー、二週間も同じようなことをすると流石に飽きるよね……じゃあ、今日は迷宮都市の探険でもしようか?」
「「さんせーい」」
「お供します」
クラーラ、アラン、バート、そして、ラエティティアが手を挙げて賛同する。
小妖精二人と従魔たちも興味津々で見ているので、彼らも同行するつもりだろう。
(小妖精と従魔の皆はちょっとばかし目立つだろうな……)
という懸念を抱きつつ、ルクスは口を開いた。
「アスターとシアーシャ、ルベウスたちも一緒に行きたい?」
「「勿論」」
「行きたい~」
「我もついて行く」
小妖精と従魔たちは絶対行きたいと騒いでいる。
「そう言うと思った。……勝手に行動しないって約束するなら良いよ」
「「するするー」」
「約束だ」
「約束~」
ルクスは小妖精と従魔たちが約束を守ってくれると信じることにした。
「じゃあ、出発しようか」
ルクスたち黄金の導一行は、迷宮都市探険に出発した。
今日は雪が降っていないので、探検日和だ。
まずは、自分たちの屋敷がある冒険者街の探険だ。
屋敷の近くの建物は、冒険者の宿舎や、冒険者ギルドの寮、迷宮都市のクランの拠点などの屋敷が立ち並んでいる。
表通りには冒険者向けの武器屋、防具屋、アイテム屋、素材屋、宿屋、食事処、酒場などが立ち並んでいる。
裏に入ると、歓楽街がある。歓楽街は色っぽい女性たちが客引きしていたので、ルクスはすぐに仲間たちを連れて回れ右した。
まだ子供である仲間には早いと思ったからだった。
(早いというか、絶対に遊ばせてはいけない……そんなことしたら、アランとバートがクラーラさんと聖女様にぼっこぼっこにされてしまう……)
恐ろしい想像にぞっと寒気がしたルクスだった。
ルクス自身は前世でも今世でも歓楽街に興味は微塵もなかった。
(前世は性病が怖くて行く気にならなかったけど、今世はラエティティアが好きだからね……好きな人以外とどうこうなる気にならないってのが大きいかな)
と思いつつ、ルクスは歓楽街の反対に向かった。
ちなみに、迷宮都市の区画は中央に貴人街があり、それ以外の半分が冒険者街、残りの半分が商人街、残った区画が市民街となっているが、職人も住んでいる。
冒険者街の歓楽街の反対に位置するのは、 賭博場(カジノ) を中心とした繁華街だ。
カジノも本当は子供たちに見せたくないルクスだったが、これも経験だ、と思い切って連れて行った。
「ここがカジノ……でっかいな!」
アランは驚いた表情を浮かべ、カジノの建物を見上げた。
ドームのような形をした豪華な装飾があしらわれた大きい建物が迷宮都市のカジノだ。
「たくさんお金が動いていそうだね……」
バートはちょっと怖がっている。
カジノで負けるのが怖いのだろう。
「お金の匂いがぷんぷんする」
クラーラがそう言って鼻をくんくんさせた。クラーラは狼獣人だから、鼻が利くが、金貨の匂いが建物の外まで漂ってくるとは思えないので、これは比喩表現だろう。
「カジノは初めて来ましたね」
ラエティティアは微笑みを浮かべた。
「とりあえず、各自、カジノで自由に遊んで行こう。賭けるお金は金貨一枚までを限度とするよ」
「「はい(はーい)」」
「じゃあ、いってらっしゃーい」
アランとバート、クラーラはカジノに向かって楽し気に走っていった。
ルクスはラエティティアと手を繋ぎ、小妖精、従魔たちと共にカジノに向かって歩いて行った。
ここで、迷宮都市のカジノについて説明しよう。
このカジノでは二種類のゲームが楽しめる。
一つ目はルーレット。カジノのルーレットは、ボールが回転する円盤のどの番号に落ちるかを予想して賭けるシンプルで人気のあるゲームだ。
二つ目は 大小(シックボー) 。大小の賭け方は多様で、サイコロの出目の合計数や組み合わせを予想する方法が一般的。賭け方によって配当倍率が異なり、当たりやすい出目は配当が低く、出現率が低い、当たりにくい出目は配当が高くなる。
迷宮都市のカジノではルーレットの台が三十あり、 大小(シックボー) の台が五十台用意されている。
人々に人気なゲームは 大小(シックボー) のようだ。
だが、初心者にはルーレットが良いだろうと予想したルクスは、ラエティティアたちと共にルーレットの台に向かった。
アランとクラーラも他のルーレットの台で賭け事に参加している。
バートは離れた 大小(シックボー) の台にいる。
仲間たちがどこにいるか確認し終えたルクスはルーレットに参加すべく、台に寄った。
「主、あの台が良いと思う」
神龍のルベウスが指差した台は、ぽっちゃりしたディーラーがいる台だった。
他の台と同様で、まあまあ人が集まっている。
「うん、良いよ、あの台に行こうか」
ルクスはぽっちゃりしたディーラーに両替したい旨を伝えた。
そして、ディーラーの指示に従い、ディーラーとプレイヤーに見えるように、金貨一枚をテーブルの上に置いて、ルーレットチップと両替した。
この交換方法は不正を防止するためのものだとディーラーは言った。
(確かに、複数人の前で両替した方が不正はできないだろうな……)
と思いつつ、ルクスはルーレットチップを受け取り、ディーラーにルールの説明をお願いした。
ディーラーがルクスたちにルールを説明している間、プレイヤーたちはどんどん好みの数字の上にルーレットチップを置いていく。
「『32』に置いた方が良いと思う」
説明が終わると、ルベウスがルクスに耳打ちした。
「分かった」
特に好みの数字が無かったルクスは『32』の上にルーレットチップを全て置いた。
既に何枚かルーレットチップが置かれていたので、その上に重ねて置いた。重ねて置くルールになっているからだ。
ディーラーが回るルーレットに球を入れた。
球が回っている間も 賭け金を賭けること(ベット) はできるが、ディーラーが手を 翳(かざ) して『ベット終了です』と言ったら、それ以降はベットできない。
回る球は暫くして、とある数字の上に落ちた。
その数字は『32』だった。
「『32』に賭けた方、初めてなのに、凄いね」
「あはは」
ルクスは賭け金の三十六倍の配当を受け取った。
そして、次もルベウスに任せることにした。
「ルベウス、お願いね」
「任せろ……次は『5』だ」
ルクスは『5』に全てのルーレットチップを賭ける。
そして、球は『5』に落ちた。
何度も同じようなことを行い、ルクスのルーレットチップは三十倍になった。
「そろそろ止めるか」
ルクスはルーレットチップを回収した。
「まだまだ勝てるのだが……」
ルベウスは名残惜し気にルーレットを見詰めている。
「これくらいで止めておいた方が良いと思いますよ、ルベウスちゃん」
ラエティティアはそう言って、ルベウスの頭や首元を撫でた。
「そうだな」
ルベウスはラエティティアに撫でられ、猫のように喉をごろごろ鳴らした。
「交換所は……っと、あそこだな」
ルクスは交換所でルーレットチップを交換することにした。
「金貨一万枚分のチップで魔剣かぁ……なんか呪われそうだな」
「常人が魔剣を手にすると魅入られてしまうとは聞きますね」
「まあ、主なら問題ないと思うが」
「はは、そもそも金貨一万枚分のチップは持ってないからね」
と言いつつ、ルクスはルーレットチップを現金にした。ルーレットチップは金貨千八十枚になった。
賭博場(カジノ) から出てきたルクスは気になっていたことをルベウスに聞いた。
「そういえば、ルベウス、ルーレットで必ず数字を当ててたけど、どうやったの?」
「それは簡単だ。魔素を操作して球の周辺に風を起こして任意の数字に落としただけだ」
「え……つまりはイカサマ?」
「そうだな」
「……次はイカサマしないでね?」
「なぜだ?」
「だって、イカサマしたら、面白くないからね」
「うむ、分かった」
ルベウスはそう言って、ルクスの肩に乗った。ルクスの反対側の肩には既にアルブムがいて、頭にはオニキス、右腕にはヴィオラが巻き付いてい
る。左腕にはアウルムが抱き着いていた。
(ちょっと乗り過ぎでは……?)
と思いつつ、ルクスはカジノの前にある広場にあるベンチに座った。
ラエティティアはもふもふに包まれたルクスを羨ましそうに見詰めつつ、横に座った。
「ラエティティア、しばらく此処でアランとバート、クラーラさんを待とう」
「はい」
一時間後、微妙な表情を浮かべたアランとクラーラ、落ち込んでいるバートがルクスたちの元にやってきた。
「どうだった?」
「俺は勝ったり負けたりでさ……金貨五枚になった」
「私も勝ったり負けたり……結果は金貨三枚」
「僕は勝ってたんだけど、最後に惨敗して、何も残らなかった……」
それぞれの結果を聞いたルクスは笑顔を浮かべた。
「アランとクラーラは頑張ったね。バートは引き際を見極められるようになれば大丈夫だと思う。まあ、賭け事は嵌ると身を滅ぼすから、やらないか偶にやるくらいが良いかもね」
「そうだな……」
「うん……」
「僕、もうやんない……」
疲れたのだろう、三人とも元気が無かった。
「じゃあ、今日は帰ろうか」
「「はーい」」
ルクスは仲間を引き連れ、繁華街を後にした。