作品タイトル不明
第128話 現れた幼い狼
奈落ダンジョンを攻略した黄金の導は、最下層の魔法陣に乗って、地上に戻ってきた。
ラエティティアがルクスに話しかけた。
「ルカ君、一週間掛からずに攻略しちゃいましたね」
「あ、確かに。あっという間に最下層まで攻略したな……みんなが戻ってくるまで、俺たちは休もうか」
「そうですね」
ラエティティアは頷いた。
「え?休んで良いのか?ルクス」
意外そうにルクスに問うアラン。
「うん。アランは休みたくないの?」
意地悪な質問をルクスはアランに投げかけた。
「いいや!休みたい!だらだらしたい!」
アランの主張にルクスは苦笑した。
「だらだらし過ぎないでね」
「おうよ」
他愛もないやり取りをしつつ、ルクスたちは自由の翼ラビュリントゥス支部に帰っていった。
一週間ほど経ち、自由の翼のメンバー全員がダンジョンから帰ってきた。
ルクスは帰ってきたメンバー全員に一週間の休みを与えた。
そして、黄金の導のメンバーを三階の談話室に招集した。
「皆、集まってくれて、ありがとう」
ルクスは礼を言いつつ、黄金の導の面々を見渡した。彼らの顔色が良いことを確認し、体調に問題がなさそうだと予想しつつ、言葉を紡ぐ。
「今日は次の拠点をどこにするか決めるよ」
「え、次の拠点?」
「迷宮都市にはまだ来たばかりだよ、ルクス」
アランとバートが異を唱える。
「うん、分かってる。ただ、迷宮都市の奈落ダンジョンでこれ以上、俺たちのレベルは上がると思う?」
「……少しは上がるかもしれないけど、時間が掛かると思う」
バートの言葉にルクスは「その通り」と反応した。
「俺たちにはもっとレベルの高いダンジョンが必要だ。なので、次の拠点の目途を付けておいた」
ルクスはマップを開いて、大陸中央のとある国のとある場所にフォーカスし、バートたちの前に表示した。
マップには、ダンジョンとその情報が記載されていた。
マップを他の者に表示する機能は、アップデートでもなんでもなく、元々あった機能だ。ルクスが活用できていなかったので、この機能を使ったのは今回が初めてだったりする。
「次の拠点はカロヴァーナ同盟にしたいと思う。カロヴァーナ同盟の遺跡ダンジョンの一層の 魔物(モンスター) は五十レベル、最下層ボスは三百レベルだ。ここなら、俺たちを強くしてくれる」
大陸中央の南部を支配するカロヴァーナ同盟は、一言で言えば、商人たちの国だ。カロヴァーナは、元々、商人たちの組合のような団体のことを指していた。商人たちは拠点を転々とすることが多かったが、二百年前から商人たちが都市に定住するようになった。定住商人と呼ばれた彼らは、定住する都市で都市参事会を通じて政治に参加する有力市民になった。
彼らの相互援助の都市間ネットワークを通じて都市間で条約が結ばれていった。これに伴い、カロヴァーナ同盟の性格も商人団体から、商人が定住する都市によって構成される都市同盟「都市カロヴァーナ」へと変質する。
都市カロヴァーナが台頭すると、反発ありつつも、周辺の都市も都市カロヴァーナの支配に下るようになる。最終的な決定権は各都市の代表者によって構成されるカロヴァーナ会議が下すこととなった。
こうして国と呼べる規模となったカロヴァーナ同盟は商人の国として栄華を極めることとなる。
「でも、ちょっと遠いよな。大鹿たちに乗ってもたぶん、半年くらい掛かるんじゃないか?」
大陸中央の神聖オウル法国までは、一万二千km程なので、アランの予想は当たっている。
「うん。そこは大丈夫。自由の虹羽で神聖オウル法国に転移して、そこから南下するから」
神聖オウル法国の名を聞いて、バートがぴくりと反応した。
「それなら、まあ、いいか」
「いいと思う」
「私も賛成です」
アラン、クラーラ、ラエティティアは賛同した。
「その、僕は心の準備が……」
「分かってるよ。大丈夫、出発は約三カ月後の 美月(ティファレト) にするつもりだから」
「そ、そうなんだ」
三カ月後かぁ、とバートはほっとしたような残念なような複雑な表情を浮かべていた。
「この三カ月間、何をするんだ?」
「良い質問だね、三ヶ月暇になるのもどうかと思うから、色々考えたんだけど、迷宮都市を探索したり、冒険者として依頼を 熟(こな) したりするくらいしか思いつかなくてさ……何か良い案はあるかな?」
「ええ?そうだな……」
アランは考え込んだが、何も良い案が思い浮かばない。
「俺に良い案があるぞ」
唐突にルクスの足元から聞いたことがない声が上がった。
ルクスはがばっと、自身の足元を見た。
すると、そこには真っ白な毛並みに金色の瞳を持つ幼い狼がいた。
「えっと、君は……?」
「俺は神狼だ。神の命で、そこの二匹の元魔王を監視していたんだ」
幼い狼はぴょんと跳んで机の上に乗った。
「へえ?」
「だが、二匹ともお前にテイムされて神獣になってしまったから、俺は自由の身になったのだよ」
「なるほど……」
「お礼と言ってはなんだが、何か役に立てないかと思って、お前の近くにいたのだ」
「そうだったんだ。じゃあ、良い案って?」
「俺の古巣の近くに奈落ダンジョンよりも厄介なダンジョンがあってな。そこには魔王は封印されておらんが、このままではスタンピードが起こりそうでな。攻略して欲しいのだよ」
「ふうん、良いね。……皆、どうかな?」
ルクスは黄金の導の面々に問う。
「俺は良いと思う」
「私も」
「僕も問題ないよ」
「私も良いと思います」
「「いいともー」」
黄金の導の面々はそれぞれ了承した。従魔たちは果物に夢中になっているので、了承もなにもしてないが、大丈夫だろう、とルクスは判断し、幼い狼と目を合わせるべく、しゃがんだ。
「その依頼、黄金の導が受けるよ」
「ありがとう」
ルクスは幼い狼と握手した。
「そういえば、君のことは何て呼べば良いのかな?」
「うーん、神狼?とか?」
「種族名で呼ぶのもちょっとね……金色の目だから、アウルムはどうかな?」
「気に入った」
幼い狼は眩い光を放った。
[神狼(幼体)を従魔にしました]
[神々が興味深く見ています]
名前を付けただけで何故かテイムしたことになってしまい、ルクスは困惑した。
「えぇ?なんで?」
「ふむ、そういえば、名前を付けてもらうということは主従契約を結ぶようなものだと、聞いたことがあるな……俺としたことが、すっかり忘れていた」
わはは!と幼い狼ことアウルムは笑った。
「そうだ、俺のマスターとなる人の名を聞いてなかったな」
「あ、俺は、ルクスだよ」
「ルクス……良い名だ、よろしくな、マスター」
「結局、名前で呼ばないんだね」
ルクスは苦笑しつつ、アウルムのもふもふな頭を撫でた。