作品タイトル不明
第102話 ベルムマレの硝子
海上都市ベルムマレはアルヒ王国に元々ある建築様式──ゴシック・ルネサンス・バロックなど、様々な建築様式を融合させた建物が多く建てられている。
街の建物は、オレンジや赤、白などを基調としている。
街の中央に聳える塔は、鐘楼といって、鐘をつくための建物で、街のシンボルとして有名だ。
鐘楼の近場にある白亜の神殿も観光名所として旅人が集まる。
ベルムマレを行き来するのは、橋の存在が重要になってくる。ベルムマレには百くらいの橋があるのだが、その中でも特に美しい橋が幾つかあり、その橋も観光名所として有名だ。
水路が張り巡らされたベルムマレはゴンドラで行き来することもできる。ゴンドラから眺めるベルムマレはまた一味違った景色を見せるだろう。
「わあ!ルカ君、ゴンドラに乗りませんか?」
橋の上で『旅日記~海上都市ベルムマレ~』を読んでいたルクスは、隣にいるラエティティアに聞かれ、顔を上げた。
そこには、水路をすいすいと優雅に行き交うゴンドラの姿があった。
「うん、良いよ、ティア」
「良かった。じゃあ、行きましょう、ルカ君」
二人は仲良く並んで歩き、ゴンドラ乗り場に向かった。
現在、修学旅行の自由時間なので、二人きりだ。
料金(一人銀貨一枚)を払って、一隻のゴンドラに乗ったルクスとラエティティアは、水上からの景色に目を輝かせた。
「太陽の光が水面に当たって、きらきらしてて綺麗です……空は雲一つない青空ですし、水の上に建っている建物も神秘的で素敵です」
「うん、本当に綺麗だね、ティア」
ルクスは景色を楽しみつつ、ラエティティアに見惚れていた。ラエティティアは景色に夢中で気付いていないようだ。
ゴンドラが水路を行き来して、元いた場所に戻った。ゴンドラから降りたラエティティアはまだ夢の中にいるようで、ほわんとしている。
「本当に素敵でした……夢のような時間でしたわ」
「うん」
「ルカ君はいかがでした?」
「……実はほぼティアしか見てなかったんだ」
「まあ!」
ラエティティアはぼんと、頬を赤く染めた。
「ごめんね?」
「べ、別に、謝ることではありません、気にしないでください。ルカ君」
動揺するラエティティアを可愛らしく思いつつ、ルクスはラエティティアと繋いだ手を恋人繋ぎにした。
「ル、ルカ君?」
この繋ぎ方は恥ずかしい、とラエティティアは言おうとした。
「ん?」
嬉しそうなルクスの表情を見て、ラエティティアは口ごもる。
「な、なんでもないです……」
ラエティティアは撃沈した。
「ところで、どこに向かっているんですか?」
「んー、内緒」
ルクスは繋いでいない方の手の人差し指を口に近づけ、しーっというジェスチャーをした。
ラエティティアは、その仕草が格好良く見え、ぽっと頬を染めた。
しばらくして二人が辿り着いたのは、工房や店舗が並ぶ通りだった。
「ここだよ」
「まあ、ガラス製品が売られているお店ですね……店名は『妖精の硝子店』、素敵」
妖精の硝子店はベルムマレで一二を争う硝子製品販売の有名店舗だ。ルクスは事前に読んだ本でこの妖精の硝子店を見つけて、ラエティティアと一緒に行こうと決めていたのだ。
「さあ、中に入ろう。ティア」
「はい」
硝子製品を眺めていたラエティティアは、一組のグラスに注目した。
「まあ、綺麗な金色……」
透明な硝子には金色の粉が散りばめられていた。
「これは、銅の粉で出来ている筈だ」
「まあ、金色なのに?」
「確か……」
ルクスが本を取り出したとき、背後から人の気配がした。
振り返ると、そこには店員がいた。
「よく、ご存知ですね。この金色は銅紛です」
「そうなのですね……不思議です」
「魔法のようなので、我々ベルムマレの住民は魔法の硝子と呼んでいますよ」
「へえ、そうなんですね」
「はい。では、お客様方、ごゆっくりご覧ください」
「「ありがとうございます」」
ルクスとラエティティアは店内の硝子製品をじっくり選んで、最初に見た一組のグラス(一組五個)と硝子ペン五セット(一セット六本入り)を購入することにした。
硝子ペンはクラン自由の翼全員に配る予定だ。
(自由の翼の規模が全然拡大できてない……まあ、王都にはすでに大手クランや中規模クランがあるから仕方ないか)
王都の冒険者は大体有名なクランに入っている。
(自由気ままと風任せ、人それぞれが自由の翼に入ってくれたのは奇跡だったのかも)
と思いつつ、会計を終えたルクスはお土産をアイテムポーチに入れた。
「はい、ティア」
こっそり買っておいた硝子の猫の置物をラエティティアに渡した。
「まあ……」
ラエティティアは驚きと喜びを 綯(な) い交ぜにしたような表情を浮かべた。
「可愛いな、と思っていたのです……でも、買っていただけるなんて思ってもみなかったです。……ありがとうございます。ルカ君」
「うん、ティアが喜んでくれたなら、俺も嬉しいよ」
「ルカ君……」
ラエティティアはルクスの胸に飛び込みたい気持ちでいっぱいになったが、人通りがあるので、ぐっと 堪(こら) えた。
二人は工房を見たり、景色を楽しんだりしつつ、充実した時間を過ごした。