作品タイトル不明
第98話 次の目標
一週間後。
一番班の騎士団長イサイアスは四十五レベルから七十五レベルに。
平民上がりで眼鏡がトレードマークの副団長ハリマン・ミュラーは、四十レベルから七十レベルに。
バルトルトは五十五レベルから八十レベルになった。
二番班、三番班は平均三十レベルだったのが、平均六十レベルに。
四番、五番、六番班は平均二十レベルだったのが、平均五十レベルに。
七番、八番、九番、十番班は平均十レベルだったのが、平均四十レベルになった。
廃坑ダンジョンから出てきた騎士たちの目は死んでいる。
一方、騎士団長イサイアス、副団長ハリマン、バルトルトは目を輝かせていた。彼らはレベリングの沼に嵌ったのだろう。
まだ、廃坑ダンジョンに潜りたがっていたが、約束の一週間が経ったので、上がってきたのだ。
「では、『自由の羽』で帰りましょう」
騎士たちは歓声を上げて班ごとに王都へ戻っていった。
一番班は名残惜しそうに戻った。
王都の北門に集まった第一騎士団の前にルクスが出てきた。
「皆さん、この一週間で強くなったと思うけど、慢心せず、訓練に励んで欲しい。俺が顧問でいる間は、ちょくちょく訓練に参加するので、覚悟しておいてね」
ルクスは微笑む。ルクスの鬼っぷりを痛感した二番、三番班の面々はその微笑みを見て、ぞわわと鳥肌を立てていた。
「以上で一週間の訓練を終わりにします。皆さん、よく頑張りました」
ルクスは邪気のない晴れやかな笑みを浮かべた。
一週間の訓練が辛かったのは騎士だけではない。
ルクスは自分自身のレベリングができなくて辛かった。
最早、レベリング中毒者だ。
しかしながら、現在のルクスのレベルに合う狩場は近場に殆どない。
ルクスのレベルは百十五。百レベル以上の 魔物(モンスター) が出る地域はアルヒ王国には殆ど存在しない。
廃坑ダンジョンの九十層以降は九十レベル以上の 魔物(モンスター) が出るので、しばらくは経験値が貰えるだろうが、レベル差が開くにつれて経験値も少なくなっていく。
(早く飛び級して拠点を移す必要があるな……)
ルクスが次の拠点として見据えている場所がある。
迷宮都市のダンジョンだ。
噂によれば五十層が最高到達層で五十層に出てくる 魔物(モンスター) のレベルは八十。つまり、もっと深く潜れば潜るほど、 魔物(モンスター) が強くなるはずだ。
ルクスにとって迷宮都市ダンジョンは次の 狩場(フロンティア) だ。
早く学園を卒業したい気持ちが逸る。
できれば、黄金の導全員で迷宮都市に向かいたいルクス。
そのためにも、今からできることは全てやっておきたい。
「と、いうわけで、アランとクラーラは春休みの間、勉強に励んで欲しい。監督はバートとラエティティアにお願いするよ」
屋敷の談話室で寛ぎつつ、ルクスは二人に告げた。
「え、というわけでって、どういうことだよ?ルクス」
アランが訝し気にルクスに問う。
「うん。そうだね、説明不足だった。俺たちのレベルを上げるために早急に迷宮都市へ拠点を移す必要があるんだけど、そのために、早くアルヒ学園を卒業したいんだ。俺とティアとバートは飛び級するけど、二人は飛び級しないだろう?飛び級できるように、勉強を頑張って欲しいんだ」
「なるほどな……でも、そんなに急いでレベルを上げる必要があるのか?」
アランが首を傾げた。
「強くなって損はないだろう?」
アランはルクスをじとーと見詰めた。
「はあ、これは秘密にして欲しいんだけど」
「なんだ?」
「将来、魔王が復活したり、邪神が世界を脅かす可能性があるんだ」
「なんだと?」
反応したのはルクスの傍でソファーに寝転んでいた神龍のルベウスだ。
「各地の魔王の封印はまだまだ解かれないはずだ。それに、邪神の封印は神々が一番強く力を込めていた。そう簡単に破れる筈がない」
「魔王はもしかして一体、封印が壊れた者がいるんじゃないか?」
「あ、ああ、そういえば他の魔王がそんな噂をしていたな、確か、憤怒の魔王が何度か勇者に斃された、と」
「え、魔王同士って封印されているのに会話できるの?」
「ああ、邪神を通して魔王たちは繋がっている。会話もたやすいようだ」
「へええ。で、俺が復活って言ったのは、その憤怒の魔王のことだね」
「なるほど、だが、邪神が世界を脅かすというのは、どういう意味だ?」
「うん、邪神もダンジョンに封印されてるんだよね?」
「ああ」
「邪神の分身だっているよね?」
「ああ、まさか」
「そう、邪神のダンジョンがスタンピードを起こして邪神の分身がこの世界に出てくると思う」
これはルクスの予想だ。分身の話を聞いて、ゲームに出てきた邪神は分身だったのではないかとルクスは疑っていた。
(できれば、全部の魔王たちをテイムして、邪神の本体もなんとかできれば一番良い気がする……情報が足りないから何とも言えないけど)
そんなことをルクスは考えた。
「ふむ……邪神が封印されて五千年ほどは経過しているだろうし、スタンピードが起きても可笑しくないかもしれないな」
ルベウスは納得したように頷いた。
「うん、だから、多くの冒険者あるいは騎士に強くなって貰わないといけない、って俺は思っている」
そう言って、ルクスはアランたちに目を向けた。
「全然理解できてないと思うけど、邪神とか魔王とか悪い奴等が世界の平和を壊すのを止めるためなんだよな?……分かった、勉強頑張るよ」
「私も頑張る」
アランとクラーラは頷き合った。
「ルカ君がなぜ、こんなにもレベリングを急ぐ理由を聞いて感動しました。ルカ君はいずれ英雄になるべく、準備を進めていたのですね……!」
「いや、俺は英雄とか目指してないよ(称号に英雄があるのは黙っておこう)」
「では、どうして?」
「俺はティアを守りたい。それから、アラン、バート、クラーラ、ベネディクトゥス、ヘレナ、ヴォルフ、アデリナ、クランの皆も、できれば王都にいる人々も、アルヒ王国の人々も」
「ルカ君……」
ラエティティアは感動し、目を潤ませている。
「でも、そのためには、俺だけが強くなっても仕方がない。俺だけではなく、黄金の導、クラン自由の翼、王都の騎士団、それから、他の冒険者や各地を守る者たちにも強くなって貰いたい。じゃなきゃ、世界は滅茶苦茶になってしまうだろうから。そのためにも、まずは、俺たちが強くなる必要があるんだ」
「ルカ君の深慮、私、感服しました。言葉にならないくらいです。本当に素晴らしいです。ルカ君」
ラエティティアは頬を紅潮させ、ルクスに抱き着いた。
「ティ、ティア」
ルクスはおずおずとラエティティアの背に手を回した。
「……アラン、クラーラさん、書庫に行こうか」
「あ、ああ」
「うん」
バートとアラン、クラーラは二人の邪魔をしないように、そっと談話室から出て、書庫に向かった。