作品タイトル不明
今後のことを話し合う
武器のテスト以来の訪問であった。
ネオ・ファンタジアの本社へ入り、冒険者カードを見せると事務員に2階の会議室へと通された。
円卓の長机。整然と並ぶオフィスチェア。
普段なら落ち着いた空間のはずなのに、胸の奥がざわついて仕方がない。
しばらくして、朝日と橘が入室した。
朝日は影山の右隣、橘は左斜め前へ静かに腰を下ろす。
「昨日の夜、影山さんの住まいが晒されてしまいました」
橘が差し出した書類。
印刷されたSNSのスクリーンショットには、影山がアパートの玄関へ入ろうとする姿が、鮮明に写っていた。
背筋に、冷たいものが流れ落ちる。
「そんな……」
声が震えた。
「現在開示請求など、対応のほどを急速に進めております。掲示板なども怪しい書き込みがあり、出来るだけ早く事態が収束するように、弊社が動いていきます」
「はい……」
朝日が、椅子ごと寄りそうな勢いで書類をのぞき込む。
「リア凸されたって、本当?」
「……うん。しかも未成年の女の子。朝、いきなり来た」
「ひっ……こ、こわ……」
朝日の顔が青ざめる。
「しばらく、あの部屋には帰れないや……」
「え? 帰るところが、ない?」
「そうなるね……」
朝日の脳内で、妄想が弾けた。
~朝日の妄想タイム~
影山が顎クイで朝日を引き寄せる。
『っ、か、影山さん、なにを……?』
『今日、お前の部屋に泊めろよ』
『え!? そ、そんなの、ダメだよ……だって私達、まだ……』
『お前は、俺の物だ』
~朝日の妄想タイム終了~
「ぼわああああああああああああ!!!」
(今日も推しが生きていてくれてありがとうございます~~~~~~~~!!!)
朝日は奇声を上げ、ロックギタリストのように頭を振りまくった。
もうすっかり、影山が推しになっているようだ。
「え、どうしたの朝日ちゃん……」
影山はドン引きしつつ、頭上に?マークを浮かべる。
橘は完全スルーで話を続けた。
「さて。今後のことですが」
「あ、はい」
(というか、橘さんってなんでも対応するんだな……営業って言ってなかったっけ)
「弊社所有のタワーマンションに、しばらく滞在していただくのはいかがでしょうか」
「タワマン……?」
影山の声がわずかに裏返る。
橘は静かに頷いた。
「正確には社宅ではありませんが、ネオ・ファンタジアが所有する高層マンションです。専属のインテリアコーディネーターが整えた、家具つきのゲストルームがいくつか空いています」
「私、ここに住んでるよ~。冒険者やオペレーターの人も何人かいるし、安心だよ!」
朝日が胸を張る。
その笑顔に、影山の胸の緊張が少しだけほどけた。
「……おいくら、なんですか」
稼ぎが良くなり、5億振り込まれたとはいえ、元は残業代も出ない安月給の社畜。
庶民が身に染みており、ついそんなことを聞いた。
「特別に無料で貸し出します」
「む、無料……?」
「ただし3ヶ月限定です。その間に次の住まいを探してください。もちろん、お気に召したら購入していただいても構いません」
「わかりました」
影山は深く息を吐いた。
胸の奥にあった不安が、少しずつ溶けていく。
(タワーマンションか……俺には合わない気もするけど)
ほんの数ヶ月前まで、残業代も出ない社畜だった自分が、一流企業のタワマンに住む――。
現実感がない。
(……まあ、長い旅行くらいに考えるか)
影山はそう自分に言い聞かせた。
だが胸の奥では、ほんの少しだけ期待が膨らんでいた。