軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

本当によかったのか、とシュオウは自らに問いかけていた。

フクロウと自称する、よく知らない相手の協力を受け入れたことに対してである。

彼が国を裏切ってまでシュオウを助けて得をすることが何も思い浮かばないのだ。罠や裏切り、不安要素をあげればきりがない。

――でもこれは。

フクロウから受け取った使い古しの街の地図は役に立つ。事細かに地区ごとの抜け道などが記され、古い情報から新しい情報へ書き換えられている箇所も一つや二つではない。

もし申し出に嘘がなければ、地図一枚差し出すことが彼にとってどれほどの裏切り行為なのか計り知れない。

――嘘じゃなければ、そのほうが遥かに得るものがある。

結局、シュオウの心はそうしたところに落ち着いた。どちらでも起こりうる事を天秤にかけ、利益の大きいほうを選んだのだ。

シュオウに対して、フクロウという一人の男が、あのときみせた顔が、声が、真摯な目が、価値があると強く訴えていた。それだけの価値はあると。その勢いにほだされたのもまた、受け入れを決めた理由のひとつでもあった。

「シュオウ殿――」

急にささやき声が耳元で鳴った。

「――わたしです」

フクロウだった。が、声の主はこの場にいない。

「後方の物陰にて身を隠しております。能力の応用で声を耳元へ届けているにすぎません」

「俺の声は聞こえるのか」

「肯定です。流れを維持できている間は囁き声でもとどきます、距離に限りはありますが」

「先に出るように言っていたのはこれを教えるためか、便利な力だ」

フクロウはくふっと特徴的な笑声を漏らした。

「シュオウ殿、わたしはなにをすればよいでしょう」

「ジェダ・サーペンティアが捕らえられた原因になっている事件のあった場所へ行きたい。案内を頼めるか」

「他のお仲間を探さなくてもよいのでしょうか」

迷いが生まれた。

シガについては、むしろ彼に関わる他の人間の身の安全のほうが心配なほどだ。

アイセとシトリの両名は心配ではあるが、彼女たちは生粋の輝士である。潜伏に成功している以上、いまは信じておきたかった。

「情報収集を優先する。正攻法でジェダ・サーペンティアを救出できる可能性があるなら、まずはそこを探りたい」

シュオウは自分の考えを整理するように語り、伝えた。

「承知。公子の無実を晴らす証拠、たしかにそれを手に入れ正面から自由の身とできれば、ムラクモ特使団を拘束する理由はなくなります。もっとも穏便かつ懸命な方法――これより道筋をお伝えいたします」

――簡単にはいかないだろうな。

フクロウの指示通り裏道を歩きながら、自分を戒める。

今回の事を仕掛けた人間は、ジェダを狙って手中に収めたのだ。正攻法でこれを解決しようとした場合、公の場で一言の反論も許さないほどの完璧な状況でも用意しなければ、仕掛け人がジェダを手放すことはしないだろう。

「あいつがやっていないと、この国の人間がそれを信じられるのか」

「公子には動機がありません。任務で派遣されているこの状況であえて殺人を犯す理由がない。結果と動機の不一致は根本に嘘があるからです。つまり公子は濡れ衣を着せられたか、言われている通りのことをしていたとしたら、何者かから強制されたと考えられます。が、後者は考えにくい。ただ――」

フクロウが言いにくそうに言葉を切った。

「なんだ」

「推量ですが、公子が狂人であれば話は別だと。わたしは件の人物をよく知りませんので、悪評を元に像を想像すればあり得ることと思ったのです」

「狂人、か」

記憶によぎったジェダ・サーペンティアの立ち居振る舞いに狂いの気配はない。ただその悪評が凄まじく轟いていることは、この国へ入ってからの人々のジェダへの反応でよく知っている。

「あいつが嫌われている理由を知っているか」

「戦場で四肢や頭、胴をバラバラに切り捨てるのだと。輝石との繋がりを絶たれた身体は葬儀のさいに取り残され、完全な状態で神の元へ帰ることができなくなります。北方はリシアの教義を拠り所とする宗教国家の集いですので、こうした事を特に忌み嫌います」

ジェダの悪評のほとんどは戦場での手法、いわゆる殺し方にあるのは間違いない。

「恨まれて当然、か」

「はい、我々にはこのうえない侮辱。当然、激しい戦闘のなかで美しく死ぬ者ばかりでないのも事実、しかし公子は毎回同じ方法を徹底していた。故に方法そのものが署名のような役割を発揮するようになったのでしょう」

――あいつもそんなことを言っていた。

ムラクモの平民階級にある傭兵達は殺した敵の手首を切り取るのだ。どのみち北の民からは嫌われる存在に違いないが、ジェダの場合は快楽のためにそれを行っていると思われている。そうフクロウは解説を続けた。

また、ジェダにとっての災いは輝士としての技量に優れていた点にもある。貴族階級にあるターフェスタ輝士たちを数多く屠ってきた手腕のせいで、その悪名が知れ渡ってしまったのも当然の帰結であった。

「その細道を抜けると大きな商店の正面にでます。そこからは目立つ大通りを歩かねばなりませんので、警備兵らにはご注意を。よほどの事がないかぎり、下級兵が輝士へ声をかけてくることもありませんので、輝士服を剥き出して歩くほうがむしろ溶け込めます」

フクロウからの注意を受け、シュオウは細い路地の内から外の大通りを覗き込む。

言われた通り、目の前には大きな商店があり、大きなガラス窓の向こうに絵や彫刻などの美術品がいくつも見えた。

「シュオウ殿。一時、わたしに単独行動をお許し願いたい」

急な申し出にシュオウは後ろを振り返った。姿はないがフクロウがどこかから見ているはずだ。

「どうした」

「あなたに拘束される前、仲間にだけわかるよういくつかの情報を残してきたのです。その後の我が部隊の動向を探りたい……と考えるのですが」

よし、と即答はできなかった。

フクロウの言い方はどこか明朗さを欠いている。だがそれは彼がシュオウに対して不興を買わないかと心配しているのだとも思えた。

――いまさらの心配は無意味だ。

一度信じて手を差し伸べた相手なのだ。中途半端な信頼は、むしろ自らの墓穴となりかねない。

シュオウは自分を戒め頷いた。

「わかった。最適だと思う行動をとれ」

「感謝します。その髪の変装に関する情報も残しました。万が一に備え、変更を加えることを進言いたします。後ほどまた合流を――」

そう言い残し耳元にあったフクロウの気配が消えた。

フクロウの指摘通り、シュオウは地面に落ちていたガラス片を拾って長髪のカツラを短く切り落とした。眼帯を隠すため前髪だけは長いままだ。

裏路地の影から大通りの様子を注意深く観察した。

見えるかぎり、街の様子は穏やかだ。

数は多くないが市民の行き来もあり、裏で起こっている有事を予感させるような気配はない。

木箱をたくさん積んだ牛車が、のんびりと前を通り過ぎていく。

裏路地から見える外の様子が、しばらくの間、牛車の横っ腹に隠された。

牛車が通りすぎると、先程まで誰もいなかった商店の前に、赤と黒の服を着た輝士が立っていた。

女の輝士だ。

全身を映すガラスの前に立ち、服のすそを引っ張ったり、前髪を直したりと身だしなみを気にしている。

ガラス越しに見える彼女の姿に、シュオウはときを忘れて見惚れた。

年の頃は二十歳前後ほど。揺れる長い銀の髪、長いまつ毛、丹精な顔立ち、印象的な銀色の瞳はツンと端が上がり気の強さを漂わせるが、潤んで揺れる白銀の虹彩が知性と優しさを秘めている。姿勢も良く胸を張る立ち姿は、月光を受けて儚く咲く一輪の花のようだった。

――美人。

思わず心中で呟いてしまった一言に、頭をふって雑念を消す。

その女輝士はやたらに長い棒のような物を担いでいた。綺麗な白い布で包まれているせいで中身は見えない。

身だしなみに満足がいったのか、女輝士はガラスから視線をはずし、足を前へ運んだ。そして、おもむろにくしゃみをするような動作をとった。

シュオウが優れた動体視力で捉えたのは、美しい彼女の顔がゆっくり歪み、すっきりと整った鼻から透明な液体が二本、穴から這い出てくる毛虫のように顔を覗かせた様子である。

くしゃみをした勢いのまま前倒しに身体が流れてゆき、垂れ下げて設置されていた商店の看板に思い切り頭をぶつけ、弾かれたように背中から倒れこんだ。

まるで罠にかかった野生の動物だ。

呆然としてシュオウが様子を伺っていると、その女輝士は痛みに顔を歪めながら瞬きを繰り返す。

しまった、と思った時にはもう遅かった。女輝士とシュオウの目線がぴたりと合わさっていたのだ。

女輝士は立ち上がり路地の影で様子を見ていたシュオウへ向けて手を振り始めた。その顔にはべったりと二本の鼻水がついたままだ。

――逃げるか。

否、とすぐに自らの考えを却下する。

どのみち表を歩く必要があるのだ、可能なかぎり穏便にやり過ごしたい。

女輝士はシュオウの前に立つなり質問を投げてよこした。

「あなたは……地区の担当官ですか?」

温めたミルクにたっぷりと砂糖を入れたような声だった。

シュオウは曖昧に頷く。

「ああ、はい」

女輝士はシュオウのつま先から頭の先までじっくりと観察して、

「そう……ご苦労様です。どこへ向かっているのかしら」

口調は丁寧だがどことなく高圧的な気配を感じる。高位にある者が持つ特有の空気だ。注意せよ、とこれまでの経験が警鐘を鳴らした。

「再調査のため、ムラクモ特使団の一人、ジェダ・サーペンティアが関わった事件現場へ向かう途中です」

嘘を混ぜず、話すことのできる範囲で正直に答えた。

「どこの誰からの指示です?」

「答える権限がありません。急ぐように言われているので、もう行ってもいいですか」

女輝士の顔つきが一瞬険しくなった。

「……ええ、いいわ、お先にどうぞ」

さらに詰問されるかもとおもったが先へと促された。

――やりすごせたのか?

彼女の言うとおり別れを告げて先を歩くも、女輝士は堂々と後をついてくる。

あやしまれている可能性、ただ同じ方向へ向かっているだけの可能性、どちらもありえる状況である。

――とりあえず。

シュオウは振り返り、じっとこちらを凝視する女輝士にむけて自分の鼻の下をつついてみせた。

ぺっとりと濡れた鼻に気づいた女輝士は、顔を赤く染め小さく悲鳴をあげていた。

フクロウに教えられた通り地図を頼りに進み、目的の事件現場に到着した。その間、あの女輝士はずっと後をついてきている。

現場の建物の前には複数名の警備兵たちがいた。本来なら様子をみつつ、どうやって中へ入るか検討したいところだが、後ろからじっとこちらを観察されているせいでそれもできない。

シュオウは間を置くことなくそのまま建物の入り口まで向かい、兵士達に声をかけた。

「なかを見たい、入れてもらえるか」

彼らは困惑した様子だった。

「あ、ええと、どこからも話がきておりませんが。上からは許可がでている者以外入れてはならぬと厳命されておりますので……。もしよろしければお名前と所属の確認を」

機嫌をうかがいつつの不安そうな物言いであった。

応じた兵士以外の者達も、輝士の怒りを買わぬかと怯えが見えるが、それでも武器を握る手に力を込めているのがわかる。

――どうする。

ここでひけば、背後にいる女輝士に怪しまれる。

警備兵らにもなんらかの注意を促す触れがでているのだろう、すでにシュオウに対して強い警戒心を持っているのを隠そうともしていない。

背後からひとが歩み寄ってくる気配があった。

あの女輝士が懐から紙を取り出し警備兵らに向けてつきつける。

「ワーベリアム准将の命により、この建物を精査します」

女輝士が言い放ったその一言に警備兵らが色めき立った。

「ぎ、銀星石さまのご命令ッ!?」

「部隊長はだれです」

「わ、わたくしですが」

「署名、およびワーベリアムの定紋、淀み無くここにあります。通していただけますね」

「も、もちろんでございます」

「それと、これは密命にからんだ作戦ですので、他言無用に。そうしていただければ、ワーベリアム准将もきっとお喜びになることでしょう、あなた達の好意は、私の口からきちんとお伝えしておきます」

「は、はい! 我らのような者にはもったいないことですッ」

嬉しそうに顔を合わせる兵士らに、女輝士はふわりと柔らかい微笑みを向けた。それを受けて兵士たちは熱に浮かされたようにぼうっと彼女の姿に目を釘付けにしている。

開かれた扉の前に立ち、女輝士が誘うようにあごを流した。

「あなたも用事があったのでしょう? どうぞ、お先に――」

言葉尻にトゲを含んだ、拒否を許さない誘いだった。

騒ぎになることを嫌い、シュオウは女輝士の招待を黙って受けることにした。

誰もいない建物のなかは静まり返っている。歩くたびに床がきしむ音だけが室内に広がった。

木造の邸は古いが天井は高く造りは悪くない。

二階へ続く階段の奥にある出窓から、薄い陽光がホコリを照らしながら降り注いでいた。

部屋に入って眼にはいるのは、いずれも持ち主を失った怪しい品物の数々。それらの様相を見るに、ここで商いを営んでいた男が、あまり質の良い人間ではなかったのではと、生前の姿を想像させる。

前回ここへ来たときよりも若干落ち着いた心地で観察ができる状況ではあるが、後ろから鋭い視線を向けられていることを、シュオウは気にしていた。

「ムラクモ特使団の一人、ジェダ・サーペンティアが殺めた人物が発見された場所がここ、ね」

女輝士は確認するように言って室内のあちこちを覗きながら歩を進める。

「かもしれない、だ。証拠もなく強引に疑いをかけられた」

「……まるで当事者のような口ぶりね」

シュオウは無視して切断された遺体が置かれていた奥の部屋へ向かう。

部屋のなかは血溜まりがそのまま残されていた。一番の目当てとしていた遺体はすでにない。

現場の観察はじめる間もなく、女輝士からトゲのある声がかかった。

「よく迷いなくここに辿り着けましたね」

シュオウは振り返り、彼女を見つめた。

こうまで露骨な態度をとられれば、疑われていることは百も承知である。

「ジェダ・サーペンティアが連行されたとき、現場に同行していた」

「誰かから聞いた、ではなくですか? 当夜ここへ同行するような立場にあったならば、さきほどの外でのやりとりに違和感があります。警戒態勢にあるいま、たしかな証明も持たずに任務につくはずがない。あなたは、ターフェスタ、ムラクモ、どちらの側に立ってここへ来たのでしょうね」

女輝士は手に持つ長い得物を構えた。

「俺は――」

言いかけた言葉を女輝士が強く制する。

「もはや嘘はいりませんッ、うまく化けているつもりでしょうけど、その輝士服は私が弟子に祝として贈った特注品。棒術の邪魔にならぬよう肩まわりをあえてゆるく作らせてあるのです。それに、さきほど転んだとき、見上げて見たあなたの服の隙間から微かにカトレアの冬華紋が見えました。この国でただ一人しかつけることが認められていないものを堂々と腰に下げている。それこそが、この国の事情に疎い異国人であるという証です」

シュオウは溜息をついた。

――なるほど。

つまり彼女には出会ったそのときから見破られていたのだ。

「状況を鑑みるに、おそらくあなたは逃亡中のムラクモ人ということになる。答えなさい、あの子を、ナトロをどうしたのか!」

女輝士は怒りで目の奥に炎をたぎらせていた。

「なにもしていない……とは言えないな。地下で意識を失っているが、凍えない程度に服は着せてきたし、拘束もしていない。今頃はもう目を覚まして仲間の元へ戻っているだろう」

「信じるに足る証拠はありますか」

「調べればいずれわかることだ、嘘を言ってもしょうがない」

構えたままの女輝士は僅かに視線を下げ「たしかに」と呟いた。

「いまは信じましょう。ただし、嘘であればただではおかない」

そう言って構えをとくが、棒を握る手は力を失っていない。

「で、どうする」

簡潔に核心をついてシュオウは問うた。

女輝士は肩をすくめた。

「さて、どうしましょう。ここであなたを拘束するべきなのでしょうか」

「予め言っておくが、抵抗するぞ」

「騒ぎを起こせば外の兵士たちが集まってきますよ」

「問題にならない」

即答すると女輝士は困惑した顔をした。

「虚勢で言っているようには見えない……自信家なのね」

シュオウは僅かに腰を落とし、眼を大きく見開いた。

眉をひそめて女輝士は思索をめぐらせていた。

張り詰めていた空気がゆるやかに、日常を取り戻していく。

「騒ぎをおこすのはやめておきましょう、それは私も望まないことなので」

女輝士は左腕の袖をめくり、突き出すようにして輝石をさらした。

ひと目でわかる特別な石だ。見たこともないほど冷徹で威厳ある銀の輝き。アデュレリアの氷長石などで目の当たりにしてきた他を圧倒する存在感だった。

「燦光石、だな……」

「お目が高い、私の名はプラチナ・ユガ・ワーベリアム、ターフェスタ公国軍准将の身にあり、神より銀星石を賜りし一族の長」

「ワーベリアム――さっき外で見せていた命令書は」

「ええ、私自身で用意した物です」

「……そういうことか」

身分を偽って事件現場へ現れながら、騒ぎを嫌い、別人のふりをして自分が用意した命令書を振り回して行動している。つまり彼女にも事情があるのだ。

「あの、想像していた反応と少し違ったというか。正体を明かせば、もう少し、こう……驚いてもらえるかな、と」

少し悲しそうな顔をしながら期待はずれ、といったふうにプラチナが零した。

「慣れているから」と返すと、プラチナはきょとんとして首を傾げた。

ターフェスタでも指折りの貴人であるプラチナは、突然シュオウへ向けて軽く頭を下げた。

「なにはともあれ、我が国があなた方へした非礼の数々をまずは謝罪します。和平のために訪れた特使へ、あってはならない対応であったと聞いています」

微かに頭を垂れるプラチナを、シュオウは嫌悪を含む視線で見た。

「その言葉に意味はないんだろう」

冷たく突き放すようなシュオウの言に、プラチナは顔を上げて不安そうに眉を落とした。

「え……」

「あなたの力で今すぐジェダ・サーペンティアへの疑いを晴らし、ムラクモ特使全員を無事に帰国させることができるのか」

「……そうしたいと願ってはいます。が、すぐには、無理でしょうね」

プラチナはこの状況を憂いているまともな人間である。シュオウは他国の格下に当たる軍人へ頭を下げた彼女の態度をみてそう理解していた。

先程外で起こったこと。警戒を強く言い聞かされているはずの兵士たちが、プラチナ・ワーベリアムという名を出されただけで上官の命令をあっさりと捨て置き、塗り替えてしまったという事実が印象に残る。それはプラチナという人物に、相当な人望、権力がなければ起こり得ない光景だった。

それだけの力を持つ人間。燦光石を持つ者が、自らの国が犯した過ちを認め、頭を垂れた。

それは事態を良い方向へと導く光のようにも思えるが、一方で仮初の灯火にも見えるのだ。

この国でも有数の高い地位に身を置くはずの彼女は、こそこそと隠れるように身分を偽ってここにいる。それが気に入らなかった。

「上辺だけの言葉は意味がない。いまは力が必要だ。俺に謝るくらい今の状況を憂いているなら、銀星石という名と力で、この状況を作り出している人間を、直接止めることはできないのか」

「プラチナ・ワーベリアムという名は……私はここにあってはならない身なのです。やり残してきたものを片付けるため――」

プラチナは事情を語りだした。

一年以上前からはじまっていたターフェスタ市街地での殺人事件、ジェダの拘束や現在の街で不穏な空気が漂いだしていること。ターフェスタの領主との間にある不協和音。

「ここで起こった殺人行為が、その犯人がしたことかもしれないと考えた、か」

「ええ、その可能性を考えました。もしそうであるなら、犯人を捕らえて、サーペンティアの公子へかけられた容疑もはらすことができるのではと」

「あいつは言っていた、すべて仕組まれていたことだと。あなたのいう偶然に起こった事件をなすりつけられたんじゃない、初めからあいつをハメるために捏造された事だったと思っている」

プラチナは顎に手を当て考え込み、

「まだわからないこと、知らないことが多すぎる……共に行きましょう」

急な申し出に、シュオウは首を傾けた。

「どこへ」

「ここにある状況は一通り目を通しました。次は被害にあった方の遺体を収容した場所へ向かいます。自らの目で見て調べてみれば、もっと情報を得られるかもしれない。これ以上ここで話していても推測をかけあうだけでしょう」

「……俺がついて行かないといけない理由は」

プラチナは手を打って、

「ありますとも。いかなる状況であろうとも他国の軍人が潜伏しているのを知って野放しにはできません。弟子の安否も未確認ですし、なにより、あなたはどことなく頼りになりそうな雰囲気が――」

こんどはシュオウがきょとんとさせられた。

「――地図は、読めますよね」

打算を込めたプラチナの微笑が、シュオウへ燦々と降り注いでいた。