軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

大戦 5

大戦 5

「速やかに門を確保、全員警戒を怠るな!」

城壁と門を越えたアリオト兵らに対して、バレンが緊張した面持ちで指示を叫んだ。

消火用の水を溜めた樽が無数に城壁の内側に置かれている。地面や階段など、いたるところに矢束が積みわらのように置かれ、無造作に集められた武器なども含め、ユウギリは必要な戦支度を整えていた様子が窺えた。

シュオウはユウギリの兵士たちからの挨拶を受け取った後、先行して街に入った兵士らに続いて門をくぐった。

バレンが機敏にシュオウの下に駆けつけ、

「いまのところ、市中からも抵抗の気配は感じられません。兵を分散させ、各区画の制圧を急ぎます」

しかし、シュオウはバレンに首を振り、

「まだだ、ゆっくりでいい。全員を門前の広場に待機させろ」

バレンは小気味よく頷き、

「はッ」

慣れた様子で、兵士たちに待機場所を指示していく。

軍の半数以上を門外に置きながら、門の内側に適量の兵士たちが入り、整然と列を成して待機する。

無数の町人たちが集い、その様子を窺っていた。

当然、そこに異国の軍隊を歓迎する態度はない。が、敵意を露わにする雰囲気も見られなかった。

大勢の兵士を従えながら、シュオウは馬に乗りつつ、副司令たるエゥーデ・ボウバイトと肩を並べていた。

エゥーデは景色を訝りながら眺め、

「伏兵が潜んでいるやもしれん、いますぐ兵を街中に放て」

シュオウはすかさず、

「焦って兵を動かせば、住民たちを怖がらせる。今はまだいい」

エゥーデは険しくシュオウを睨めつけ、

「今は、だと? 浅場に軍を置いただけで敵地を支配したことにはならん。その地の民を力でねじ伏せ、初めて占領したと言えるのだ、そちらがやらぬと言うなら、我がボウバイトの兵を使い――」

シュオウはエゥーデを睨み返し、

「勝手に兵を動かすな。部下の兵士たちに、この地にある物に手を出すなと命じておけ」

ボウバイトはユウギリでの略奪を望んでいる。その意志を伝え聞いていたシュオウは、先んじてエゥーデに警戒の意を伝えた。

エゥーデは不機嫌に唸り、

「ほう、司令官殿はお仲間だけで戦利品を独占しようというおつもりか? 遠方よりはるばる、大軍を用意して加勢に応じた我々に、米一粒の見返りすら求めるなと?!」

声はしだいに大きさを増していく。

険悪な雰囲気を察し、しだいに二人の話し合いは、兵士たちの注目を集めていった。

「ユウギリの住民たちは平穏を求めて降伏することを選んだ。その人たちから、生きる糧を奪い取ることは許さない」

エゥーデは声を荒げ、

「略奪は戦争の常だッ、現地の軍が行うそれも、大公殿下が咎められることはない。貴様らに付き合い、深界でもっとも多く兵を損耗したのは我が軍なのだ! ボウバイトはその見返りを得る権利があるッ」

異なる出身の者たちが入り交じるターフェスタ軍に、動揺と緊張が広がっていく。

シュオウは彼らの視線を一身に受け止めながら、

「ユウギリは現状のままターフェスタ大公に引き渡す。これ以上話し合う気はない。俺の決定に従うつもりがあるか、ボウバイト副司令」

あえて、周囲に聞こえるよう声量をあげて言った。

エゥーデは両目を大きく見開き、顔に幾重もの皺を刻みながら、堪えるように口元を大きく歪めた。

「兵たちよ、司令官のご命令が聞こえたな? 許可なくこの地にあるもの一切に手を触れるなとの仰せである。全員、老馬の如く膝を折り、なにもせずその場に控えて待機せよ……ッ」

周囲に侍る増援軍の兵士たちに、怒声を交えてそう伝えた。

シュオウは怒りを押し殺すエゥーデから視線を外し、

「アガサス重輝士、指示を伝えろ。従わなかった者は――クロム・カルセドニーが受けたものと同じ罰を与える」

バレンは、

「はッ、全軍に徹底させます――」

敬礼し、兵士たちの元へと駆けだした。

大きな舌打ちをした直後、背を向けて下がっていくエゥーデをすれ違い様に見送りながら、代わりにレノアが前に進み出る。

「略奪はともかく……将軍の言ってることももっともな話だ、領民たちを完全に信用するのは危うい、街中の状況は確かめておいたほうがいいだろう」

シュオウはレノアの言葉に頷いて、

「そうだな。余計なことをせず、命令を忠実にこなせる兵にやらせたい、そっちに頼めるか」

レノアは鷹揚に頷き、

「たしかに、うちらが適任だ。やれというなら今すぐ取りかかるけど」

シュオウは返答を渋って考えにふける。少しの時間をおいて、

「……ここを支配していた組織の残党がいる。街を知らない兵を放てば、問題が起こるかもしれない。制圧にかかる前に、この街をよく知る人間に協力を頼む、始めるのはそれからだ」

街を覆っていた暗い影が祓われたせいか、異国の軍隊を迎える町人たちの雰囲気は、思いのほか明るかった。

「あれが、北方の軍隊か――」

「本当に、大丈夫なのか……?」

不安と物珍しさを織り交ぜた町人たちの言葉を耳に入れながら、街の歴史が激変するこの瞬間を、セナは師であるミヤシロと共に見守っていた。

目に慣れない赤い軍服を着た軍人の見た目に、大勢が関心を寄せるなか、セナは暗い顔で湿った重い溜息を吐き出した。

「はあ……」

それは、大勢の怪我人たちの世話を見ていた疲ればかりではなかった。

隣に立つミヤシロは柔く笑み、

「まだ気にしているのか」

セナはふくれっ面で唇を突き出し、

「だってさ……なにも言わずに行っちゃったんだよ……シュオウの、ばか……」

「遊びにこられていたのではない、あの方には目的があった。それを果たした故、ここを去ったのだ」

セナは退屈そうに視線をさげ、

「ぶう……」

子どもらしく、拗ねた態度を露わにした。

その時、

「おや……噂をすれば耳に届くというが……」

ミヤシロがなにかを気にかけて息を漏らす。

セナは顔をあげると、

「あッ?!」

占領軍のなかに身を置きながら、街の中心部へ向けて歩くシュオウを見つけ、セナは思わず顔を綻ばせた。

すぐ目の前を歩くその姿を見つけ、

「シュオ――」

セナが集団から抜け出そうとして足を踏み出した瞬間、ミヤシロが肩を掴んでそれを制止した。

その直後、芸術作品のように美しい容姿をした男が、シュオウの背中に赤い外套を羽織らせる。

シュオウが煩わしそうに後ろを振り返ると、

「気さくなのも結構だが、占領軍の司令官としては格好がつかないだろう」

外套を羽織らせた男が、微笑みながらそう言った。

道を埋め尽くす輝士たちがシュオウに向けて一斉に敬礼をした。貫禄のある軍人や、人目を引く強靱な体躯をした南方人の戦士が、付き従うようにシュオウの後ろをついて歩く。

この場において、この集団の序列の最上位に立つ者が誰であるか、目の前の光景のすべてが、一つの答えを語っていた。

「あの若さで……?」

「俺たちと同じ石だぞ……」

「あれが、あの――」

町人たちの驚きの声が、絶えることなく漏れ伝わってくる。

輝士、従士を問わず、大勢を従えるシュオウを前に、セナは言葉を失い、呆然と立ち尽くした。

ミヤシロがセナの身を引き寄せ、

「我々とは違う世界におられる方だ。巡り合わせで、ほんの一時運命が交わっただけのこと、寂しく思う必要はない」

出会いから短い間ながらも、セナにとってシュオウは、まるで長く共に過ごした兄弟のように、互いに通じるものを感じながら側にいられる 希有(けう) な存在だったのだ。

強さと恐さを秘めていながらも、どこか隠しきれない彼の優しさも、心地良かった。

相棒のように共に街中を冒険した刺激的で楽しかった時間を思い、セナはがっくりと肩を落とす。寂しく思うな、と言ったミヤシロの言葉は、まるで心に響いてはいなかった。

――寂しいよ。

まるで別人のように、高級な外套をなびかせながら、大勢の軍人たちにかしづかれる姿を見ながら、セナは孤児として過ごしてきた日々の寒さを思い出す。

――いやだ。

通り過ぎていくシュオウから視線をはずし、地面を見る。重くなっていく目から涙を浮かべながら、セナはその場にしゃがみ込んだ。

その時、周囲のざわめきが強くなっていくのに、セナは遅れて気がついた。

隣に立っていたミヤシロが膝を落とすと、周囲の町人たちも、それに倣うように腰を低く落とし始める。

セナがゆっくりと顔をあげると、

「大丈夫か?」

目の前に立っていたシュオウが、心配そうにセナの顔を覗き込んでいた。

そっと差し出された手を見つめ、

「……へへ、大丈夫」

セナは目に涙を溜めながら、シュオウの手を握りしめる。

シュオウは微笑して、

「ジェダ――セナだ、ここにいる間に助けられた」

あの、彫刻のように美しい輝士の男にそう言った。

ジェダはセナの前に立って敬礼し、

「シュオウの恩人ということなら、君を歓迎するよ、セナ殿」

凍えるような寂しさを一瞬で忘れ去りながら、セナは胸を張り、シュオウの手を握ったまま、

「あれから大変だったんだからねッ」

驚いた顔で見守る町人たちに自慢するように、シュオウの前で思いきり胸を張った。

シュオウは幾度か頷いた後、その視線をそっとミヤシロへと移した。

「あなたの手を借りたい、少し話せますか」

真剣な眼差しで見つめられながら、そう言われたミヤシロは、周囲の人々の視線を受けながら、

「……承知、いたしました」

深々と辞儀をした。

街の中心部にある広場に仮の司令部が設置され、用意された天幕の下で、シュオウを中心として軍の幹部たちが顔を揃えていた。

集う面々の中には、ユウギリの指揮官であったノラン重輝士と、住民を代表してミヤシロが参加し、セナはシュオウの隣に席を取り、物珍しげに周囲にいる異国の軍人たちを眺めていた。

シュオウに招待されたミヤシロは、

「医師のミヤシロと申します、皆様方、弟子のセナ共々、どうぞお見知りおきくださいませ――」

名を告げて、腰を折った。

ミヤシロは続けて、

「――それで、私はなにをすればよろしいのでしょうか」

辞儀をしつつシュオウに問うた。

「ユウギリの占領に協力してほしい」

支配される側である住人に頼むには酷ともいえる内容に、場の空気が緊張を帯びる。

ミヤシロは静かに視線を下げ、

「このような老体に頼まずとも、そちらはこの街を占領するのに十分な力をお持ちのはずです」

「できるだけ穏便に進めたい。この街を知らない兵たちにまかせるより、この街を知る人間を側につけてやらせたほうが上手くやれる」

「それを、私に、と?」

「ユウギリに長く暮らしているあなたなら、ここにいる住民たちをよく知っているはず。協力してもらうのに適した人材を選んで、その指揮を頼みたい」

ミヤシロは一瞬、困惑した表情を浮かべながらも、

「……今のお話を聞くかぎり、この地を思ってくださるゆえのお考えと心得ました。わかりました、私などでよければ、協力をさせていただきましょう」

シュオウは小さく頭を傾け、

「ありがとう――」

その時、シュオウの隣に座っていたセナが手を上げ、

「私も手伝うよ! ミヤシロのじいちゃんより、ここには詳しいんだって、もう知ってるよね?」

誇らしげに言うセナに、シュオウは頷き返し、

「知ってる。でも、もう十分助けてもらった」

その時、天幕の片隅に席を取っていたエゥーデが露骨に咳払いをした。鋭い睨みが、シュオウを捉えて放さない。

一瞬、和んだ空気が再び緊張を帯びた頃、

「失礼します――」

天幕の外からレオンが現れ、シュオウの前で敬礼をする。

緊張した面持ちから、シュオウはなにかを察知し、

「なにがあった?」

「南方人の集団が出頭してきました。准砂から伺っていた、件の傭兵団だと思われます」

兵に誘われるままに、傭兵団の長、ロ・シェンが姿を現した。

褐色の肌をした武人たちが等間隔に並び、天幕の前の広場に集っている。

彼らを見たノランは、

「貴様ら……どこに隠れていたッ」

怒りと憎しみを込め、武人たちを強く睨めつけた。

先頭に立つロ・シェンはノランに反応せず、片膝を落とし、手を合わせて武人の流儀で頭を垂れた。

「一門を率いる身、ロ・シェンがターフェスタ軍司令官に目通りを願う」

その一言を合図に、背後に控える武人たちが同様の所作をして、一斉に頭を垂れた。その中には、シュオウの知るビ・キョウに、ロ・シェンに反抗したジ・ホクの姿も含まれる。

彼らの従順な姿勢を前にジェダは、

「ほう……」

どこか感心した様子で声を漏らした。

彼らを俯瞰するシュオウは、集団のなかに縛られて口を塞がれたアマイを見つけた。

「監禁していたのか?」

問われたロ・シェンは首肯し、

「止めても騒ぐので拘束した。傷つけてはいない」

シュオウはアマイを指さし、

「すぐに解放しろ」

指示を伝えると、兵士たちがアマイの下へ駆け寄り、手足を縛り付けていた縄を手早く切り落とした。

アマイは手首についた縄の痕を撫でながら、疲れた顔に怒気をにじませ、ロ・シェンを睨みつける。その視線は間もなく、シュオウにも注がれた。

アマイは周囲を囲むターフェスタの軍人たちを気にした様子で、なにか言いたげな表情のまま、静かに距離を取り、群衆のなかに待機する。

「で――」

ジェダは腰に手を当てながら跪く武人たちを睥睨し、

「――これはいったいどういう催し物なんだ」

その発言の直後、天幕の奥から食べ物を手にしたシガがのそりと姿を現した。

戦士としての並外れた気配を感じ取ったのか、あるいはそれが同郷の出身であることに驚いているのか、シガの存在に気づいた武人たちの中から、さざなみのようにどよめきが広がっていく。ロ・シェンはビ・キョウと視線を合わせ、警戒心と好奇心を合わせたような視線でシガを見つめた。

シュオウを中心として、左右にジェダとシガが待機する。

黄色と赤の軍服を着た兵士たちに囲まれながら、改めて、この場に緊張した空気が広がった。

シュオウはロ・シェンを睨みつけ、

「どういうつもりでここにきた」

ロ・シェンは険しい表情でその視線を受け止め、

「我ら一門はこの地からの退去を希望する。その許可を求めるため、自発的に出頭した……」

ジェダがくすりと笑い、

「自分たちにはその資格があると? 君たちはたしか、このユウギリを不法に占拠していた組織に与していた集団だったはずだが」

ロ・シェンは額に汗を滲ませ、

「……我らはあくまで支払いの対価によって戦力を貸していただけ。行いすべての責を負う立場にはない」

ジェダはロ・シェンの言葉を鼻で笑い、

「随分と都合の良い立場があるようだが、通常、戦争に敗北した場合、敗者の側についていた者は、どうであれ、同様に裁きを受けるものだ。君たちも戦闘集団である以上、雇われていただけだと言って許されるなどと、ぬるい考えをもって参戦していたわけではないだろう」

ロ・シェンは隠しきれない苛立ちを宿した目でジェダを見やり、

「我ら一門はターフェスタ軍司令の要請を受け、無償で指示に従い、そのすべての任務をまっとうした。その引き換えとして、司令官は一門の無事を保証した。それをもって 贖(あがな) いとし、責はすでにまっとうしたものと考える……」

言いながらも、どこか声の調子に力はない。

シュオウはロ・シェンに、

「協力には満足している、助かった。ただ、お前たちのしていたことを許すかどうかは、別の話だ」

言うと、兵士たちが武器を構えてじりと、足を前に踏み出した。

ロ・シェンは顔を上げて歯を食いしばり、武人たちは警戒心を露わに、周囲に視線を配った。

シュオウは皆を制すように手を軽くあげ、

「お前たちは弱った相手に不要な苦しみを与え続けた。それを知りながら、黙って見逃す気にはなれない」

ノランは一歩進み出て、

「極刑に処すべきだッ、今す――」

しかし、突如言葉を言い淀み、その視線を武人集団の一部に置いた。

その直後、武人集団の中から笑い声があがり、

「――ほら見ろよ、こうなるって言っただろう」

顔面にシュオウにつけられた傷痕を残す、百刃門の幹部の一人、ジ・ホクが言いながら立ち上がる。

ロ・シェンはジ・ホクを睨み、

「座れ、ホクッ」

ジ・ホクはロ・シェンを睨み、

「黙れ! 敵にへりくだって一門を危険に晒した、お前はもう大師範じゃねえ。俺は黙って命をさし出すつもりなんてない――」

ジ・ホクは言って、大股で前に進み出る。

「――お前ら! なにもせずやられる気なんてねえだろう!? ぬくぬくと過ごしてきた貴族のぼっちゃん嬢ちゃん軍人なんて怖くねえ、俺たち一門はガキの頃から命懸けで力を磨いてきた、それを使わずに死にてえ奴はいるのか?! さあ立ち上がれ、俺たちの力を見せてやろうッ、俺が新しい百刃門の大師範だ、俺に従えッ!」

威勢良く声を上げると、集団の中から、ちらほらと立ち上がる者たちが現れた。それを見てジ・ホクは笑み、シュオウに向かって駆けだした。

だが、

「ふ――」

ジェダが小さく笑み、その直後、一陣の突風がジ・ホクの横をすり抜ける。

足を止めたジ・ホクが振り返ると、立ち上がった武人たち全員が、不自然な姿勢で硬直し、直後にその首がぼとりと地面に落下した。

血の匂いが立ち上り、集団から動揺の声が漏れ広がる。

反抗の意思を示して腰を上げた武人全員が、一瞬にして絶命した。呆然として佇むジ・ホクに、暗い影がのしかかる。注意がそれていた間に距離を詰めたシガだった。

シガに気づいたジ・ホクは一瞬の戸惑いを見せつつも、豪腕で相手に掴みかかった。

シガはジ・ホクの両手に指をからめて掴み返す。両者ともに並外れた腕力を誇る者同士の衝突に、その戦いは一瞬均衡を保っているようにも見えた。だが、

「……ッ?!」

掴んだ手がじりじりと押され、徐々に膝を折らざるをえなくなり、ジ・ホクの顔色が青白く冷めていく。

シガは小さく首を傾げ、

「ふざけてんのか……?」

相手を見下すように嘲笑した。

ジ・ホクは呆然として、

「え……?」

直後、ジ・ホクの腕が、枯れ枝のように折れ曲がった。骨が砕け、鈍い音と、なにかが破裂するような音が同時に鳴り響く。

シガの豪腕に押し負けたジ・ホクは、無惨に腕をへし折られ、抵抗する力を失ったジ・ホクの体がその場に崩れ落ちた。

「うぎゃあッ――」

巨体の男が子どものように泣きじゃくる。

シガがとどめを刺そうと拳を構えた瞬間、

「止めろ、協力と引き換えに、彼らの無事を約束した」

シガは振り上げた拳を下げ、なにごともなかったかのように静かに身を引いた。

シガから何か言いたげな視線を向けられたジェダは、悪戯を叱られた子どものように目をそらし、

「……秩序を保つために仕方なく、ね」

頭を切り落とされて横たわる、無数の遺体を前にして 嘯(うそぶ) いた。

一瞬のうちに死を迎えた仲間たち、今も泣き喚くジ・ホクを前にして、ロ・シェンは大粒の汗を落としながら微動だにしない。それは反抗に乗らなかった他の武人たちも同様である。

シュオウはその場から一歩も動かず、

「条件と引き換えに、彼らの無事を約束した。だが、やっていたことを思うと、このまま見逃す気にもなれない。一時、全員を拘束して、したことに見合う罰を考える。シェン、この決定に不満があるか?」

ロ・シェンは顔を伏せたまま、

「ない……拘束を受け入れ、その後の判断を待つ……」

言いながら、地面に置いた手の平を、震えるほど強く握りしめた。

ロ・シェンの仲間である武人たちが、一斉に深く頭を垂れた。

「…………」

百刃門、という組織に対して、もっとも恨みを募らせているであろうノランが、なぜかほっとした様子で肩の力を抜いた。

シュオウは大人しく頭を下げる武人たちを睥睨し、

「捕らえろ」

短く命令を伝えた。