軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

先制 2

先制 2

「どう思う?」

カトレイの二人が出て行った後、シュオウは小声でネディムに問いかけた。

ネディムは伏し目がちに、

「……微妙なところです。幸い抵抗は思ったより穏やかなものでした。あのクロンというご老人がマルケ将軍を上手に諫めていたおかげもあるでしょう。あの人物が将軍の手綱を握っているのだとすれば、良い結果を得られるかもしれません」

「握っていなければ?」

口を挟んだジェダに、

「五分五分です」

ネディムは短く答えを返した。

シュオウは深刻な表情で、

「カトレイの戦力は必須だ」

ネディムは頷き、

「仰るとおりですが、現状ではまず、相手方の出方を待つしかありません」

ジェダが、

「ただ幸運が転がり込むのを期待してじっとしていても意味がない、僕が後押しをしてこよう」

ネディムは神妙にジェダを見つめ、

「後押し、というのはどのような手段をお考えで」

ジェダは不敵に笑み、

「あの男は僕の名前を聞いて酷く怯えた目をしていた。敬虔なリシア教徒には、この悪名が効果を持つらしい、利用しない手はないだろう」

ネディムは目を細め、

「方法を間違えば結果が大きく左右されることになる、軽はずみな行動は控えるべきです」

ジェダは冷たくネディムを一瞥し、

「僕はあなたの許可を必要とはしていない」

シュオウへ視線を向ける。

シュオウはジェダに視線を合わせ頷き、

「上手くやれ」

「僕の得意分野だ」

瞼を大きく開き上げ、ジェダは強くはっきりと破顔した。

外気が通る寒々しい露台に出たクロンとマルケは、外壁の影に身を置いて相談を始めた。

「馬鹿げている、ふざけた連中め……ッ」

声を潜めつつも激高するマルケに、クロンは落ち着いた態度で、

「あちらの求めを、将軍は拒まれるおつもりですか」

「拒むのは当たり前だろう! 前任の尻拭いに送られたあげく、なにもしないまま追い出されるだと? それではただ軍歴に傷をつけるだけだろうがッ」

クロンはそっと息を吐き、

「気にかけるべきはカトレイという名の信用、それこそ我々が心血を注ぎ育んできたものであり、数多国々に流通する貨幣の価値を保証する土台となっているものなのです」

マルケは下品に唾を吐き捨て、

「表面上、奴らの指示に従うふりはしてやってもいい、だが指揮官の解任などというふざけた要求を飲む気はさらさらない。クロン殿が言ったように私はこの地での責任者だ、本部から直接の指示がないうちは、指揮官の座を降りてなどやるものか」

クロンは首を微かに揺らし、

「頑固なお方ですな」

マルケは肩を怒らせ、

「失礼だが、年の割にはあなたが柔軟すぎるのだろう。なぜそうも相手の言葉を鵜呑みにしようとする、連中は所詮よそ者、そんな相手に大人しく従ってやる必要などないんだ。せめてボウバイト将軍の到着を待ってから対応を決めても遅くはない」

「しかし、あのネディムという人物、ターフェスタで強い発言力を持つ名門カルセドニー家の現当主にして冬華と呼ばれる大公が選んだ側近中の側近、その一人であったはず。それほどの人物が、あの東方出身の司令官の補佐をしている現状を見れば、なにが正統かの判断はたやすくつくというもの、ターフェスタ大公の意思は明白です」

マルケは口元を歪め、

「ならなぜ、奴らはこそこそと単独で先行してきた? 後ろ暗いことがあるからではないのか」

クロンはあごを上げ、

「彩石を持たない者、それも敵国の側にいた者が司令官に任命されたのです、ターフェスタの将兵らがどう思うかは考えるまでもない。我らは雇われているだけ、ターフェスタ国内の不和に目を奪われず、芯の部分を見抜かねばなりません。今見るべきは、司令官を名乗る者が、それを証明する令状を持ち、その令状を出した大公の側近が補佐として帯同しているということ。それだけわかっていれば十分、後々の円滑な関係を進めるためには、初めが肝心です」

マルケは多少のぼせた血を下ろし、

「だからといって……まだなにもしてないうちから失格の烙印を押されるなど……」

クロンは鋭い視線をマルケに向け、

「将軍、我々は支払いと引き換えに戦力として提供される商品にすぎません。商品は意思を持たず、ただ約束に基づいた労働をするだけでいいのです。あちらの求めが契約の内である以上、それを拒む合理的な理由も権利も、私達にはありません」

マルケは一時言葉を飲んだ後、

「いや……いやッ、やはりおかしい! こんなこと認められるか、私は神に愛されしリシアの威光を知らしめる高潔な使徒である、雇われであろうが、誇りを踏みにじられる事をよしとする契約など結んではいない。クロン殿がなんと言おうと抗うぞ、汚らわしいセプ・ティックの理不尽なわがままになど黙って付き合っていられるかッ――」

その時、両者の間を冷たい風が吹き抜けた。

微かに発光と緑色を帯びた風は、まるで踊りくねる蛇のように渦を巻き、美しい紋様を描いて消失した。

「――ッ!?」

それが晶気によって生み出されたものであると気づき、二人は出所を捜して、風上へ視線を送った。

そこに佇んでいた人物は病的に冷たい表情で、口元だけに薄らと笑みを浮かべていた。

マルケは汗を滲ませ、

「ジェダ・サーペンティア……?」

ジェダは微笑みを崩すことなく、

「お邪魔をして申し訳ありません。外の風に当たりに出たら、話し声が聞こえてきたもので。せっかくなので、少々お窺いしたいことがあるのですが」

マルケは固唾を飲み下し、

「な、なんだ……」

「神を信じるというのは、どういう感覚なのですか」

マルケは目尻に皺を寄せ、

「不躾に……」

「気になっていたんですよ、リシア教徒が死を悟った時、皆が神への祈りを口にする。僕も何度かこの耳で聞きました。どういうわけか、僕の手にかかり、切り刻まれたリシア教徒達は、あなた方の教えによると、穢された死に方に相当するらしい、そのせいで僕は北方では一際恨まれているし、憎悪や恐怖の視線を送られる。神を信じない僕からすると不思議に感じるのです、死んだ後のことまで心配して生きるというのは、いったいどういう気持ちなのか、とね」

言い終えると同時に、ジェダは口角を上げてマルケを 睥睨(へいげい) した。

マルケは感情を隠すことなく、怯えたように一歩退き、

「……神聖なる輝石は神が人に与えたもうた命そのもの。五体と共に石を砕き、完全なる形を持って天に召され、昇天する事がリシアの教義なのだ。それを穢し、あまつさえ冒涜行為をへらへらと笑って語るなど、許すまじ。私は決意したぞ、やはり東方の蛮人共の言いなりに指揮官の座を降りてなどやるものか」

ジェダは僅かに微笑みを消し、

「前任者の末路は聞き知っています。言われたとおり、僕は神を持たない蛮人かもしれないが、あなたが指揮官の座にしがみついて、戦場で同じ目に遭わなければいいと、試みに祈りを捧げてみることにしますよ」

ジェダは鼻で笑って、背を向けてその場から立ち去っていく。

その姿が闇に飲まれるように消えた後、呆然とするマルケに、クロンが腹部を指さし、

「将軍、服が……」

マルケは慌てて自身の服の裾を持ち上げると、衣服の布地部分だけが八つ裂きに切り刻まれていた。

マルケは血の気の失せた顔で服の下の腹を撫で、

「無、傷……?」

呆けた顔で、冷や汗と共にだらりと全身を脱力させる。

マルケは腹を押さえたままジェダが去って行った方を見つめ、

「………………」

視線を戻して黙したまま、クロンとしばらく目を合わせ、呆然と立ち尽くしていた。

逃げるように自室に引き上げたマルケは、割り当てられた居住区に辿り着いた途端、自室へと転がり込んだ。

閉めかけた扉の隙間から、

「私は睡眠継続の任を全うする」

クロンは首を傾けて隙間からマルケを覗き込み、

「将軍、ではこの後は」

マルケは苦々しい表情を浮かべ、

「身支度をして報告のために本部へ戻る、次が決まるまで代行をクロン殿にまかせるが、よろしいな」

クロンは辞儀を混ぜて鷹揚に頷き、

「お引き受けいたしましょう」

「では、あとのことは頼んだぞ!」

勢いよく扉を閉め、マルケは自室に閉じこもった。

クロンはしみじみと首を左右に振り、

――素直なお方だ。

ここまで何に阻まれることもなく出世を続けてきた男の処世術を目の当たりにしながら、クロンは通路の奥で控えていた輝士達に声をかける。

「聞いたかね?」

輝士達は微かに頬を上げながら頷き、

「はい!」

と小気味よく返事をした。

彼らの返事と顔付きはやたらに快活だった。日頃から高圧的だったマルケという上官に対しての思いが窺える。

「一時、指揮官代行を仰せつかった、君達は私の指示に従うか」

輝士の一人が進み出て、

「はい、ご指示に従います、クロン代行」

クロンは頷き返し、

「よろしい。では、すみやかに昼班の者達を起こし、待機を命じるように。新たな主の意向をまだ聞いてはいないが……備えておかねばな」

しばらくして、バーナ・クロンが戻ってきた。だが、一緒に出て行ったはずのマルケ将軍の姿はない。

シュオウがジェダに視線を流すと、ジェダは小さく口元を緩ませた。

クロンはシュオウ達の前で一礼し、

「マルケ将軍に代わり、私クロンが一時的に指揮を執ることになりました。カトレイはシュオウ殿をアリオト司令と認め、その指揮下に入ります」

クロンの言葉に、ミスクが顔色を悪くする。

「か、勝手にそんなッ?! せめてボウバイト将軍が到着するまでは――」

ネディムが風切り音を立てながら長衣の袖を上げて、

「静粛に」

厳しい口調でミスクの言葉を遮った。

シュオウはクロンに、

「カトレイは俺の指示に従うか」

クロンは表情を変えず、

「はい、ご命令が契約内容を逸脱したものでないかぎり、カトレイ派遣軍の指揮官は、アリオト司令の意に従い、任務を遂行いたします」

ネディムが持ち上げた長衣の袖を下ろし、

「では、指揮官交代の件についても?」

クロンはネディムに頷いて、

「よろしいでしょう、指揮官として正式な資格を持つ重輝士の中から候補者をあげます、その中から選んでいただきましょう。ですが、お望みの手続きに発生する手数料は決して安くはない、相応の額のお支払いを覚悟いただくことになりますが?」

ネディムは柔く笑み、

「わかっていますとも、金額の交渉についてはまた後ほど、その時を楽しみにしておきましょう」

含みを持たせた言い方に、クロンは不可解そうに片方の眉をつり上げた。

ネディムはシュオウに向かって辞儀をして、

「ということで、穏便に収まりそうです。強行軍の甲斐がありました」

シュオウは頷いた後にクロンに向けて、

「カトレイに命令する、宿舎、武器庫、厩舎、拠点内のすべての門と通路に兵を配置しろ、俺の許可なしに誰も通すな」

ミスクが目を見開き、

「なッ?!」

クロンは頷いて頭を垂れ、

「ただちに、実行いたします――」

側に控えていたカトレイ輝士に頷いて合図を送った。

カトレイ輝士は緊張した面持ちで頷き、指示を叫びながら足早に部屋を後にする。

脂汗を浮かべてじりじりと部屋の出口に向かって後退するミスクは、背後から肩に手を乗せられ、びくりと背を仰け反らせた。

ミスクの足を止めたジェダは、

「聞こえなかったのか、司令官の許可なしではここを出ることは許されない」

ミスクは硬直したまま声を荒げ、

「反乱を起こすつもりか!」

シュオウはミスクの怒った目に視線を合わせ、

「そのつもりはない。でも、今はこうする必要がある」

ミスクは声を詰まらせながらネディムに視線を移し、

「カルセドニー卿……あなたのような人が、このような暴挙を許されるとは、大公がこのことを知ったら……」

ネディムは涼しげな顔で視線を受け流し、

「なにも問題はないでしょう、私は司令官補佐としての務めを果たしているだけにすぎず、それは大公のご意志を反映した結果の成り行きなのですから」

ミスクは軽蔑するような眼差しをネディムに送り、痛みを耐えるような顔でクロンを睨めつけた。

「大公に雇われた傭兵でありながら、よくも……金の亡者どもめ、恥を知れ!」

クロンは真顔で、

「さて、大公の意思に反しておられるのはそちらであるとお見受けしますが……この状況ではなにを言ったところで納得されることはありますまいな。私は一旦、任務の様子を見てまいります、司令官はどうなさいますか」

シュオウは頷き、

「俺も行く」

「では、お先に――」

クロンは身をひいて入り口のほうへ手の平を向けた。

シュオウは足を向けつつ、

「様子を見てくる、状況がはっきりするまでここを頼む」

ジェダに指示を伝えて、シュオウは先頭を切って部屋を後にした。

新たな主と共に、クロンは黙々と通路を歩きつつ、現状の把握に努めていた。

「――両門の封鎖、完了」

「――城塞東側の通路を監視下に置きました」

粛々とカトレイの兵達が行き交うなか、現状報告が矢継ぎ早にクロンのもとに届けられる。

雇われとはいえ、ここまで共闘してきた間柄でありながら、カトレイ兵の矛先は、今やアリオトの兵士達に向けられていた。

起こっていることを想像できないほど、シュオウが下した命令は静寂の中で着々と進んでいる。

「輝士の宿舎はどうなっているのかね」

クロンが行き交うカトレイの輝士に問うと、

「第一付近は封鎖を完了、これから第二に取りかかります」

素早く答えが返ってきた。

「抵抗はあったか?」

シュオウの質問を受けたカトレイ輝士は、伺うようにクロンを見やる。

クロンは輝士に、

「質問にお答えしなさい」

カトレイの輝士は頷き、

「今のところ目立った抵抗はありません、多くは就寝中であったため、ターフェスタの兵達は未だに戸惑っている様子です」

クロンは幾度か頷き、

「深夜から早朝へと至るの間、そういった頃合いが良かったのでしょう。しかしアリオトの輝士や兵を押さえたところで、今後についてはどうされるおつもりでしょうか、ご存じかどうかはわかりませんが、いつまでもこれを維持できるほど、カトレイの兵力はここのそれを圧倒しているわけではありません」

シュオウはクロンの言葉を受け、

「後続が到着するまでの間だ、それまで時間を稼げればいい」

真剣な眼差しで言った。

クロンは自身が従う事を決めた主を横目に見る。

若く、彩石を持たず、そういった身の上でありながらアリオトの司令官などという、嘘のような不相応な地位を得ている。

彼の後ろに無言で控えていたサーペンティア家の公子然り、その他にも彩石を持つ武芸者や輝士達が、彼を統率者として仰いでいる様子に、シュオウという人物がどのような類の人間か、多くの人材を見てきたクロンには察しが付いていた。

シュオウが淡々とアリオトの封鎖を進めるカトレイ兵達を見やり、

「みんな慣れてるな」

感想を述べる。

クロンは雑念を振り払うように咳払いし、

「あらゆる状況に対応できるよう、訓練をしております。私は門外漢ですが、深界戦のために派遣される兵士は、深界拠点の制圧も想定した訓練を受けていたはず、今この状況では、そうした経験が役に立っているのでしょう」

シュオウは感心した様子で、

「そうか、場所に合わせて……」

そう語る横顔には、若さに似合わぬ深謀の気が滲んでいた。

「それで、後続が到着した後はどのように」

目の前の若者が司令官に就任したのと同時に、古くからターフェスタに仕えるボウバイト将軍が副司令に任命されているが、新たなアリオト司令官の態度を見るに、両者の関係が良好であるとは到底思えない。

「どうする、か……」

曖昧な言葉を選んだシュオウは、ただ鋭い眼光をクロンに向けた。

クロンは一瞬、獣のように感情の窺えない冷徹な視線を受け、喉の奥に感じた息苦しさに、唾を送って飲み下した。

シュオウが部屋に戻ると、待機していた仲間達からの視線が一身に寄せられる。

声を聞かずとも、皆が待っている知らせがなにか、シュオウにはわかっていた。

「全部うまくいってる」

各々がそれぞれにほっとした様子を顔に出し、肩の力を抜いた。

一番不安そうな顔をしていたクモカリは、

「ああ……よかった……」

大きな身体で、崩れ落ちるように床の上にへたり込む。

「よし、一旦落ち着けるならとりあえず飯だ、なにかないのか――」

荷物を漁り始めたシガを見てクモカリは、

「ちょっと待ってなさい、いまなにか用意してあげるから」

荷ほどきを始めた彼らを尻目に、アガサス家の親子やジェダは神妙な顔でシュオウの元に集まってくる。

ネディムもクロムと共にシュオウの前で辞儀をし、

「お見事でした」

シュオウは真顔で、

「なにもしてない」

ネディムは首を振り、

「いえ、ここまでの事はすべて、あなたの行動と選択によって得られた結果です」

ジェダはネディムに冷めた視線を送り、

「見え透いた機嫌取りで時間を潰していていい時じゃないだろう」

ネディムは不敵な笑みでジェダの視線を受け止め、

「その通り、重要なのはここから――」

その視線をシュオウへと移す。

「――増援軍を率いたボウバイト将軍の到着まで、そう時はかからないでしょう。問題はその後の事」

バレンが一歩進み出て、

「アリオトの兵にボウバイトの増援軍が加われば力の均衡は崩れるでしょう、我々とカトレイだけでこれを押さえ込もうとすれば、相当数が血を流すことになります」

ネディムは頷き、

「アガサス重輝士の言葉は事実です。我々はこの後、非友好的な将軍と、その支配下にある軍を向かえ入れなければならない、その後の情勢がどうなるかはまったくの不透明です」

ジェダは冷たくネディムを見つめ、

「出立前、策があるようなことを仄めかしていなかったか」

「予備の馬を配置し、これを取り替えながら絶え間なく深界を進み、アリオトに先着することについては私の進言と支度により叶えられました。カトレイの掌握についても、今のところは上手く運んでいる。ボウバイト将軍への対応方法についても多少の考えはありますが、語って聞かせるほどの確実性がある話ではありません」

成果を主張するように言いつつ、ネディムは次の手については曖昧に語った。

ジェダは棘のある声で、

「つまり、ここから先は手詰まりということだろう」

重くなりそうな空気を感じ、シュオウはおもむろに口を開いた。

「アリオトの兵も、カトレイも、増援軍も、すべて必要な戦力だ、彼らを傷つければそれを失うことになる。結果を残せなければ、俺達はターフェスタでの居場所を失う」

ターフェスタに人質として残してきた者達のことを思いつつ、シュオウは拳を握りしめる。

レオンが、部屋の隅に留められているミスクを見やり、

「ここへ到着して、彼らの態度には敵意しかありませんでした。想像していた通りとはいえ、やはり厳しい状況ですね」

声は届かずとも、ミスクの怒りを押し殺した顔を見れば誰にでも理解できる。

シュオウは部屋の壁際に一人向かい、壁に寄りかかるように腰掛けた。

「増援軍が到着するまでに、どうするか考える。ジェダ、少しまかせる、みんなを交代で休ませろ」

ジェダは頷きつつ、

「承知したが、僕の休憩はどうなるんだい」

「お前は俺の後でいい」

シュオウは軽く言って、直後に素早く寝息をたてはじめた。

ジェダは微かに微笑を浮かべ、即座に微笑みを消して振り返る。

「ここを一時的な仮の本陣とする」

バレンが頷き、

「警備は我らにおまかせを、付け焼き刃の関係であるカトレイを全面的に信用はできません」

レオンも進み出てジェダに対してムラクモ式の敬礼をした。

ジェダに視線を送られたネディムは、

「私は少し外の様子を見てまいりましょう、弟よ――」

言ってクロムを呼んだ。

クロムは眠そうな顔であくびを噛み殺し、

「なんだ……兄よ」

「お前はここは知っているだろう、案内をお願いできるかな」

クロムは肩を竦め、

「ま、いいだろう」

ネディムと連れだって部屋を後にした。