作品タイトル不明
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「私はただ自由がほしい」
初めてみた寂しそうなクシャナの表情に、キュッと胸が痛くなった。
昔、デューク様も「俺には自由がない」と言っていた気がする。上に立つ者ほど、窮屈な世界はない。ウィリアムズ家の令嬢と言う立場はなんて気楽なのだろうと自分でも思う。
「無責任だと思うか?」
私は思わず首を振る。
本来なら、なんて無責任なの! って言うだろう。……けれど、クシャナに対しては言えなかった。
クシャナがどれほどの責任や重荷を常に抱えているのか私には想像できない。
「なぜ、わざわざ記憶を消すのですか? クシャナから正式にシーナへと女王の権限を譲ればいいのでは?」
私はふとした疑問をクシャナに伝えた。
「アリシアには分からないだろうが、それが女王として最後にしてやれることなのだ。……私の記憶はない方がいい」
私には分からなかった。
その選択は、クシャナにとって最も辛い選択のはずだ。
「そんなの寂しいわ」
私は小さな声でそう言った。
「アリシアが魔法を使えば、君の記憶からも私は消えてしまうのか?」
「いいえ、私は覚えているわ」
「なら、それで充分だ」
……やっぱり、私には分からない。
けれど、それがクシャナの望みなら私はそれに従うわ。
「君はどこにいてもヒーローだな」
私はその言葉に固まった。
ヒーロー? いいえ、違う。
「………………私は悪女よ」
静かにそう言った。
そうよ、私は悪女なの。ずっと、幼い頃から確固たる意志を持って悪女を目指しているの。
揺るぎないこの覚悟だけは誰にも負けない。
クシャナは何も言わない。私が真剣なのを茶化したりしない。私をヒーローだという者に対して、自分で「悪女」と返しているのだから、否定したい気持ちはあるだろう。
けれど、クシャナは黙って私の言葉を受け入れてくれる。
私は恩知らずな悪女ではない。だから、ちゃんとクシャナのために魔法は使う。
「貴女の記憶を全ての人から消すのなら、私も貴女のことを忘れるわ」
私はその場に立ち上がり、彼女を見下ろすようにしてそう言った。
「……そうか」
彼女は少し驚きながらも、切なそうな表情を浮かべる。
もちろん、私はクシャナのことを忘れない。……忘れることなどできない。自分で自分の記憶を消す魔法はない。
「本当に全ての者から忘れられる覚悟はあるの?」
「そんな強い覚悟はないさ」
彼女はあっさりとそう答えた。
覚悟はないのに、どうして「民たちの記憶から自分を消す」なんて選択をできるのだろう。
私はクシャナの赤い瞳から目を逸らすことなく、「じゃあ、どんな覚悟があるの?」と聞いた。