軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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貧困村へとたどり着いた。……元貧困村といった方が正しいのかも。

……見ないうちに、随分と澄んだ空気になっている。

私が一番最初にここを訪れた時の面影は一切ない。治安の悪い汚い場所というイメージが一切なくなっている。

これも全部ウィルおじさんやレベッカたちのおかげなのね。

レベッカは私にとても感謝してくれているけれど、私は何もしていない。ただ、彼らに貧困村を改革するチャンスを与えただけ。

そのチャンスを活かした貧困村の人々の方がよっぽど凄いわ。

ゆっくりと村の奥へと足を進めていく。

ジルがいるとすれば……、ウィルおじさんの家かしら。

私はウィルおじさんの家の方へと駆け足で向かった。

久しぶりの場所に私は懐かしさを覚えた。この村でウィルおじさんに出会い、ジルに出会えたことで、私の人生は大きく変わったのだと思う。

「……ジル?」

私はそう言って、ウィルおじさんの家へと入って行った。

あれ……? ジルがいない?

ウィルおじさんの家の中にジルの姿は見えない。ベッドの下に隠れているわけでもなさそうだし……。

一体どこに行ったのかしら。

「絶対にここにいると思ったのに……」

私はウィルおじさんの家を出て、貧困村の中を探し回った。

意外と広いのよね、この村。

確かに軍事用に開発するのに適しているのかもしれない。

ぐるぐると村の中を回っていると、何もない土地の上に少年が突っ立っているのが見えた。

ジル! と心の中で声を上げ、私は彼の元へと急いだ。

彼の近くまで来ると足を緩め、そっと彼の隣に立った。私が横に立ったことを察したのか、ジルは右手で目をこすった。

私に涙を見せないように拭き取ったのだろう。

「アリシア、来たんだね」

「ええ」と短く答える。

ジルはぼんやりと何もない土地を眺めている。私は彼の言葉を待った。

「……ここ、僕の家だったんだ」

「…………そう」

「何一つ残ってない。けど、それで良い。両親との思い出もないし、家もないけど、僕には帰る場所があるから」

微かに震えていたけれど、確かな声でジルはそう言った。

「……ただ今は、アリシアがいるのに帰る場所がなくなったように思えるんだ」

「それぐらいウィルおじさんの存在は大きかったものね」

こういう時になんて声を掛ければいいのか分からない。

悲しんでいる人を慰める方法など知らない。それに、それを学ぼうとも思わない。

私はあくまで悪女だというプライドがある。傍から見れば馬鹿だと思うかもしれない。

そんなしょうもないプライドを捨てればいいと思うかもしれない。……それでも私にはこのプライドが必要なの。

このプライドが今の私を作ってきたのだから、……これだけは絶対に譲れない。

「前に進まないといけないって分かってるのに、どうしたらいいのか分からなくなるんだ。頭の中ではやるべきことは分かっているのに、感情が追い付かない」

ジルはそう言って、瞳から大粒の涙を流し始めた。

……そう簡単に気持ちの切り替えを出来る人なんていない。けど、しなければならない。

冷たいと言われるかもしれないけれど、それが権力のある者の生き方だと思っている。

「アリシアは強いね。……どうしてそんなに平気なの?」

ジルは私の方へと視線を向けながらそう言った。

私はウィルおじさんのお葬式からもう泣かないと決めた。

自分で自分の首を絞めているだけかもしれないけれど、それでいい。

ゆっくりと彼の方を向く。潤った瞳に、私の顔が映る。今にも泣きそうな弱々しい少女を映し出さないように、必死に表情を作った。

「……そうね。亡くなった人を想うのは一瞬で良いわ。今は生きている私たちがどう動くかを考えないと」

「それは少し冷たくない?」

ジルの声に少しだけ怒りが混じったような気がした。

「死んだ人と一緒に貴方の時間を止めてどうするの? もうウィルおじさんは帰ってこないのよ」

「そんなこと分かってるよ。けど、それでもアリシアのその態度はおかしい」

ジルが涙を流しながら私を睨む。彼にこんな風に睨まれたのは、初めて会った時以来だ。

私は血も涙もない人間に見えるのだろう。……けど、ここで私まで崩れたら意味がないじゃない。

一緒になって崩れていくぐらいなら、私は喜んで冷徹になるわ。

「私たちがどれだけ叫んでも、どれだけ求めても、生き返らないのよ?」

「分かってる! 分かってるよ! だとしても、おかしいよ!! だって、アリシアだってじっちゃんのこと大好きだったじゃないか!!」

私の言葉にジルは声を上げた。

何も答えないでいると、ジルは私を詰めるようにしてさらに声を発した。

「じっちゃんに助けられたし、じっちゃんのおかげで成長出来たことを忘れたの!? どれだけじっちゃんに愛されたのか忘れ」

「それが上へといくということよ、ジル」

私はジルの言葉を遮るようにして、そう答えた。

ジルは私の言葉に押し黙った。私は真っすぐ彼の目を見つめながら話を続けた。

「冷血で感情がないと思われても良い。立場は人を窮屈にするの。……悪女ならもっと自由に生きればいいって思うかもしれないけれど、私はそんなレベルの低い悪女を目指していない」

私たちの些細な言動で多くの者の命を奪うかもしれない。そんな立場にいる人間がいつまでもうじうじしていられない。

「……知ってるよ」

ジルは小さな声でそう呟いた。その声が随分と大人びて聞こえた。

気付けば、ジルの涙はもう止まっていた。

「それに、アリシア泣いてるもん」

え、とジルの言葉に思わず声が漏れた。

「表ではそうやって虚勢張ってるけど、ずっと心の中で泣き叫んでいるもん。その辛さを僕に共有してくれないことに対しても苛立ったのかもしれない。怒鳴ってごめん」

私はジルの言葉にゆっくりと首を振った。

「アリシアの側にいる為に、アリシアに仕える為に、僕も成長しないとね」

「……悪女に仕えていていいの?」

「悪女に微笑まれているなんて光栄なことだからね」

目を赤くしたままジルは幸せそうに笑みを浮かべた。