軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

383

ヴィクターは何も答えない。私は崖の下を覗き込む。落ちたら命はない。

血の気が引いていく。手に汗が滲み、ゆっくりと深呼吸をして、心臓を落ち着かせる。

私の魔法技術だと厳しいかもしれないけど、やってみるしかない。

「腹が立つ」

ヴィクターが何か呟いたようだが、今は自分のことに集中して何を言ったか分からなかった。レオンがヴィクターの相手をしている。

「主に?」

「違う。自分にイラついてる。……俺より年下のくせに」

「……好きなんですか?」

レオンの言葉にヴィクターが苦笑する。

「俺の理想を平然と突き付けてくる女なんてごめんだよ」

「そっちのことは任せたから」

私はヴィクターとレオンの会話の合間に割り込む。彼らが私の方へと視線を向けたのと同時に私は自分に魔法をかける。

前にスランプを乗り越えて、習得した動物になる魔法。真っ黒な小鳥になる。その様子に、彼らは目を丸くした。

「瞳の色はそのまんまなんだ……」

「これは高く売れそうな鳥だな」

レオンに続いてヴィクターが口を開く。私は彼らを無視して、マディのところへと降りる。

鳥になったのは初めてだけど、思ったより難なく飛べた。幸いなことに、強風は吹いていない。私は飛びながら少しだけリズさんのことを思い出した。

彼女の魔力なら、もしかしたら簡単にマディを取れたかもしれない。私はこうやって、地道に直接手を伸ばして取ることしか出来ない。

たまに「天才」と呼ばれるけれど、私は死に物狂いでここまで這い上がったのよ。まぁ、魔力があったからこそだけど。それでも本当の天才には敵わないことは嫌というほど知っている。

「おい、大丈夫か?」

ヴィクターの言葉でハッと我に返る。

今は目の前のことに集中しないと。

……棘に当たらないようにマディを取る。

私は更に自分の体に魔法をかけて、体を小さくする。この弱肉強食の世界で一瞬でやられてしまうような小鳥に変身する。

慎重に毒植物の中へと進んで行く。近づいて初めて分かったが、マディは甘くて脳が麻痺するような匂いをしている。頭が少しクラクラする。

私は我を失わないようにと、マディの根元へと向かう。マディを切り離すことさえ出来れば何とかなる。

また自分に魔法をかけて、小鳥から小さなリスへと変わることが出来た。ホッと安堵のため息を漏らす。

こんなに一気に魔法を使ったのは初めてだわ。

動物から動物に変わるのはかなり難易度が高い。絶対に失敗できないと自分にプレッシャーを与えたからこそ、成功したのかもしれない。

……人は逆境に立つと成長するものなのね。

意識が少し朦朧としてくる中、マディの根元に噛みつく。思ったより、歯の力が強い。……これならすぐに切り離せる。

なんか、急に地味な作業ね……。ヴィクターやレオンに見られなくて良かったわ。こんな姿、見せたくないもの。……リスより猫の方が好きだわ。

そんなくだらないことを考えながら、必死にマディの茎を噛み千切った。

「あいつ鳥から何に変わったんだ?」

崖の上でヴィクターとレオンがアリシアの様子を見守っている。ひとまず、小鳥になったアリシアが毒の植物を通り抜けたことに安心していた。

ヴィクターの質問にレオンは首を傾げる。

「小動物ですかね」

「……あのじいさん連中ですら、こんな風に魔法を使わないぞ」

「どういうことですか?」

「普通は同時に何度も魔法をかけたら気絶するんだよ」

レオンは目を見開いたまま、マディがあるところへと視線を戻す。ここからだと丁度死角でアリシアの姿は見えない。

「……じゃあ、主は」

「化け物だ」

ヴィクターの低い声がその場に静かに響いた。