軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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勢いよく潜り過ぎたせいか、ほんの少し湖の水が口の中に入ってしまった。

……これぐらいなら大丈夫よね。これぐらいじゃ死にはしないと思う。普段は超がつくほど健康の私だもの。

キイは、透明感のある細い羽をシュッとコンパクトに背中に収めて、美しいフォームで泳いでいる。

ケレスとマリウス隊長はお世辞でも綺麗とは言えない泳ぎ方で必死に手足を動かしている。あれだけ走った後に、また息を止めて泳がないといけないなんて拷問ね。泣きっ面に蜂だわ。

ヴィクターは少し顔をしかめながらもどこか余裕を見せている。

彼の身体能力は一体どうなっているのかしら。世界中の科学者に調べてもらいたい。彼が死んだら間違いなく解剖されるわよ。

妖精の後を必死に追っているけど、やっぱり出口は遠い。もうあの変な頭蓋骨みたいなものは追いかけてこないけれど、今度は自分との勝負になってくる。

息が出来ないという状況は本当に地獄だ。私達が生きていくことに最も重要なことは酸素を取り入れることのような気がする。

まだなのかしら……。

『もうちょっとよ』

私の考えを読み取ったのか、妖精の澄んだ声が聞こえた。

妖精にとってのもうちょっとってどれくらいかしら。

さっき潜ったので随分と体力が奪われたのか、私もそろそろ限界が来ている。それにかなりの魔力を使った後だ。もう体力はないに等しい。

そんなことを考えていると、突然とんでもない衝撃が頭に入る。

な、何よ、これ。思い切り誰かに殴られているみたいだわ。

視界がぐにゃりと歪む。気持ち悪い。嘔吐しそうになる気持ちを必死で押さえる。ガクンと急に体が重くなり、上手く泳げない。

私の様子に真っ先に気付いたのはヴィクターだった。一瞬で私が毒を吸い込んでしまったことを察したのか、少し眉間に皺を寄せクソッと言いたげな表情を浮かべる。

ああ、もしかして、私の人生これで終わりかしら。

過ごしたのはほんの短い時間だったけれど、彼の性格を知っている。彼は、兵を容赦なく見捨てる。

私は彼にとって、国王になる為の駒に過ぎない。行きにジュルドが命を落としたみたいに私もここで命を落とすのかしら。

…………まだ悪女になっていないのに?

こんなところで死ぬわけにはいかない。私は今にも気を失いそうな感覚に耐えながら目を見開く。

目から毒を吸い込まない変な湖で良かったわ。

そんなことを思っていると、突然、ヴィクターが私の方へと近づいてきた。そのまま、私のことをグッと抱え込むように握りしめる。

え? 何がどうなっているの?

ケレスとマリウス隊長も泳ぎながら、彼の行動に驚いている。まさかあの王子が私を助けるなんて思わないわよね。

私を抱えながら、彼は妖精を追いかけながら前へと進んで行く。

……私、もう既に死んだのかしら? これは天国に行くってこと?

いや、でもまだ息が出来ないし、苦しい。……現実で、ヴィクターが命を懸けて私を助けてくれてるってことよね。

信じられない。それに、一体、そんな体力どこにあるのよ。

もしかしてヴィクターも妖精の仲間なんじゃないかしら。それぐらい彼は非凡だ。

水面がもうすぐそこまで来ているのが分かる。汚く薄暗い水中に微かな陽光が差している。皆、最後に必死に体を動かして水面へと上っていく。

ここさえ抜ければ後は、生きて帰れる。生にしがみつき、生に足掻くその瞬間を目の当たりにしているような気がする。

バッッッといきなり顔が水から解放され、大量の空気を体が吸い込んだ。

この水を飲まないようにしながら、上手く息を吸い込む。ニール副隊長が慌てた様子でタオルを持って駆け寄ってくる。

ヴィクターは私を抱えながら汚い地面へと乱暴に横になる。ドサッと全員が倒れ込みながら必死に息をする。

ハァハァという声だけが林の中に響いている。

「い、生きて帰って来れ、た」

マリウス隊長が小さく呟く。

本当になんて過酷な試練だったのかしら。私は今にも死にそうなぐらい体調不良だけど、まだ死んでいない。

「ジュルドはダメだったか」

ケイトの少し低い声にニール副隊長とおじい様とマークが察した。

ヴィクターはニール副隊長からタオルを奪い取り、雑に顔を拭いた後、口を開いた。

「死んだやつのことはもう考えるな」

リズさんならこの言葉に怒っていただろうな、と考えてしまう。

ここにいる誰もが彼に対して何も言わない。彼が王子だから歯向かわないわけではない。

彼のその言葉を冷たく感じても、ヴィクターが部下を大切にしていることを全員が知っている。彼の欲のせいでジュルドが死んでしまったなどと責めることは出来ない。

「どう、して、私を助けてくれたの?」

倒れ込んだまま、息を荒くしながらも、彼の方を真っ直ぐ見つめながら確かにそう聞いた。