軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

179

デューク様が美しく凛々しい表情で私の方へ近づいてくる。

私の方へ近づいてきているはずなのに、どこか別人みたいだわ。……私の考えすぎかしら。

「お話が」

そこまで言った瞬間、デューク様は私の隣を黙って通り過ぎた。

……少しも目が合わなかったわ。

「え」

ジルがデューク様の行動に声を漏らした。私は驚きのあまり言葉が出なかった。

まさかデューク様に無視される日が来るなんて……。

「デューク様?」

私は振り向いて、デューク様の背中に向かって声をかけた。デューク様の足がゆっくりと止まった。

……なんだか様子がおかしいわ。

妙な緊張感が漂う。デュークが私の方をゆっくりと振り向いた。その瞳はいつも私に向けてくれる優しい瞳ではなかった。

もしかして、私の失言に対して、相当怒っているのかしら。

「何の用だ?」

そう言ったデュークの表情は酷く冷たく、私の背筋が一瞬で凍った。

デューク様にこんな表情を向けられるなんて生まれて初めてだわ。敵意に満ち溢れている。

「「……」」

私もジルも何も言う事が出来なかった。

「俺に何か用か?」

デューク様はもう一度低い声でそう言った。デューク様の圧力で私は固まってしまった。

悪女なら絶対に何か言い返すはずなのに、本気モードで私を睨んできているデューク様を目の前にすると今すぐ逃げ出したくなってしまった。

「何をしているんだ?」

聞き覚えのある声が私の耳に響いた。その声を聞いた瞬間、私の心の中に安心感が生まれた。

……やっぱり兄弟の力って凄いわね。

「ヘンリか。この女がいきなり俺に話しかけてきたんだ」

「は?」

デューク様の言葉にヘンリお兄様は顔をしかめた。

……今、なんとおっしゃったの?

「デューク、何を言っているんだ?」

「こいつの事を知ってるか?」

デューク様が私の事を一瞥してそう言った。ヘンリお兄様はデューク様の衝撃的な言葉に固まった。

「アリシアと僕の事、忘れたの?」

ジルは目を見開きながら、そう呟いた。

「お前はジルだろ」

デューク様が怪訝な表情を浮かべながらそう言った。

その表情をそっくりそのまま返したいわ。どうしてジルの事は分かっていて、私の事は分からないのよ。

「アリシアの事は?」

「アリシア? 誰だ?」

デューク様は眉間に皺を寄せながらそう言った。あら、私、デュークに本気で忘れられたみたい。

まぁ、乙女ゲームの世界だし……。

「そんな事もあるわよね」

「いや、ないでしょ。というか、どうしてそんなに落ち着いていられるわけ?」

「アリのメンタルって凄いよな」

「メンタルの問題じゃないでしょ」

ジルが呆れた様子でそう言った。

……どうして私の事を忘れてしまったのかしら? あまりにも急過ぎるわ。

「不自然ね」

「誰かがデュークの頭からアリシアの記憶だけを消したとか」

「一体誰が?」

「それは分からないけど……」

「そのうち戻るかしら」

「意図的に消されたのなら戻らないかもしれない」

ジルの言葉に私は思わず固まってしまった。このまま一生戻らなかったら、どうなるのかしら……。

「用がないなら、もう行ってもいいか?」

デューク様が面倒くさそうな表情を浮かべながらそう言った

確か、これに似た表情を前世で見た事があったわ……。アリシアに向けて、この表情をよくしていたのよ。つまり、デューク様の記憶が消えた事でシナリオ通り進んでいるって事よね? このままいけば、無事にリズさんとデューク様をくっつける事が出来るんじゃないかしら。私は悪役令嬢だもの。王子と結ばれるべきでないわ。デューク様の中から私が完全に消えてしまった今、私の印象を新たに作り直す事が出来るわ。

「デューク様、自己紹介させて頂きますわ。ウィリアムズ家長女のアリシアと申します」

私はそう言って、スカートの端を軽くつまみ、斜め四十五度にお辞儀をした。