軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

156

「どういう事だ?」

ヘンリお兄様が眉をひそめながらそう言った。

「あの狼は誰かが魔法学園に送りこんだ狼だ」

「「やっぱり」」

私とジルの声が見事に重なった。

ポールさんの瞳孔が散瞳しているのが分かった。

「知ってたのか?」

「なんとなくそんな気がしてたんだよ」

「野生の狼が魔法学園にふらっと突然現れるなんておかしいもの」

ヘンリお兄様は表情を変えずにじっとポールさんを見ている。

……ヘンリお兄様は誰かが魔法学園に送りこんだという事を知っていたわね。

何も感情を顔に出さないのが逆に怪しいわ。

きっとデューク様達も狼の件に関しては何かしら知っているわね……。問題はそれが誰かという事よ。

「ラヴァール国の狼?」

「……そうだ」

ジルの言葉にポールさんは一瞬固まり、少ししてゆっくり深く頷いた。

やっぱりラヴァール国の狼だったんだわ。という事は、ラヴァール国の誰かがこの国に侵入したって事かしら。話がどんどんややこしくなっていくわね。

「それも分かっている。俺が知りたいのは誰なんだ? 狼をこの国に連れ込んだ奴は?」

ヘンリお兄様は少し面倒くさそうにそう言った。

すでにそこまで徹底的に調べ上げているのね。流石だわ。

「知っていたのか?」

「ああ、とっくにな。俺はもうとっくにこの件に関わっているんだよ」

「……じゃあ、知りたいのは名前だけなのか?」

ポールさんはまだ状況を理解出来ていないようだ。

確かに、自分が提供しようと思っていた情報を先に知られているのは焦るわよね。

でもラヴァール国の狼は首輪をしているのよね? それなのにどうして飼い主が分かっていないのかしら。

「狼はどうなったの?」

私の言葉にポールさんもヘンリお兄様も少し固まった。

これは……どういう反応かしら。

何かまずい事を聞いてしまったのかしら。でも狼の生存確認ぐらいは大丈夫よね?

「リズが魔法で取り押さえた後、逃がしたみたいだ」

ヘンリお兄様が言いづらそうに重い口調でそう言った。

はい!? ヘンリお兄様は今なんておっしゃったの?

「……逃がした?」

「野生の狼を?」

「人間を襲ったんでしょ?」

「どこに逃がしたの?」

私とジルが次々とヘンリお兄様を責めるように質問した。

ヘンリお兄様に聞いても無駄だと分かっていても聞かずにいられないわ。

全く考えのない行動に呆れるわ。

「分からない。だが、リズに言っていないが、その狼は次の日遺体で発見されている」

「そこまで知っているのか」

そう言ってポールさんは苦笑いを浮かべた。

「誰かに殺された?」

ジルが難しい表情を浮かべながらそう言った。

……重いわ。そうなると話が重すぎるわ。

これは乙女ゲームよ。そんなに話が重いはずないわ。

「キャザー・リズは動物を大事にする女を演じたかったんだよ」

そう言ったジルの目に光はなかった。

リズさんはそんな事を考えないだろう。彼女は善意の塊みたいなものよ。

「狼もキャザー・リズが仕組んだのかもしれない」

「それはないだろ」

ヘンリお兄様は少し口の端を上げて苦笑いした。

「普通は自分を虐めていた奴を庇わないよ。キャザー・リズは狼は自分の事を殺さないと分かっていてあえて庇ったんだ」

「……それは人気が上がるな」

ポールさんはジルの言いたい事を理解したみたいだ。

待って、それは深読みし過ぎだわ、彼女はヒロインよ。そんな綿密な策を立てて自分の人気を上げる事はしないはずよ。

ジルのリズさん嫌いが偏った考えを生んでしまっているわ。

「疫病神だな」

ジルは半笑いで毒を吐いた。

……まずいわね。

「ジル」

私はジルの目を真っすぐ見ながらそう言った。

ジルは私の目が真剣である事をすぐに悟ったのだろう。ゆっくり口を閉ざした。

「主観的に物事を見すぎよ。事実だけを捉えて客観的に見なさい」

私はジルから目を逸らさず静かにそう言った。

「狼にだけ焦点を当てると、狼の動きはラヴァール国からこの国に入り、その上、魔法学園に侵入した。狼はリズさんに取り押さえられた後、どこかに逃げて、次の日死んでいた……これで分かる事は?」

私はそう言って三人の顔を一瞥した。

三人ともただ渋い顔を浮かべているだけだった。

誰が狼をこの国に送り込んだのかは確かに気になるわ。でも、現段階では全く想像出来ないわ。

今考える事は何故狼が魔法学園に送り込まれたのか……。

「首輪は?」

ジルの質問にヘンリお兄様は小さく首を横に振った。

……首輪がなかったの?

「鉄なのに?」

ジルは私の言いたい事を代弁するかのように眉間に皺を寄せながらそう言った。

「ああ、首輪はなかった」

「魔法が使える可能性は?」

「……あるな」

ヘンリお兄様は少し考え込んだ顔をしながらそう言った。

この国以外で魔法が使える人間はほとんどいないわ。

考えられるのは国王様のお母さまがラヴァール国に追放したデュルキス国のお偉いさん達……。彼らがラヴァール国のどの位にいるのか分からないけど、この計画を考えた人物なら、私達の国はお終いだわ。

そうよ、冷静に考えれば分かる事だわ。

ウィルおじさんの考えを持つ者が三人もラヴァール国に行ったのよ?

彼らなら鉄の首輪なんて魔法で簡単に壊す事が出来るわ。それにこの国を恨んでいるわ。

ならどうして彼らは魔法学園に狼なんか入れたのかしら……。

魔法学園の様子を知るために来たわけではないだろうし。今のデュルキス国の強さを探るためかしら。

……狼はリズさんの近くに現れた?

私ははっと顔を上げてジルを見た。ジルと目が合う。ジルは私をじっと見ながら小さく頷いた。

どうやら私と同じ事を考えているみたいだわ。

ジルは灰色の瞳を光らせながら低い声で呟いた。

「狙いはキャザー・リズか」