軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

11 十三歳 ウィリアムズ家長男 アルバート

現在十三歳 ウィリアムズ家長男 アルバート

我儘で傲慢に育ってしまった妹は僕の手に負えなかった。

少し甘やかしすぎたのかもしれない。

僕の妹アリシアはとても可愛らしく、黄金の瞳がとても綺麗だ。

僕と双子の弟達は妹をとても可愛がった。

しかしそれが悪かったのか、アリシアは自分が中心にこの世が動いていると思ってしまったのだ。

そんな中、ある日突然剣術を習いたいと言い出した。

正直、かなり腹が立った。

毎日朝から真剣に稽古してきたのに興味本位……、もはや興味もなく、僕やアランやヘンリ達と一緒にいたいから言ってきたのだと思ったからだ。

自分が今までやってきたことを馬鹿にされていると感じた。

それはきっとアランやヘンリも同じ気持ちだったと思う。

だから我儘な妹に無理な課題を突き付けた。

腹筋100回と腕立て50回は絶対に七歳の女の子に出来ない。

しかもそれを一週間続ける事が出来たらと。

それを言った時、アリシアは怒っていた。

いつもの傲慢な態度ではなくて、威厳のある態度で僕を睨んだのだ。

自分の目が信じられなかった。僕はアリシアのあんな表情を見た事がなかった。

太陽に反射して輝くアリシアの黄金の瞳に思わず見惚れた。

アリシアが真剣に考えている事は分かったが、僕は一週間後には飽きていると思っていた。

今までアリシアは何かを続けられた事がなかった。

ピアノや歌や乗馬など、興味があっても一瞬だけ。すぐにやめてしまった。

ダンスやマナーレッスンは社交界では必須だからなんとか先生達が覚えさせていたが、その様子は惨憺たる状態だった。

そんなアリシアだから僕は絶対に無理だと思っていたし、その約束を交わした事を忘れてしまっていた。

一週間後アリシアに言われて初めて思い出した。

アリシアが頬を膨らませて怒っている姿を見ていると、本当に一週間筋トレをしたようには見えなかった。

ただ構って欲しくて嘘をついているのだと思った。

その時は僕の友人もいたし、一緒に遊んで欲しいからそう言っているのだと……。

アリシアが僕の腰から剣を抜いた瞬間、僕の背筋が凍った。

一体自分に何が起こったのか分からなかったのだ。

そもそも剣は普通の女の子の筋力で持てる重さじゃないのだ。

それをアリシアは軽々と僕の腰から抜いたのだ。

それからのアリシアの行動は驚きの連続だった。

木の幹を蹴って林檎を落としそれを真っ二つに切ったのだ。

正直そんな技は僕にも出来るか分からない。

林檎の落ちる軌道が分かっていなければ出来ないし、何より、林檎を真っ二つに切るのにはかなりの力とスピードが必要だ。

重い剣を素早く横に振り、鋭い刃で落下している林檎を二つに切るなんてまぐれでは出来ない。

僕は自分の目を疑った。

真っ直ぐ僕の方を見て凛々しく佇むアリシアの姿に目が離せなかった。

そして僕が剣の稽古を承諾するとパッと顔が明るくなって抱きついてきたのだ。

それは紛れもなく七歳の女の子の行動で、さっきまでの威厳を一切感じさせなかった。

それからアリシアは毎日朝には剣の稽古をした後、夕食までどこかに消えている。

アリシアの行動が謎過ぎて誰も理解できなかった。

何が彼女をそんな風にしたのか、両親も侍女達も何も思いつかなかった。

剣術を習うのなら、まず剣を持てるようにならなければならない。

それも長時間だ。案の定、アリシアは最初は全く持てなかった。

正直、これで諦めると思っていた。七歳の女の子の筋力なら、一日中持てるようになるまで五年くらいは優にかかる。

それに剣を持つだけの練習は全く楽しくも面白くもない。只々苦痛なだけだ。

しかし、アリシアは文句を言うことなく毎日練習していた。

その様子を友人達に話すと見に行きたいというので家に招待すると、皆目を丸くしていた。

それから毎日のように来るようになった。

僕が驚いたのはデュークも毎日のように来ていたからだ。

よく冷たい目をしている印象が強いデュークが他人に興味を示すなんて珍しい。

デュークはアリシアが稽古をしている間は僕等とは一切話さず、ずっとアリシアを見ていた。

それも僕等に向けた事もないような優しい眼差しで。まさかとは思ったが僕は考えないようにした。

ある日、皆でアリシアが稽古後に何をしているのかという事を探るために、一日アリシアをこっそり観察する事になった。

デュークはあまり乗り気じゃなかったが、僕等と一緒についてきた。

こっそり観察するのはダメな事だと分かっていても、毎日十時間どこかに消えている妹の行き先を知りたいという好奇心の方が勝ってしまった。

アリシアは意外な事に図書室に入っていった。アランとヘンリは口を開いていた。

勉強嫌いのアリシアがまさか読書するとは思っていなかったからだ。

アリシアは図書室に入ると三十分くらいウロウロしてから小さくため息をついた。

探している本がなかったのか?

声を掛けようと思ったが、つけているのがばれたらまずいのでやめておいた。

その後、アリシアは近くにあった本を読み始めた。

僕等はずっとその様子を見ていた。妙にページを捲る速度が速い。

アリシアが本を閉じた瞬間、時計を見た。目の前で起こった事が信じられなかった。

十分もしないうちに一冊読み終えたのだ。

これには皆が驚いた。デュークも目を瞠っている。

ゲイルが、信じられない、と小さく声を漏らした。

それからアリシアは次の本を手に取りまた読み始めた。

適当に読んでいるのかと思ったが、真剣な表情で読んでいるし、よく見ると目の動きが尋常じゃないくらい速い。

アリシアは約十時間、夢中になって読み、午後六時になったら図書室を退出した。

アリシアが出て行ったのを確認した後、アリシアが読んだ本の数を数えた。

言葉を失った。皆アリシアが読んだ本たちを凝視した。

本当にこの数を彼女が読んだのかと。ちゃんとアリシアが読んでいるのを見ていたにも関わらず自分の目が信じられなかった。

「天才少女」

ゲイルがぼそっと呟いた。皆が頷いた。アリシアはきっと自覚なしの天才だ。

その後、皆で夜遅くまでアリシアの行動の話をしていた。

すると下の方から剣の素振りの音が聞こえた。

僕達は二階のベランダから庭を見た。そこにいた誰もが固まった。

庭では小さな女の子が剣を持ち、汗にまみれながら素振りをしていたのだ。

夜の闇よりも黒い髪が揺れ、月明かりに照らされた黄金の瞳が神秘的で、

「美しいな」

僕が思っていたことをデュークが隣で呟いた。

僕は自分の耳を疑った。デュークが人に対して美しいなんて言ったのを初めて聞いたからだ。

確かにアリシアは美しかった。

その日は夢を見ているのかと思うぐらい驚く事が多かった。

夜の自主練もしていたからなのか、アリシアは一年で剣を一日中持てるようになったのだ。

もう僕は段々驚かなくなってきた。

本来なら夜の自主練をしていたとしても一年で一日中剣を持てるようになるなんて事は男でもまずない。

剣の重さは鍛えた七歳の筋力でどうこうできる重さじゃないのだ。

アリシアを変えたのは一体何なのだろうか。

そして彼女は一体何になろうとしているのだろう。