軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第七話

「おい、早くお前も上がってこい!」

先に上がった男が、仲間がついてきていないことに気が付いて戻ってきたが、

「お前も寝てろ」

最初の男と同じように、至近距離からテラーを当てて気絶させた。だが、最初の男と違うところは、

「頭から落ちたか……死んだかもしれないが、声を出せないのは同じだからいいか」

テラーで気を失った後で、天井にある入り口から落ちてしまったことだ。

「それよりも、この先に大人の気配が二つ……あいつらの仲間なら、動けないようにした方がいいな」

攫われた大人という可能性もあるが、五つある子供の気配と違い先ほどから部屋の中を移動しているので、敵の可能性の方が高い。

「思った通り、あいつらの仲間みたいだな。それじゃあ……『テラー』」

男二人だけに向かってテラーを放つと、二人は一瞬で気を失ってその場に倒れた。

「他は……いないな。捉えられている子供たちも、罠とかいう感じではなさそうだな」

念の為、子供たちの様子を確かめた後で影から出ると、いきなり倒れた男たちに驚いていた子供たちが俺を見て悲鳴を上げた。

まあ、いきなり目の前に知らない男が現れたら驚くのは仕方がないが……助けにきたんだから、泣くのはやめてほしい。

「あ~……危害を加えるつもりはないから、少し静かにしてくれ。いきなりで驚いただろうが、依頼を受けて下水道の調査にきた冒険者だ」

なるべく穏やかな口調を心がけて話しかけると、泣き声は小さくなったものの警戒は解いてもらえていないようで、五人の中で一番年上と思われる女の子が残りの子たちをかばうようにして前に出てきた。

「いくつか質問するが、答えたくないことは黙ったままでいい。まずは、あいつらに捕まっているのはここにいる五人だけか? それと、全員が知り合いか何かで、同時に捕まってここに連れてこられたのか?」

「いえ、私とこの子が最初に捕まってここに連れてこられて、他の三人はそれぞれ別々に連れてこられました」

最後の一人は、俺がここに案内させる為にわざと助けなかった女の子だ。

その子が何か言いたそうに俺を見ていたので、話し出すのを待っていると、

「あの……もう一人この子と同じくらいの年齢の女の子を見ませんでしたか? どうやらこの子と一緒に捕まって、この近くまで連れてこられたらしいのですが、途中でその子は逃げることが出来たそうですが、その子を追って男が一人追いかけたそうで……」

俺に話しづらかったのか、一番年上の女の子に耳打ちして代わりに話してもらっていた。

「いや、そんな子は見ていないが……もしかして、追いかけて行った男というのは、こんな服を着ていたか?」

俺がスライムに食われていた男の服を見せると、女の子は大きくうなずいていた。

「これは王都の端の入り口から少し行ったところで、スライムに食われていた男が着ていたものだ。その付近には女の子の気配はなかったし、スライムに食われた様子はなかった。もしかすると、まだ下水道のどこかを逃げ回っているか、すでに外に逃げた後だと思う」

そういうと女の子は安心したように泣いていたが……俺がスライムを倒す前に溶かされて食われたという可能性もある。

何せ、大人の下半身を短時間で溶かしていたのだ。男の前に、子供を溶かしていたとしてもおかしくはない。もっとも、そんな残酷なことを子供に言うわけにはいかないが。

「とにかく、すぐにでも君たちを外に連れて……行きたいところだが、少し待っていてくれ。俺が用事を済ませるまでに、体を拭いて飯でも食っていてくれ」

桶を出して水を入れ、手ぬぐいと食事を渡した。

子供たちがそっらを受け取って奥の部屋に入っていくのを確認し、俺は倒れている男たちを縛り上げて自害できないようにしてから叩き起こした。

「いくつか聞きたいことがあるが……その前に言っておくが、変な気を起こすなよ。できる限り、お前らは生かしたままにしておきたいんでな。まあ最悪、どちらかが残ればいいんだが……俺の言っている意味が分からないのなら、どちらかで試してみてもいいが……どうする?」

軽く脅すと男たちは半泣きの状態で何度も首を横に振ったので、無駄にこの部屋を血で汚さずに済んだようだ。

「お前たちはソウルイーターと関係があるか?」

この質問に、男たちは首を横に振った。

「なら、お前らの目的は……ああ、口を塞いだままだな。面倒臭いから、詳しいことは後でいいか。お前らは、人攫いの集団ということで間違いないな?」

男たちは今度の質問に関しては戸惑っていたが、ナイフをちらつかせる慌てて首を縦に振った。

「俺はお前たち以外に二人を無力化し、もう一人はスライムに食われていたが、お前らの仲間はそれで全員か?」

今度は最初からナイフを見せていたおかげで、すぐに首を縦に振ったが……仲間が他にいるとなると、なるべく早くここを出た方がいいかもしれない。

(こいつらから情報を引き出した後で、この場所を調べようと思っていたけれど……子供たちを安全な場所に連れて行ってからの方がいいな)

「それなら、お前らの仲間は全員でどれくらいだ? 十以下か?」

男たちが首を横に振ったので、今度は「二十以下か?」と質問を変えたが、男たちは困惑した様子で首を縦にも横にも降らなかったので、こいつらは正確な人数を知らないのだろう。

(そうなると、思った以上に大規模な組織の可能性があるな……とりあえず)

「もう一度寝とけ」

テラーでまた気を失わせた。

「手と足は縛っているけど、念の為この状態で柱に縛り付けておくか」

そうしておけば俺たちが離れた後で意識を取り戻しても、この部屋から逃げ出すことは難しいだろう。もっとも、この部屋に戻ってきたこいつらの仲間に助けられるか殺される可能性があるので、なるべく早く戻ってこないといけないが……まあ、出入り口を壊して塞いでおけば、多少は時間を稼ぐことが出来るだろう。

「お~い、飯を食ったなら上に戻るぞ。すぐに家に戻りたいかもしれないが、一度俺の知り合いのところに向かう。もしかすると、お前たちを攫った仲間がまだいるかもしれないからな。王都に家族がいるのなら、そこに家族を連れてきて会わせるからな」

もしかするとこの子たちを家族のもとに帰した後で、情報漏洩を防ぐために人攫いの仲間たちが襲撃することも考えられるので、一時的でもこの子たちと一緒にその家族も保護した方がいいだろう。

子供たちは腹が膨れて少しは落ち着いたのか、俺の言うことを聞いてくれてはいるが、まだ完全に警戒を解いたわけではないようなので、なるべく近づきすぎないように気を付けて下水道まで出た。

全員が部屋を出た後で、入り口に戻って中を土魔法で塞いだ。ただ、土魔法はあまり使ってこなかったので最低限のものしか使えないが、穴を塞ぐだけなら初級の魔法でも十分だろう。

「最後に縄梯子を切って入り口の扉を閉めれば……の前に、中に油をまいておくか。嫌がらせ程度にはなるだろう」

ちょっとしたいたずら心で、入り口付近を油まみれにしてから扉を閉めた。これだけ塗りたくれば、手が滑ってまともに上ることは出来ないはずだ。

「それじゃあ、行くぞ……って言っても、ここが王都のどの辺りなのか正確な場所が分からないから、もしかするとかなり歩かないといけないかもしれないから疲れたら言えよ」

とりあえず人攫いを最初に見つけた辺りまで行ってみることにした。その近くで出入り口が見つからなければ、俺が入ってきたところまでいかなければならないだろうが、そうするとどこかで一度は休憩を挟まなければ子供たちの体力が持たないだろう。

俺は何度も子供たちの様子を確かめながら移動し、何とか休憩を挟むことなく人攫いを見つけたところまで戻ることが出来た。すると、

「多分、このすぐ近くに私が連れてこられた穴がある」

人攫いに捕まっていた女の子が、見覚えのある場所だと言い出した。特に大きな特徴があるとは思えなかったが、一緒に連れてこられた子が逃げるきっかけとなった穴を覚えていたとのことだった。その時、

「待て、誰かが向かってきている……正体がわからない以上、ゆっくりと静かに道を戻ってどこかでやり過ごすぞ」

あと少しで下水道から出られるかもしれないというところで、俺たちの方へと向かってきている気配を数人分感じた。向こうはまだこちらに気が付いていないみたいだが、気が付くのは時間の問題だろう。

冒険者の可能性も考えたが、こんな不人気な依頼をこんな人数で受けるとは思えなかったし、接触は避けた方が無難で今なら静かにしながら引き返して脇道に逸れれば見つからないかもしれないと思い、子供たちに指示を出したのだが、

「あっ!」

運の悪いことに、子供の一人が先ほど見つけた穴に足を取られて転んでしまった。

「誰だ!」

その時に出してしまった声を転んだ時の音で気が付かれ、それまでゆっくりと近づいていた気配が一気に距離を詰めてきた。

そして、複数のカンテラの明かりこちらに向けながら現れたのは、

「冒険者か? こんなところで何をしている? それと、その子供たちは?」

騎士の格好をした男たちだった。

騎士の姿を見た子供たちは、嬉しそうにしていたが、

「その前に、どこの所属か答えろ」

俺は子供たちの前に立ち、騎士たちに剣を向けた。

「おい、騎士に剣を向けるというのがどういうことか分かっているのか?」

「分かっているさ。どこの所属か教えてくれたら大人しくしよう」

そういうと騎士たちは顔を見合わせて、

「第一騎士団だ」

と言った。

「そうか、それなら俺のことが分かるはずだな」

そういって俺は、魔法で白色にしていた髪を黒に戻し、

「ジーク・ヴァレンシュタイン男爵だ。第一騎士団の騎士なら、俺が陛下から爵位を頂いた時に陛下の警護をしていたから知っているな?」

そういうと騎士たちは、明らかに動揺していた。

ちなみに、俺が爵位を得たときに第一騎士団がウーゼルさんの警護をしていたというのは嘘だ。あの時あの場に居たのは近衛兵で、もしかすると俺が気が付かなかっただけで第一騎士団の騎士が居たかもしれないが、警護をしていなかったのは確かなので本物ならそれを指摘するはずだ。

しかし、

「我々は下っ端なので、陛下の警護には就かせてもらえません。それよりも、こんな薄暗いところでは男爵様本人なのか確認ができません。少し近寄らせていただきます」

騎士は指摘することなく、確認の為と言って近づいてこようとした。そこで、

「それにしても、おかしなことがあるもんだな……第一騎士団なのに、警備隊の鎧を身に着けているなんてな……なあ、お前たちは何者なんだ?」

そろそろ、この茶番劇を終わらせることにした。

「くそっ! おい! 他の奴らも呼べ! 確実にしとめ、えぐっ!」

近づいてこようとしていた男が後ろの仲間に指示を出していたが、すべてを言い切る前に素早く近づいて喉に拳を叩き込んだ。

一応重要参考人なので手加減はしたが、男は倒れて汚水まみれになりながらもがき苦しんでいる。

「ほぉ……流石に場慣れしているな」

指示を受けた仲間は、男が倒されても動揺せずに距離を取り、笛を吹いて他の場所にいるという仲間に知らせていた。

「他の奴らが来るまで距離をとれ! あいつはガキどもを連れてるんだ。多少強かろうが、所詮は一人。数がそろえば敵じゃない!」

あいつらは数で攻めれば俺に勝てると思っているみたいだが、世の中そんなに甘くはないということを知った方がいい。それに、

「おい、親切心から忠告してやるが……そこにいると危ないぞ」

確かに俺は子供たちを除けば一人ではあるが、今この場に居ないというだけで、味方になりそうな人が数そばまで来ているのを、近づいてくる気配で知っていた。なので忠告したのだが、

「貴様らが誘拐犯だな?」

少し遅かったようで、男たちのほぼ真上にあった下水道の出入り口から、恰幅のいい男性が 降(・) っ(・) て(・) き(・) た(・) 。

「おおっ! ヴァレンシュタイン男爵ではないか! 奇遇だな!」

「入口のところにいるのは気が付いていましたが……なんで 伯(・) 爵(・) が来たんですか?」

上から降ってきたのは、俺の数少ない貴族の知り合いであるフランベルジュ伯爵だった。伯爵は着地すると同時に、目の前にいた二人を殴り飛ばして昏倒させた。

「ち、父上! そこをどいてください!」

ついでに、何故かエリカの弟君も降りてきた。

「詳しい話はあとだ。ジーク、こいつらは警備兵の鎧を着ているが、敵で間違いないな? 向こうからも来ているぞ。指示を頼む!」

「そいつらとあいつらは敵で間違いないです。伯爵はその二人をお願いします。エイジは俺の代わりに子供たちの護衛、俺はあいつらを倒してきます。伯爵、情報を吐かせたいので、なるべく殺さないようにお願いします」

伯爵は敵と知らずに殴り倒したみたいだが、もしも本物の警備兵だったらとは思わなかったのかと少し心配になったが、まあ結果的には敵で合っているので問題にはならない。

「了解した! エイジ、子供たちを守れ!」

「は、はい!」

伯爵はエイジの背中を叩いて送り出すと、自身は残っている二人と向き合った。

「子供たちを頼むぞ」

まだ中等部の学生には荷が重いかもしれないが、新たに現れた敵は俺が引き受けるし、最初に来た奴らの残りは伯爵が逃さないだろうから大丈夫だろう。

援軍に駆け付けた敵は六人、あの笛で緊急事態だと知っているからか、すでに剣やナイフを抜いて戦闘態勢に入っている。

「『ダークミスト』、『テラー』」

俺は走ってくる敵に対し、ダークミストで敵の視界を奪いつつテラーを放つと、

「うがっ!」

「やめろ!」

「来るなっ!」

転んだり同士討ちを始めたり、混乱したりする音が聞こえてきた。それを確認して俺もダークミストに飛び込み、すぐにシャドウ・ダイブで影に潜って一人ずつ無力化していった。

「これで、最低でも敵の一味を八人確保できたか……伯爵の方は……ん?」

俺がエイジから離れて二~三分しか経っていないが、その間にエイジは敵の一人と切りあっていた。しかも、若干押され気味だ。

伯爵が一人逃してしまったのかと思ったが、伯爵は任せた二人を相手に戦っている。それならどこから……と思って周囲を確認したところ、伯爵が下りてきた際に倒したうちの一人が倒れたふりをしていたようだ。

それで子供でも人質にしようとエイジに襲い掛かったみたいだが、エイジが敵の予想以上に強かったおかげで、子供たちは無事だったようだ。

(助けに……入らない方がいいか。エリカの弟なら、似たようなところがあるかもしれないしな。その代わりに……)

下手に助けに入るとふてくされるかもしれないので、子供たちの安全だけ確保して自由に戦わせた方がいいだろう。

そう考えて俺は子供たちの前に立ち、エイジたちから距離を取らせた。

これで自由に戦えるだろう……と思っていたが、後ろを気にしなくてよくなったというのに、状況は先程と全く変わらなかった。つまり、

「最初から子供たちを気にする余裕がなかったということか」

まあ、それでギリギリとはいえ被害を出さずに済んでいたのだから、問題はなかったどころかそれが正解だったということだろう。

「伯爵は……助ける気がないみたいだな。なら俺も見学でいいか」

伯爵の方も終わったようで、今は地面に転がしている敵に注意を向けながらエイジの戦いを見守っていた。

「悪くはないみたいだけど……同年代の時のエリカと比べるとだいぶ劣るな。まあ、それでも十分張り合えているけどな」

敵はフランベルジュ家の騎士と比べると弱いが、それでも平均的な中等部のレベルよりは大分上だろう。

「うっ! ……くそっ!」

しばらく見ていると、敵の剣がエイジの腕を切り裂き、少なくない量の血が飛び散ったが……その際にエイジが反撃した一撃が敵の喉に刺さり、それが決定打となってエイジの勝利が確定した。

(まぐれ当たりにも見えたけど……それは言わない方がいいか。それよりも)

「エイジ、腕を見せてみろ……少し傷は深いが、これくらいならすぐに動かせるようになるな」

「うぎっ!」

そのまま回復魔法で治療してもよかったが、場所が場所だし相手の武器も汚れているので、念の為水をかけて傷口を洗い、傷薬を振りかけてから回復魔法を使用した。

こうすれば普通に魔法を使うよりも早く回復するし、感染症にかかる可能性をかなり下げることが出来る。ただまあ……その分かなり痛い思いをすることになるが、感染症にかかると最悪腕を切り落とさないといけないので、そのくらいの痛みで済むなら仕方がないだろう。

「それで伯爵、こいつらをどうやって運びますか?」

「そのことだが、もうじき援軍が来るはずだ。実はここに来る前に、エリカを警備隊の詰め所に走らせていてな。思ったよりも早く片付いたせいで間に合わなかったが、伯爵家の命令ということでそれなりの人数が来るはずだ。こいつらの運搬はそいつらに任せるといいだろう」

フランベルジュ伯爵とエイジがここに現れた理由は、この近くを通った際に人攫いから逃れた子供を見つけたからだそうだ。

たまたま出入り口から比較的近い道を伯爵家の馬車で通っていた際、子供が飛び出してきたので馬車を止め、その子供の様子がおかしかったので話しかけたところ、人攫いに会い近くの下水道の入り口に連れ込まれてしまったが何とか逃げ出したこと、一緒にいたもう一人がつかまったままだと知り、とりあえず出入り口の近くまで駆け付けたそうだ。

「上で援軍を待って突入しようと思っていたのだが、待機している最中に下の方から争う音が聞こえてきてな。多分、ジークが関係しているだろうと思って降りてきたというわけだ」

何故俺が下水道にいるのかと思った理由は、そもそも三人が馬車で移動していた理由が、ヴァレンシュタイン子爵家に行った帰りだったからだそうだ。

その時の俺はウーゼルさんの依頼中だった為不在だったが、その時にカラードさんから依頼で下水道に行っていると知らされていたそうだ。

ちなみに、三人がそろって俺を訪ねた理由は、エイジのやらかしのことを謝罪する為だったそうだ。

「いきなりで迷惑かとも思ったが、こういったことは少しでも早く動いた方がいいからな。ジークの都合がよければその場で謝罪し、悪ければ後日改めてという感じで行ってみたが、見事に空振りで終わってな。馬車の中でエリカにさんざん怒られてしまった」

エリカは、てっきりアポを取ってのことだと思っていたらしく、ヴァレンシュタイン家で伯爵の思い付きだったことを知って怒り心頭だったそうだ。

「結果的に、訪ねた日にジークと会えたのはよかったのだが……この感じでは、後日改めてというのは変わらないようだな」

「そうですね。俺はウーゼル陛下の依頼で調査に来ていますので、その依頼に関係がありそうなものを見つけた以上は、一度報告に向かわないといけませんし……」

ウーゼルさんへの報告を後回しにして伯爵を優先することは出来ないので、謝罪を受けるのは早くても明日か明後日以降になるだろう……といか、

「これに関わってしまった以上、伯爵たちもウーゼル陛下に報告しないといけないのでは?」

「そうだな。偶然とはいえ、陛下の依頼に勝手に割り込んでしまったからな。俺からも報告しないとまずいだろう」

本当に偶然なのか怪しくはあるが、結果的にいい方向に進んだので悪いようにはならないだろう。むしろ、王都に巣くう人攫い集団の一味の捕縛に伯爵家が力を貸したとなれば、多少なりともエイジのやらかしを軽減出来るかもしれない。

(そう考えたからこそ、当主と嫡男の二人で飛び込んできたんだろうな)

そんなことを考えながら伯爵を見ると、伯爵は俺の視線に気が付いてニヤリと笑った。しかも、

「勝ち馬には乗らないと損だからな」

とまで言い出す始末だ。

敵の素性は知れないが、俺が居れば負けることはないと確信してのことだったのだろう。まあ、唯一の誤算があるとすれば、エイジが深手を負ったことだが……多分、それすらも利用する気なのだろう。

なので、

「それにしても、敵もかなりの腕前だったようですね。騎士団の鎧も用意していましたし、もしかするとかなりの規模の犯罪者集団なのかもしれませんね」

少し探りを入れると、

「おお! ヴァレンシュタイン男爵もそう思うか! そうだとすれば、エイジはかなり格上の相手に勝ったことになる。まあ、証人の一人を殺してしまったのはもったいないが、不利な戦いだったのだから仕方がないな!」

と伯爵は答えた。まあ、実際にエイジからすれば敵は格上だったのは間違いないし、紙一重の勝利だったので生かしてとらえることが出来なかったのは仕方がない。

「こういったことはすぐにでも報告に行った方がいいが……流石に子供たちの件もあるし、最低でも警備隊に引継ぎをするまでは無理だな。それに……下水の臭いをさせたままで王城に行くのは憚られるしな」

伯爵たちは下水道に入ってまだ時間が経っていないのでそこまで臭いはこびり付いていないだろうが、俺は服を着替えるだけでは済まないだろう。少なくとも、水浴びをしたくらいでは消えないくらいの臭いが染みついている気がする。

そういったことからまずは警備隊の到着を待つことになり、待っている間に犯人の一味を縛り上げ自害できないようにし、見張りを伯爵たちに任せて一度隠し部屋に戻り、部屋の中にある証拠になりそうなものを手当たり次第に回収していった。

「パッと見ただけでも証拠になりそうなのがいくつかあるが……これ以上の確認は止めて、なるべくこのままの状態でウーゼルさんに渡した方がいいだろうな」

見てわかる範囲で置いてあったものをマジックボックスに入れていったが、もしかするとさらに隠し部屋のようなものがあるかもしれないので、もう一度入り口をふさいで伯爵たちのところに戻ることにした。その際、部屋の中と外に縛ってほったらかしにしていた犯人の一味を連れていくか迷ったが、俺一人では全員を連れて行くのは無理なので置いていくことにした。

ただ、外に放置していたうちの一人は入り口から落ちた時に打ち所が悪かったらしく戻った時にはすでに死んでいたので、他の証拠と一緒にマジックボックスに入れて持ち帰ることにした。

下っ端みたいな感じなので大した証拠にならないかもしれないが、死体ならマジックボックスで持ち運べるし、人相で人物照会くらいは出来るかもしれないので念の為だ。

最後に入り口をもう一度塞ぎ、急いで伯爵たちのところに戻ると、すでに警備隊が到着していて俺の代わりに伯爵が説明し終わった後だった。

伯爵の言う通りなら、エリカも来ているはずだが……と思い姿が見えなかったので、伯爵に聞いたところ上で待機中とのことだった。

なんでも、すでに問題が片付いているのと、下水道の臭いを嫌がって降りてはこなかったとのことだが……上から覗いただけで嫌がるくらいの臭いということは、今の俺はエリカが顔をしかめる程度では済まないくらいの臭いがこびり付いていることだろう。

ヴァレンシュタイン家の屋敷に戻る前どころか、大通りに出る前に少しでも臭いを消さないと、下水の臭いをまき散らす不審者と通報されてしまうかもしれない。