作品タイトル不明
第十話
「あら、騒がしくしてしまってごめんなさいね。つい興奮してしまって」
俺と同じく、起きていることに気が付かなかったサマンサさんがエリカに謝ったが、エンドラさんは自分は騒がしくしていないと言った態度で、どことなくサマンサさんを責めるような目をしていた。
「師匠、何か言いたいことでも?」
「いえ、無いわ。そんなことよりも、フランベルジュさんはどうして反対なのかしら? 何か理由があるのなら教えてほしいわ」
エンドラさんがどうしてそう言う聞き方をしたのかは分からないが、もしかするとエリカの様子から何か別の理由があると思ったのかもしれない。
「ほとんどサマンサさんと同じ理由なのですが、今回はファブールだけでなく、聖国も話し合いに参加するんですよね? そして、聖国からは聖女も出るとか?」
「ええ、そうね……って、そう言えばジークとフランベルジュさんは聖国の聖女と知り合いなのよね?」
そう言えばクレアも来るとか聞いていたな……と、俺がその存在を忘れていたことを思い出していると、
「私は知り合いという程ではないですが、ジークは か(・) な(・) り(・) 親しい仲だそうですし、それをうまく利用できれば、ジークのことを公表しなくてもファブールを抑え込むことは可能ではないでしょうか? ジークのことを隠してファブールを抑え込むことが出来れば、周辺国との関係悪化の可能性を理由に、王国側の貴族も抑え込むことも出来るはずです。なので、まずはファブールに悟られないように、聖国と接触は出来ないでしょうか?」
確かに、クレアを利用……助けを求めることが出来れば、武力行使は避けられるかもしれない。
怪しいところは多々あるものの、聖国は宗教国家と呼ばれている国であり、掲げる教義の一文に人の救済を目的とすると言った感じのものが書かれているそうだから、信徒のみならず一般人がむやみやたらに血を流すような状況を避ける為にこちらに協力する可能性はある。
「確かにやってみる価値はあるわね。ただ、国として協力を求めることは難しいと思うわ。バルムンク王国は、過去に聖国が王国の中枢近くに強い影響力を持つことを嫌い遠ざけたことがあるわ。それがもとで両国はあまりいい関係であるとは言えないわけだけど、もしもこちらから協力を打診した場合、それ相応の見返りを求められるのは目に見えているわ」
いくら人を救う目的があるとはいえ、今回は完全な慈善事業ではないはずだから、国として何らかの利益を得ようとするのは当然のことだ。
「クレア単独なら何も考えずに協力してきそうだけど、今回はそれを止める奴がいるだろうし、味方につけるのは無理だろうな。そもそも、聖国はファブールの要請で動いている以上、王国よりは向こう寄りの動きをするだろうし……せめて、あくまでも今回は王国とファブールの問題であるということで、中立の立場でいるように頼むくらいしかできないかもな」
出来ることなら明確な敵に回すことは避けたいところだが、聖国はそれを知った上で見返りを求めてくるだろうし……マジで面倒臭いな。
いっそのこと、聖国と合流する前にファブールの使節団を襲うのもありか? ……とも思ったが、そうなったらそうなったで、証拠がなくても使節団を襲ったのは王国の関係者だと言いふらす可能性があるな。
どうしたものか……と頭を悩ませていると、
「エリカ様」
メイドが少し慌てた様子で部屋に入って来て、エリカに耳打ちをした。
その際、俺は少し離れた位置に移動したので、メイドの言葉が聞き取れなかったのだが、エリカの驚き様から少し面倒なことになるのかもしれないと思った。
「ジーク、今屋敷にエレイン先輩が私のお見舞いに来ているそうよ。ここに通してもいいかしら?」
「先輩は 個(・) 人(・) 的(・) に来たのか、それとも 公(・) 爵(・) 家(・) として来たのか、どっちだ?」
まあ、エリカがそんなふうに聞いてくるということは、
「公爵家としてよ」
それしかないよな。
もしもこれが個人的に来たというのなら、エリカは俺に許可を取るような言い方はせずに一人で決めて、サマンサさんとエンドラさんがいるこの部屋ではなく、別の部屋で会うようにするはずだ。
「嫌だと言いたいところだけど、そうも言ってられないよな……まず間違いなく、ファブールのことで来たんだろうし」
「まあ、そうでしょうね。もしそうなら、私たちもいた方がいいでしょうけど、違う話なら私とサマンサは別の部屋に移動するわ」
エレイン先輩の用事がファブール関係のことなら二人もいた方が何かと都合がいいだろうし、違うというのならその時に席を外してもらえばいいだけだ。
まあ、公爵家として来ているのにファブールの話が出ないことは無いだろうけど。
「失礼します」
公爵家の者として来たからなのか少し口調の堅い先輩は、部屋に入るなりエンドラさんと目が合い少し気圧されていた。
「師匠、カレトヴルッフのお嬢さんを睨んではいけません。可哀そうですよ」
「失礼なことを言うわね。別に睨んだわけじゃないわよ! たまたま視線を上げたら目が合っただけよ!」
先輩の緊張をほぐす為なのか、それとも軽くけん制を入れたのか分からないが、今のコントのようなやり取りだと、素でエンドラさんの目つきが悪いということになりそうなのだが……何かを感じ取ったのかエンドラさんが俺の方に視線を向けてきたので、これ以上は考えない方がよさそうだ。
「かなり酷い状態だと聞いたのだけど、大分よくなったみたいね」
「ジークがいい治療法を見つけてくれたおかげです」
二人は表面上こそ親し気に話しているように見えるが、いつもより余所余所しい態度なのがよくわかる。
そんな二人の会話がしばらく続き、話が途切れたところで、
「それで、今日の訪問の目的はどう言ったものでしょうか、エレイン・カレトヴルッフ 殿(・) ?」
俺の方から話を振ってみることにした。
カレトヴルッフ公爵のせいでぎくしゃくすることも多いが、個人的にはエレイン先輩は信用しているし、学園の時からお世話になっている人物だと俺は感じている。
まあ、ぎくしゃくする原因の全てが公爵のせいとは言い切れないところがあるので、信用し恩義もあるが、それと同時に油断はできないとも思っているけれど。
「え、あ、えっと……そう、ですね……」
別に圧力をかけたつもりはないのだが、今この場には俺とエリカの他に、サマンサさんにエンドラさんもいる。
俺とエリカだけならば、先輩はここまで緊張することは無かっただろうが、ウーゼルさんへの影響力が高いヴァレンシュタイン伯爵家のサマンサさんと、影響力ではある意味公爵家を凌ぐ『今代の緑』のエンドラさんがいることで、下手を打つと政治的大問題に発展してしまうかもしれないと先輩は考えているのかもしれない。
まあ、二人が来ている可能性は頭に入れていただろうから、今更と言えば今更なのだろうが……逆に考えれば、エレイン先輩の目的がそれだけの危険をはらんだものであるということなのだろう。
もっとも、先輩が緊張している一番の理由は、横からエンドラさんが睨んでいたからだろうけど。
「こちらへどうぞ」
「よかったら、お茶とお菓子も食べてね」
先輩の意識を俺に向けさせたところで、ようやく本題に入ろうとしたところ、背後に控えていたメイドの仕事を先回りするかのようにサマンサさんが席を整え、エンドラさんがお茶とお茶菓子を用意した。
これでは余計に委縮するだろうと先輩を見ると、思った通り先輩の顔は引きつっていた。
流石にそれはやりすぎだろうと思ったが、俺がここで表立って庇うと二人が拗ねて攻撃対象を俺に変えるのは目に見えているので、
「エリカもお茶でいいか?」
「え、ええ、少し薄めでお願い」
「あっ! ついでに私のもお願いね」
中立になりそうなエリカと、空気を読まずに俺をこき使いそうなディンドランさんを利用することにした。
まあ、利用すると言ってもエリカは俺の思惑を理解した上で乗って来たみたいなので、利用できたのはディンドランさんだけだが……と考えたところで、もしかするとディンドランさんもエリカと同じなのではないかと思ったが……俺のお茶菓子にこっそりと手を伸ばそうとして俺と目が合い、慌てて手を引っ込めているのを見てそれは無いなと確信した。
ただ、そのおかげで先輩の緊張も多少はほぐれたみたいなので、お茶を渡すついでに俺の分のお菓子もあげた。
「先輩は公爵家の者として来たと聞きましたが、どういったご用件でしょうか?」
そろそろいいだろうと思い単刀直入に聞くと、
「サマンサ夫人と学園長……エンドラ様がいるということは、すでにファブールの話は聞いていますね?」
落ち着きを取り戻したエレイン先輩の言葉に頷くと、
「ファブールの使者と対面する際、父のカレトヴルッフ公爵が主に交渉することになります。その場ではヴァレンシュタイン子爵にもファブールの使者と聖国の使者が話しかけると思われますが、一切応じずに父に任せてください」
先輩はそう続けた。
まあ、あの戦争で目立った俺に向こうが興味を持って、会談中に探りを入れてくることは確実だろうし、呼ばれたとはいえ子爵が公爵を差し置いて応じるのは普通に考えれば不敬にあたるので、許可が出るまで黙っているのは当然だろう。
ただ、それだけの為にわざわざ先輩が公爵家を代表して会いに来るのは腑に落ちない。
そんな思いを込めた視線を先輩に送ると……先輩が目を逸らした。
流石にこれには俺だけでなく、エリカやサマンサさんにエンドラさんも気付き、先輩は四人の視線を受けて固まってしまった。
俺とエリカだけの視線ならエレイン先輩は問題なかっただろうが、アナ様の親友でありウーゼルさんとも長年親しい間柄のサマンサさんと、王国の切り札とも言える人物でウーゼルさんに強い影響力を持っているエンドラさんまで加われば、いくら公爵家の代表として来ていても耐えることは出来なかったようだ。
「さて、エレイン・カレトヴルッフさん……何を隠しているのか話してもらいましょうか?」
「そうですね。知らなければ対処の使用がありませんし……ジークだけでなく、私たちも気になりますしね?」
それまで黙っていたエンドラさんが口を開き、エレイン先輩に向かって笑みを浮かべると、サマンサさんも同じように笑顔で先輩を見つめた。
「う……え……」
そんな二人の好戦的な笑顔を前に、先輩は涙目になっている。
まあ、それは無理もないだろう。何せ王国最強の今代の緑と、今代の黒 候(・) 補(・) と言われている二人に敵認定されているようなものだ。
涙目の状態で堪えているだけ、先輩を褒めるべきなのかもしれない。
「はい、そこまで。お茶のお代わりがいる人は?」
ただ、このままだと先輩が泣きだして双方共に気まずいことになりかねないので、ここで強引に話を打ち切って雰囲気を落ち着かせることにした。
「あっ! お願いね。あと、お茶菓子のお代わりも」
「私もお願い」
それに真っ先に乗ってきたのはディンドランさんで、そこにエリカも続いたことで、それまでとげとげしかった空気は一変し、サマンサさんもエンドラさんも先輩に敵意を向けるのを止めた。
そして二人もお代わりを要求してきたので淹れて渡したところ……熱いだの渋いだのと文句を付けてきた。
「では改めて……先輩、ここに来た 本(・) 当(・) の(・) 理(・) 由(・) をそろそろ話してもらえませんか?」
いい加減あの二人を抑えるのは難しくなってます……とは言わずに先輩を問い詰めると、
「……気を悪くせずに聞いて欲しいのだけど……公爵家に近い貴族の中から今回のファブール対策として、ジークを使って聖国の聖女を篭絡させようという話が出たの……よ……」
話し終える直前で、先輩の動きが止まった。
ただそれは俺が何かしたからというわけではなく、俺やエリカとは別方向からの怒気に反応してのことだ。
「三人共、少し落ち着いて。こんな話が出るのは予想していたことでしょ?」
何なら俺たちの間でも、篭絡ではないにしろ知り合いという立場を利用して懐柔できないかと、割と近いことを話していたはずだ。
俺が止めると、エンドラさんとサマンサさんはすぐに怒気を引っ込めたので、この 二(・) 人(・) に関してはアピールの側面があったのかもしれないが、ディンドランさんはかなり本気で怒っており、今のところ一応怒りを抑え込んではいるものの納得はしていないという顔をしている。
まあ、幸いなことに、ディンドランさんの怒りはエレイン先輩に向けられてはいないので、先輩の身が危険にさらされるということにはならないはずだ。
「それで先輩、それに対するカレトヴルッフ公爵の対応はどんなものでしたか?」
ただ、公爵がどう対応したかによっては、また三人の怒りが再燃する可能性があるので気を付けなければならないのだが、
「そ、それに関して公爵は、かなり強めの言葉で叱責しました。これは誓って本当のことです!」
ひとまず安心していいようだ。
先輩は俺に対してはというよりも三人に向けて答えていたようで、三人の気配が変わらなかったことに安堵している。
「まあ、公爵は奥様を大事にしている方だし、婚約したての若者を政治目的でハニートラップのようなものに利用しようとするとなれば止めるのは当然よね……もしもそれに乗っかるようなら、私が直接公爵と お(・) 話(・) し(・) しなければならないところだったわ」
エンドラさんも、そんなことを言いながら安堵の表情を浮かべているが……間違いなくその内容は武力を使ったものになるだろうし、安堵の表情は面倒な後始末をしなくてよくなったからだろう。今代の緑が暴れるとなったら、いくら公爵家でも無傷ではいられないだろうし、下手をすると初手で公爵自身が跡形もなく消え去る可能性もあるから、その場合はエンドラさん対公爵家から、エンドラさんと俺対バルムンク王国、もしくはバルムンク王国の一部有志に繋がりかねない。
「公爵家がその悪だくみに乗らなかったのは分かりましたが、それをわざわざ伝えに来た理由は何ですか? こういってはあれですが、その話は公爵家の派閥内で出た話ですよね? 黙っていれば後でバレたとしても、公爵家が反対して終わった話だで済まされるんじゃないですか?」
だから俺としては公爵家が敵に回らなくて一安心というところもあったのだが、わざわざ公爵家が自分でその情報を流す必要もなかったのではないかとも思ったのだ。
「そのことに関しては公爵……お父様も一応その考えはあったようですが、お兄様が隠すこと決めた直後にその情報を流される危険性を考えるべきだと主張したのよ。それでお父様も私にこのことを伝えに行くように命じたわけ」
話していくうちに緊張が解けてきたのか、先輩はいつものような口調になっていたが、
「成程ね。身内に敵がいる可能性もあるというわけね。確かにそうだった場合、カレトヴルッフ公爵家かヴァレンシュタイン伯爵家と 私(・) を陛下から遠ざけることが出来るかもしれないわ。そうなれば、どちらが離れても陛下の派閥の弱体化に繋がる……と」
エンドラさんが、さらっといざという時はウーゼルさんよりもヴァレンシュタイン家に付くというような発言をしたが……まあ、確かにどちらがエンドラさんと親しいかと言えば、サマンサさんのいるうちの方だろう。
「は、はい! 例えエンドラ様が中立を保ち派閥に変化がなかったとしても、ヴァレンシュタイン伯爵家にとっては面白くはないでしょうし、表面上は変わらなくとも内情はこれまで通りと言うのは難しいと思います。そうなれば多少なりとも齟齬が生まれ、いずれはそれが大きく影響すると、お兄……カレトヴルッフ公爵と嫡男のラヴィンは考えました。私が伝えに行くように命じられたのは、私が二人と面識があり公爵家の中では一番親しい間柄だと判断したからです」
急にエンドラさんに話しかけられたせいで、先輩の口調がまたよそ行きのものに変わったが、エンドラさんもサマンサさんも口調に関しては気にしていないようないし、そこまで緊張しなくてもいいような気がする……とも思うが、先輩からすればそうもいかないので仕方がないのだろう。
それに二人は今の先輩の話に嘘はないと判断したようで、雰囲気も表情も柔らかなものに変わっているし、ディンドランさんもそんな二人を見たからか落ち着いていた。
これだけでも、先輩……と言うか公爵家が危険を冒してまで内部での話し合いの内容を伝えに来た意味があると言えるだろう。
それにしても、
「俺、公爵とはあまり仲良くできないと思うけど、ラヴィンなら何とかなりそうだな……まあ、一度しか会ったことがないから今のところの話だけど」
などとエリカに耳打ちすると、それが先輩にも聞こえたのか、
「お兄様にはあまり野心はないと思うわよ。よくお父様が自分に似ていないというくらいだし、お父様のように公爵家を今よりも発展させるという考えではなく、より長く安定させたいと考えているみたいね」
と教えてくれた。
それが本当なら、下手に俺と争って派閥に亀裂を入れるよりも、本心では嫌っていたとしてもそれを表に出さずに、ある程度仲良くしておいた方が自分たちの為になると考えているのかもしれない。
逆に言うと、害になるなら潰しにかかるかもしれないとも言えるけど。
「そもそもの話、単独でソウルイーターを倒し、監禁されても自力で逃げ出せる上に、短時間で百人以上を誰にも気が付かれずに始末できるような人物を敵に回すのは、まともな考えをできる人なら選ばない選択よ。おまけにジークと敵対すれば、自動的に王国でも最強の戦力を相手に回すことになるかもしれないし」
先輩は呆れた様子でそう言うが、それは下手をすると自分の父親はまともではないと言っているのと同じではないのだろうか? まあ、最近の公爵は前よりも俺に敵意のようなものを向けてくることは無くなったけれど……ガウェインに近いところにいる俺を嫌っているのは間違いないだろうし、そのせいで俺の方もどちらかというと公爵は嫌いな部類に入っているのは間違いない。
ただ、いくら嫌いだからと言って公爵という地位は俺の想像以上の権力を持っているのは間違いないし守るものが増えた以上、表面だけでも敵対はしていないとアピールする必要はあるのかもしれない。
今後は例えとてもむかついたとしても、まずは一度深呼吸してから相手を睨みつけよう……そんな覚悟を決めながら、俺たちは他愛もない話を続けた。
「それじゃあ、そろそろお暇しましょうかしら? 思っていたよりも話が弾んで、長居しちゃったみたいだし」
先輩はそう俺たちに言いながらも、意識は背後にいるエンドラさんとサマンサさんに向いている。
まあ、明らかにあの二人は俺たちの会話に聞き耳を立てていたので、先輩にしてみればある種の情報戦のようなものだったのかもしれない。
「確かに、結構長いこと話していましたね」
「学園の時でもここまで話したことは無かったような……そう言えば話は変わりますけど、少し前にこんなのを作ったんですよ」
そろそろお開きになるみたいなので、その前にわざわざ見舞いに来てくれたお返しに、俺はドラゴンの素材で作ったショートソードを二振り取り出した。
「周りにも割と好評だったので、追加で作った分なんですけど、良かったら貰ってください。一本は先輩で、もう一本はラヴィンの分です」
追加で作った分なので最初に作った分よりも多少劣るが、それでも一級品の素材を使って一流の職人に作ってもらったものなので、公爵家から見ても上等部類に入るもののはずだ。
「え? いえ、こんなに上等なものを貰うわけには……」
「アーサーにもあげたくらいですから、お世話になった先輩にあげないわけにはいきませんし、ついでにラヴィンにも多少迷惑を掛けましたからね。まあ、流石にアーサーに渡したものよりは劣りますし、まだ数もあるので遠慮なく貰ってください」
先輩は遠慮したいみたいだが、ここは無理やりにでも貰ってもらうとしよう。
そう思いながらエリカに目配せすると、
「先輩、ジークもこういっていることだし、貰ってやってください……と言うか、ここだけの話ですけど、ジークが作らせた武器の良さがどこからか広がっているみたいで、どうにかして手に入れようと狙っている人たちがいるみたいなんですよ。なのでジークは、特に個人的に親しい相手以外には、カレトヴルッフ公爵家のような大貴族くらいにしか渡さないという線引きがしたいんだと思います」
エリカも俺の思惑に気が付いたようで、しっかりと援護に回ってくれた。
「……そう言う事情があるのなら、ありがたくいただきます」
そのおかげで、先輩は俺の差し出した二振り手を伸ばしかけたが、
「ついでに、俺をハニートラップに使おうとした奴らの名前を教えてもらうことは出来ませんか?」
そう言うと手を引っ込めた。
「それが交換条件というのなら、いただくわけにはいきません。その者たちは、公爵家の責任で対処しますので、お教えいたしかねます」
「そうですか……それは残念ですが、公爵家が全ての責任をもって対処してくれると確約してくれるのなら、今回の件に関してはこれ以上何も言いません。それと、この二振りはその交換条件というわけではないので、貰ってもらわないと俺の方が困ります」
もっとも、先輩がこれ以上身内とも言える貴族の情報をくれるとは初めから思っていなかったので、駄目もとで聞いてみただけだ。
なので差し出したものを受け取ってもらえないのは、こちらとしても本当に困る。
何とか説得して、半ば押し付けるような形になってしまったが無事にショートソードをお土産として受け取ってもらい、俺とエリカで先輩を部屋から見送った。
そして振り返ると……笑顔で俺を見ているサマンサさんとエンドラさんがいた。