軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十一話

「王国軍? 連合軍はまだ動かないはずだから、やっぱり侯爵軍が先走ったか⁉」

ファブール軍がバタバタと動き始めたのを遠くから確認し、俺はすぐに周辺の地図を頭に浮かべ、ファブールの先陣がどちらの方角に向かうかを見守った。

「やっぱり、連合軍の陣がある方とは少し角度が違うな……いくつかの部隊は連合軍の方へ向かっているみたいだけど、あれは迎え撃つのではなくけん制と守りを固める為だろうな」

ほとんどの部隊は侯爵軍が陣取っていた方へと向かっているので、ほぼ間違いなく攻めてきたのは侯爵軍だろう。それにしても、

「暗くなったところで奇襲を仕掛けたつもりだったんだろうが、バレるのが早くないか? もう少し工夫すればよかったのにな。あと、日付が変わるくらいまで待たないと、奇襲の意味があまりないだろ」

せめて、少数の部隊をバレないように接近させて奇襲をかけ、混乱したところに全軍を突っ込ませるくらいすればよかったのに、あの様子では暗いから全軍で近づいても大丈夫だとか思ったのかもしれない。

まあ、流石にそこまで馬鹿ではないか。多分、自分たちの方が数が多いから、早く動けばそれだけ有利に戦えるとか考えて行動したというところだろう。

「ファブールが見張りを付けているとは思わなかったのかねぇ……まあ、いいか。侯爵軍がどうなるか分からないが、これで戦争が大きく動くのは間違いない。やるか」

ファブール軍が負けるとは思えないが、それなりに被害は出るだろうから下手をすると今代の雷が撤退してしまう可能性がある。

一度引き返すつもりだったが、この混乱に乗じて俺ももう一度狙ってみるとしよう。まあ、その前に、

「侯爵軍の手伝いになってしまう可能性もあるが……まあ、その前に負けるだろうから、問題は無いだろうな」

ファブールの陣に潜入し、事前に調べておいた武器の保管場所に潜り込んで武器や防具をマジックボックスに片っ端から放り込み、続いて食料の保管場所へと向かって同様に食料を回収した。

保管場所は陣の中に何か所かあったのですべてお回ることは出来なかったが、それでも半数以上は潰せたので侯爵軍が負けた後でファブール軍と戦うことになる連合軍の大きな助けになるはずだ。

回収したものは戦争が終わった後で伯爵に相談してどうするか決めればいいが、恐らく食料はすべて手放すことになるだろう。

戦争で混乱させたこの周辺の町や村にファブール軍からの戦利品として配るだろうし、何よりも安全が確認できないので俺としてはあまり使いたいとは思わない。

とにかく、これでファブール軍は連戦がかなりきつくなったはずだ。

あとは伯爵が連合軍を動かしてくれるのを祈るだけだが……その前に、今代の雷を倒せば全ての方が付く。

それに、今なら俺が強めてしまった警戒心も、侯爵軍の方へと向かっているだろう。

撤退される可能性が出てきた以上、これが最後にして最大のチャンスだと覚悟を決めるしかない。

もう一度冒険者ギルドを目指して移動していると、すでに王国軍が攻めてきたという知らせが広まっているらしく、街の中はかなりの混乱が起こっていた。

この様子だけ見ると侯爵軍は街の奪還ではなく、逆に侵略を仕掛けてきたようにも思えるが、国として正しいのは侯爵軍なのだ。まあ、俺……と言うか連合軍は、そんな侯爵軍の敗北を願ってはいるが。

ただ、今は立ち止まってファブール軍の勝利を応援する暇などないので、非難をする人たちの影の中を通り、冒険者ギルドの建物へと侵入した。

建物の中でも混乱は怒っており、街の防衛の為に出た方がいいという冒険者と、どちらが勝つか分からない以上、どちらにも見方をしない方が街の為になるという冒険者とで言い争いが起こっていた。

そして今代の雷と共にいた兵たちは、そんな冒険者をただ見ている者と、外の軍や他の兵と連絡を取る為に走り回っている者がいて、明らかに今代の雷の周辺の警戒が薄れている。

気配を探ると今代の雷は部屋にいるらしく、多少の動きがあるみたいなので起きてはいるようだが、外に出ようという感じはしなかった。

(もう次は無しだ!)

俺は全力で影の中を移動して今代の雷の部屋に入り込むと同時に、

「死ね!」

影から飛び出してダインスレイヴで切りかかった。

「ひっ! うわぁあああ!」

今代の雷は頭を抱えながら椅子に座っていたので、今の一撃で仕留められると思ったのだが……流石にそれは考えが甘く、今代の雷は椅子から転げ落ちながらもギリギリのところでダインスレイヴを躱した。

ただ、前の時とは違い、影から飛び出るまで俺の気配には気が付かなかったようで、致命傷こそ避けたものの、その腕からは血が飛び散り今代の雷の服を赤く染めている。

「まだ浅いか! でも!」

腕を切り落とせなかったとはいえ傷は骨の近くにまで達しているし、奇襲と腕の痛みのおかげで今代の雷は混乱している。

雷の魔法は怖いが、今は距離を詰めた方が勝率は高い。しかし、

「くそっ!」

続く俺の一撃を、今代の雷は完全に読み切ったかのような動きで回避した。そして、

「『プラズマボム』」

今代の雷の放った魔法が俺の目の前で爆発を起こし、俺と 今(・) 代(・) の(・) 雷(・) は(・) 共に下の階へと落下した。

(自爆攻撃か!)

今代の雷は、俺と距離が近すぎるせいで下手な魔法では避けられた場合、次こそ致命的な隙を与えてしまうと判断したらしく、自らの危険を顧みずに範囲攻撃を仕掛けてきたのだろう。

そのせいで互いにダメージを負ったとはいえ、俺はダインスレイヴを振るうことが出来ずに距離を取らされる羽目になってしまった。

ただ、流石に今代の雷も自分が致命傷を負う程の威力は出せなかったようで、ほぼ直撃でかなりのダメージを受けたとはいえ、こうして立ち上がることが出来ている。

もっとも、立ち上がれるというだけで、先程までのような動きは少し難しい状態だが。

「おまけに、他の奴らまで駆け付けてきたか……」

流石にこれだけの騒ぎが起これば、残っていたファブールの兵だけでなく冒険者たちも駆け付けて来るよな。

おまけに、あの様子だと冒険者も俺の敵になりそうな雰囲気だ。

「よくもやってくれたな! ライトニングボルト!」

「くっ!」

他に気を取られた隙に今代の雷の魔法が俺に向かって放たれたが、これは何とか避けることが出来た。

魔法が放たれた方を見ると、今代の雷が怒りの形相で立っていた。しかし、先程俺が与えた傷と、今代の雷自身の魔法で負ったはずの傷が見当たらない。

(回復魔法? いや、そんな魔法が使われた気配は……あれか!)

回復魔法を近くで使ったのだとしたら、かすかにでも魔法を使った気配があるはずだが、それが感じられなかったということは別の手段で回復したということだ。

そう考えた瞬間、俺は今代の雷の手に握られている 瓶(・) に気が付いた。

「やっぱりこいつは効くな!」

そしてその瓶の中身は俺の思った通り今代の雷を回復させたものであり、今代の雷は別の何かを口に放り込んだ後でそれをかみ砕き、瓶に残っていた液体で流し込んでいた。

「覚悟しろよ、この賊が!」

今代の雷は瓶を放り投げて刀を抜いたが、魔法は使う気がないようだ。

恐らく、ここで使えば仲間や冒険者たちに被害が出るのと、俺の状態から魔法を使は無くても十分対処できると踏んだようだが……あいつは知らないだろうが、これでも俺は今代の黒なのだ。

この状況を打破する手段くらいは持ち合わせている。例えば、

「ダインスレイヴ……存分に喰らえ」

俺を囲んでいる有象無象の 餌(・) を使って回復とかのな。

「え……」

「あ……」

「な、何だ、これ……」

ダインスレイヴを全開にした瞬間、今代の雷を除く俺を囲んでいた奴らは次々に床に倒れていき、ひどい奴になると口から泡を吹いて意識を失う者まで現れ始めた。

まあ、そう言った奴らはまだ若いかかなり年かさの奴ばかりだったが、今代の雷以外で倒れていないのは数人だけになっている。まあ、立っているのは今代の雷一人のみで、残りは倒れてこそいないが膝をつくか椅子や物にもたれかかっていると言った具合だ。

「この外道が! いったい何をしやがった!」

この状況を見て、今代の雷は俺から距離を取って非難してきたが……それはお門違いというものだ。何故なら、

「外道はお前たちの方だろ? 俺はただ、占領された王国の土地を取り返しに来ただけだ。そんな俺に対し、侵略者の味方になって取り囲んできたんだ。これはあれだ、受けて当然の報いと言うやつだ」

俺の味方をするならともかく、敵対行動ととれるようなことをしたのだ。攻撃を受けるのは当然だろう。

「ライトニングボ……くそ!」

今代の雷から魔法を使う気配がしたので、少しでもずれたら他の奴らに当たるような場所に移動した。

「どうした? 撃たないのか?」

「この卑怯者めっ!」

「一人を大勢でなぶろうとしておいて何を言う」

怒りの表情を浮かべる今代の雷だが……別に人質に取ったわけではないし、そもそもたった一人を相手に囲んできたのは自分たちなので、魔法を使うには仲間が邪魔になると言った状況も想定しておくべきだった。まあ、大勢でとは言ったものの、そんなところに一人で来た俺の方に原因があると言えばそれまでなのだけどな。

ただ、今代の雷は俺の言葉のおかしな点に気が付かなかったようで、歯噛みしながら俺を睨んでいるが……もしかすると、こいつは戦闘に関する経験が足りていないのかもしれない。それも、たった一人で敵と戦ったことがないか、自分と正面から向かってこれる程の奴を相手にしたことがないとかの、自分を追い詰めるようなことのだ。

「なら、そこに勝機があるな」

俺自身、自分と同じくらいの強さの者と殺し合いをしたことなど片手で数えておつりがくるくらいしか経験はない。だが運のいいことに、それに近いことは日常的にやってきたし、何よりもつい先日、この世界で一番強い人に殺されかけてそれをしのいだばかりなのだ。

あいつと俺との間には、山よりも高い経験の差がある。

俺はダークミストで周囲を闇で覆うと、近くで転がっていた冒険者を今代の雷に投げつけた。

「そんな手が、うおっ!」

飛んできた冒険者を俺と勘違いしたのか、一瞬刀で切りつけようとしていた今代の雷だったが、それが俺ではないと気が付いてすぐに受け止めようとした。だが、

「ぎやっ!」

後ろから迫った俺の一撃を受けて、今代の雷の背中は血まみれになり、受け止めた冒険者を放り出していた。

「くそっ! これも浅いか!」

今回も真っ二つにするつもりでダインスレイヴを振るったというのに、寸前で回避行動をとられたせいで傷は骨にすら届いていない。

(専門的な訓練を受けた様子は特にないのに、なんで躱されるんだ? 魔法か?)

反応速度からしても身体能力自体はかなり高そうだが、戦闘に慣れていないところがところどころ垣間見えるせいで、その分だけちぐはぐな印象を受ける。おまけに、けん制の為の蹴りなどの大したことのない攻撃はもろに引っかかるくせに、本命の攻撃に関しては未来が見えているのかと思うくらいの先読みで回避して、被害を最小限に抑えている。

(おまけに、何度傷つけてもあの瓶を使って回復しやがる……くそが!)

さらには同じ『今代』のせいなのかダインスレイヴの能力の効きが悪く、今代の雷から時間をかけて体力を奪い、いくら致命傷以外の傷を負わせても、あの薬で一気に全回復されるせいで、俺が推しているように見えても互角、もしくはやや俺の方が分が悪い状況だ。

ただ、このまま戦いを長引かせ、奴の持っている薬を全て使い切らせることが出来れば、一気にこちらに流れが来るが……その前に、

「そろそろ慣れてきたぜ! お前の動きによぉ!」

俺が絶対的に勝っていたはずの経験が、少しづつ差を縮められ始めた。

正確に言うと、全ての経験がではなく、今代の雷の言うように俺への 慣(・) れ(・) 、俺との戦闘に特化した対処法ではあるが……相手は俺と同格の今代の雷だ。

わずかとはいえ俺の優位性が減るということは、ミスをする可能性が高まるということであり、今代同士の戦いでは少しのミスが致命的なものに繋がるのだ。

つまり、

「ダインスレイヴ、喰らえ」

今、俺に追いついたと油断した今代の雷は、俺の目の前で致命的なミスをしたということになる。

俺は魔法を放とうと足を止めた今代の雷に、銃形態に変えたダインスレイヴを向けて引き金を引いた。

ただ、流石に全力で放つには俺も力を溜める時間がなく、威力はいつもよりも低めだが、それでも並みの人間なら住人まとめて屠るくらいの威力は出ている……あくまでも、 並(・) み(・) の(・) 人間が相手ならだ。

今代の雷を飲み込み、ギルドの壁を破壊して外へと飛び出した一撃は、空に吸い込まれるようにして消えたが……今代の雷は直撃する寸前で魔法を使い威力を殺すことが出来たらしく、ボロボロの状態で地面に転がってはいるものの、腕の一つも失うことなく意識を保っていた。

「ダインスレイヴ!」

今代の雷にとどめを刺す為に外に飛び出た俺は、すぐにダインスレイヴを放った。

先程と同じく速度重視なので威力は低いが、今の今代の雷を殺すには十分過ぎるほどだ。しかし、

「ケラウノス……」

今代の雷が何かをつぶやいたと思った瞬間、すでに放たれていた速度重視のダインスレイヴの一撃を、一筋の強烈な光が上空から落ちてきて直撃してかき消した。そして、

「ケラウノス……ケラウノス……ケラウノスゥウウウ!」

連続して上空から雷が俺に向かって襲い掛かってきた。

「くっ! 速い!」

今代の雷が使った『ケラウノス』という魔法は、速度重視のダインスレイヴの一撃をはるかに上回る速度で、まさしく 閃(・) 光(・) と呼べるものだった。

今避けていられるのは、正直言って勘によるところが大きい。

(間隔が短い上に、強烈な光で影がかき消されている。これだと潜れない)

影に潜って逃げようとしたものの、今代の雷の魔法が速過ぎて影に潜る隙が無い。仮に何とか潜れたとしても、潜った瞬間に影がかき消されて俺は影の中から外へと弾き飛ばされてしまうだろう。そして弾き飛ばされた次の瞬間に、ケラウノスが俺に襲い掛かってくるはずだ。

「ケラウノス、ケラウノス、ケラウノス! ケラウノォーーース!」

このケラウノスは、威力こそダインスレイヴに劣るが、速度の速さから言ってかなりの魔力を消費するはずだ。なのに今代の雷は、先程から休むことなく撃ち続けている。

(それほどまでに魔力量が多いのか? ……いや違う!)

数えていたわけではないので正確な数は分からないが、今代の雷の放ったケラウノスは二~三十どころか、五十に届くくらい連発しているはずだ。

どれほどの魔力が必要かは分からないが、例え俺がこの魔法を使えたとしても、これほど連続して撃ち続けるのはダインスレイヴを使ったとしても不可能に近い。

しかし現実として、今代の雷は目の前で行っている。

そうなると、今代の雷は俺すらも大きく上回る魔力を持っているのかと思ったのだが……どうやらそれ以外のからくりがあったようだ。

(あれは、 あ(・) の(・) 時(・) 飲(・) ん(・) で(・) い(・) た(・) や(・) つ(・) か?)

それまでは避けることに必死で見落としていたが、今代の雷はケラウノスを数発撃つごとに、ギルドの二回から落ちた後で使用していた 錠(・) 剤(・) のようなものを飲んでいた。

恐らくはあれが今代の雷の魔力を回復させて、ケラウノスの連発を実現させているのだろう。

それにしても、あんな小さな薬で一気に魔力を回復させることが出来るのは驚きだが……まともなものではなさそうだな。

どんな製法なのかは知らないが、あんなのが一般兵に行き渡る程に大量生産できるなら、ファブールはこの世界の覇者になることも夢ではないだろうが……ファブール軍の陣に忍び込んだ時に、それらしい薬は見当たらなかったし話も聞かなかった。

余程厳重に隠しているのか、もしくは実験段階のもので兵に回す程の数はまだないのかは不明だが、魔法に長けた者が使えばたった一人でも戦況を変えることが出来る代物だろう。

それが今代の雷ならば、地獄のような光景になるのは当然だ。

「ぐっ! 流石にキツイな……」

直撃は避け続けているが、その余波まではかわすことが出来ない。

ケラウノスが落ちた場所から飛び散る土や石は、俺の体に小さな傷をつけていき、当たり方が悪ければ流血する。

ただ、それだけならば耐えることは簡単だ。いつもガウェインやディンドランさんに付けられている傷と比べればなんてことはない。しかし、それらとは違う余波、雷の特徴である感電に関しては、気合だけではどうしようもない。

余裕をもって避けたと思っても、目に見えない電流は俺の体の自由を僅かに鈍らせる。

そしてそれは、徐々に疲労として溜まっていく。そしてついに、

「しまった⁉」

疲労が足に来てしまい、避けた際に一瞬だけ足に力が入らず、大きく体勢を崩してしまった。

「ケ~ラ~ウノーーース!」

今代の雷はその隙を逃さずに、俺を指さしてケラウノスを放った……が、

「た、助かったけど、どこを狙っているんだ?」

狙いは大きく逸れ……というより、初めから違う場所を狙っていたのかと思うくらい、全く別のところへとケラウノスは落ちたのだった。さらに、

「ケ、ケ、ケケケケラウノズゥ! ゲラウノズ! ゲラズノズゥ!」

今代の雷は俺のいないところにケラウノスを落とし始めた。

「狂った……のか?」

あいつの様子を見るに、そうとしか思えない。

目は焦点があっておらず、鼻からは大量の血を流し、口からはよだれをまき散らしている。すでに俺を見ていないどころか、もしかすると認識すら出来ていないかも知れない。

「街への被害がすごいな……今は一旦引くか?」

今代の雷の無差別攻撃のせいで、俺たちが戦っていた辺りの建物のほとんどは瓦礫の山と化している。

何人が倒壊した建物の下敷きになっているのか分からないが、今の状況では助けるのは不可能だし、それどころか下手に助けようとすれば俺の方がケラウノスの犠牲になってしまう可能性が高い。

それに、今なら逃げることが可能だ。それくらい今代の雷は俺のことが見えていない。

だが、それと同時に今が今代の雷を仕留めるチャンスでもある。

リスクを取って今仕留めるか、安全策を取って一度引いて様子を見るか……前者なら、ケラウノスを食らう危険性はあるが、俺の接近に気付かずに無防備なままでいるかもしれないし、後者なら安全圏にいる間に今代の雷の魔力と薬が無くなるかもしれないが、その前に正気に戻って逃げられてしまうかもしれない。

(自力で正気に戻る可能性は低いとは思うが……いまだにケラウノスの威力は健在だ)

攻撃する場合、ダインスレイヴで離れたところから攻撃するという手もあるが、殺気に反応した今代の雷が反射的に俺にケラウノスを向けてくることも考えられる。

だったら、ここは一度引いた方がいいのかもしれない。

そう思った瞬間、

「これはヤバくないか?」

今代の雷が薬の入っている袋を懐から取り出して、残りを一気の口の中に流し込んだ。

一粒の薬で数発分のケラウノスを使えるほどに回復する代物を一気に使った結果、今代の雷から魔力があふれ出し、その魔力が俺のところまで届いてきた。

「これで俺も回復できるが……それだけの異常事態ということだな。 や(・) る(・) か(・) ……」

これまで今代の雷から魔力が奪えず体力が削られる一方だったが、これでようやく満足に動くことが出来る。

ただ俺すらも回復させる程の魔力が漏れているということは、その大元になっている今代の雷には一時的にかもしれないが、その数倍、もしくは数十倍の魔力が集まっているかもしれない。

そして俺の目には、今にも今代の雷が破裂しそうに見える。そう思った瞬間、俺の頭に浮かんだのはエンドラさんと訓練した時に出来たあの 穴(・) だ。

あの穴は俺とエンドラさんの二人の魔法がぶつかることで出来たものだが、あの時は二つの魔法がぶつかることである程度相殺されていたし、地上から少し上のところだったのであの大きさだったが、今回はあの時と条件が違うとはいえ、地上であれに似たようなものが起こった場合、果たして俺が安全なところまで逃げ切るだけの時間があるのだろうか?

そう考えた瞬間、俺は反射的に今代の雷に突進していた。