軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

200 ルールに縛られない者

「凛くん。あなたに私の秘密をお伝えします」

そう前置きをして、クレアはゆっくりと語り始めた。

「まず初めに。以前にもお伝えしたように、私はスパンの影響を受けません」

「……ああ」

知っている。

だからこそイフリート戦で、クレアは俺たちを助けに来ることができたのだ。

問題はどうしてそんなことが可能なのかということ。

決して彼女は、俺のように転移スキルを持っているという訳ではない。

そう疑問に思う俺の前で、クレアは告げる。

「ただ、その代わりに一つ代償があるのです」

「代償?」

「はい。私はスパンの影響を受けない代わりに――ダンジョンを攻略しても、レベルアップ報酬が与えられることはありません」

「……っ」

先ほどシステム音が鳴り響かなかったことから、まさかとは思っていた。

だが、実際に言葉にされるとかなりの衝撃だ。

まさかそんな冒険者がこの世にいるだなんて、これまで考えたこともなかった。

「原因は何なんだ?」

「それは分かりません。過去の経験から幾つか仮説を立てることはできますが、それが当たっているという確証を持てたことはありません」

ぐっと言葉を溜める後、クレアは絞り出すように言葉を紡ぐ。

「ただ一つはっきりと言えることは……私はきっと、生まれた時からこうだったのでしょう」

「…………」

彼女の発言をまとめてしまうなら、クレアは生まれた瞬間からダンジョンのルールに縛られない特別な存在だった……ということなんだろう。

だけどそれを知った今、新たに生じた疑問も存在する。

「けど、それならクレアはどうやってレベルを上げたんだ? それも史上最年少でSランクに至るほどのスピードで……」

「質問に質問で返すようで申し訳ありませんが……凛くんのレベルが一番上がるのはどんな時ですか?」

「それは……」

ダンジョンを連続でクリアすることによる連続レベルアップ――というのはきっと、クレアが聞きたいこととは違うんだろう。

一発限りだという限定をつけるなら、それは当然――

「自分より遥かにレベルの高い格上を倒した時だ」

そう答えると、クレアは少しだけ寂し気な笑みを浮かべる。

「……つまりは、そういうことです」

その表情とその答えで、彼女が何を言いたいのか全て理解してしまった。

……なんてことだ。

クレアは格上を倒し続けることで、その領域に辿りついたというのだ。

その衝撃的な事実を、とても一瞬では受け入れられない。

「けど、その方法にだって限界があるんじゃないか? 常にレベル上げに最適な魔物と戦えるとは限らないし、1~2年でそこまでレベルアップできるとはとても思えないが……」

「いえ、私がこのレベルになるまで10年近い月日を要しましたよ」

「……は?」

待て待て待て。

それはおかしい。だって――

困惑する俺の心を読んだように、タイミングよくクレアは続ける。

「凛くんもご存じの通り、ダンジョンには年齢制限があります。しかし私は特例で、昔から攻略を許可されていました」

「どうしてだ?」

「私は昔から、ダンジョンにかかわる災害に巻き込まれることが多かったのです。以前のような 迷宮(ダンジョン・) 発生(アウトブレイク) に巻き込まれたことも複数回あります。その頻度の高さと、周囲の人間を巻き込んでしまう危険性から、特例でダンジョンを攻略しレベルを上げることを許可されました」

クレアはここで一度言葉を止め、それによって生じる少しの間。

そして――

「ですから凛くんのように、決して1年程度でこの場所にたどり着いたわけではないんです」

……そうだったのか。

ここまでの話を聞いて、ようやくこれまで彼女から感じていた異質さの一部を理解できた気がした。

とはいえまだ謎自体はいくつか残っているし、聞きたいことも山ほどあるんだが……きっとその答えは彼女自身も持っていないような気がする。

そう思うと同時に、一つの疑念がわいてきた。

クレアは攻略報酬を受け取ることもなく、純粋に魔物を倒し続けることでその領域までたどり着いた。

遥か格上の強敵と戦った経験は、俺を圧倒的に上回るだろう。

そんな中で、本当に彼女に追いつくことができるんだろうか……そんな不安が生じてしまったのだ。

だからこそ次の言葉をどう切り出そうか悩んでいると、おもむろにクレアは暗くなってきた空に手を伸ばした。

「凛くんは、どうしてスパンというものが存在するんだと思いますか?」

「スパン?」

突然の問いに、思わず首を傾げてしまう。

「私は仕組みがある以上、そこには意味があると思っています。一度に受け入れられるレベル量に限界があるのは、そうしなければならない何かがあるからです――そういった意味では、私さえダンジョンの仕組みの中にあると言えるでしょう」

クレアは空を見上げたまま、何もないはずの 宙(そら) で何かを掴むようにぎゅっと手を握りしめると、まっすぐにこちらを向く。

「そんな中で凛くん。あなたは、あなただけがそのルールに縛られることなく、人々の可能性を突破し続けているんです」

そして彼女は優しく微笑む。

「ですから私は信じています。そんなあなたならきっと――近い未来に、私たちがいる場所に辿りつけると」

「……ああ、もちろん」

きっとこれは、俺の心を見抜いた彼女の激励なのだろう。

だったらこれ以上、不安を抱えるわけにはいかない。

誓ったんだ、俺は。

彼女に追いつき――そして追い抜いてみせると。

この問答によって、その覚悟がより一層強くなる気がした――――

その後、当初の目的も無事に済み、二人で宵月に戻る途中――ふとクレアが切り出した。

「そう言えば一つ、凛くんにお伝えしておかなければならないことがあります」

「なんだ?」

「実は明日から長期間の任務に行くことになって、宵月を離れることになりました」

「任務?」

ずっとソロでやってきた俺にとっては聞きなれないワードに首を傾げると、クレアは説明を続ける。

「はい。冒険者協会から直々に命じられたもので、Sランク冒険者の一部が招集されているんです」

「Sランク冒険者が複数人集められるような任務って、いったい……」

「ダンジョンには様々な秘密が隠されています。異世界の存在ほどではありませんが、その重要度の高さから秘匿されているものも数多くあります……知りたいのであれば、Sランクに到達するしかありません」

「……ああ、分かってるよ」

結局初めから、やることは変わらない。

最強の座(その場所) にたどり着くために、これからは怒涛の勢いでレベルアップしていってやると――そう心の中で改めて誓うのだった。