軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

143 事後報告

次の日。

事前に伝えられていた集合場所に辿り着くと、クレアは既に俺を待っていた。

白地のシャツに、クリーム色の薄手のカーディガンを羽織っている。水色のロングスカートを含め、彼女の落ち着いた雰囲気にとても似合っていた。

「悪い、待たせたな」

「おはようございます、天音さん。まだ集合時間になっていないので大丈夫ですよ」

「そうか。それで、何か話があるんだよな?」

「はい。立ち話もあれですので、どこかお店に入りましょうか」

クレアの提案によって、俺たちは近くのカフェに入った。

俺はミルクティーを、クレアはカフェオレを注文する。

その二杯が届いたタイミングで、おもむろにクレアは切り出した。

「まずは昨日のことについて、改めてお礼を。八神さんから大体の流れはお聞きしました。天音さんがいなければ、エクストラボスに勝利することは難しかったようですね。彼らを守っていただき、本当にありがとうございました」

「どういたしまして。けど、その話をこんなところでしていいのか?」

「遮音スキルを使用しているので、他のお客さんに私たちの会話は聞こえません。ご安心ください」

そんなスキルまで持っているのかと、ちょっとだけ驚いてしまった。

「ダンジョンの話に戻りますね。あの後、並のAランクパーティーですら壊滅する危険性があると分かったため、代わりに私が単独で鬼塚ダンジョンを攻略し、仕組みを詳しく調べたんです。あの場に居合わせていた天音さんには、その結果についてもお知らせした方がいいかと思いまして」

「なるほど。確かにそれは気になるな」

……今後、あのダンジョンを周回する上での参考にできるかもだし。

「鬼塚ダンジョンが通常と違う点は大きく分けて三つ。一つ目はダンジョン全体に漂う魔力に再生の性質が含まれていること。強力な魔石を持っている魔物ほど魔力を吸収する能力が高いので、再生する割合が高いみたいです」

言われてみると、確かにそういった傾向があったことを思い出す。

「二つ目が、三十階層で発生する 魔物の行進(モンスター・パレード) です。あの階層に10分以上滞在した場合、大量の魔物が出現して襲われてしまうようです。最後の三つ目は、魔物から逃げた先に待ち受けるイレギュラールーム。そこに入ってしまえば、天音さんたちが体験したように40000レベルのエクストラボス、ハイオーガと戦わなくてはいけなくなるのでしょう」

そこでクレアは「ただ」と言葉を区切る。

「あえてそこでボス部屋に入らず大量に湧く魔物と戦うことを選択すれば、1000体を超えたあたりで発生も収まるようです」

「……もしかしてそれ、クレアが実際に試したのか?」

「はい」

至極当然といった様子で、クレアは頷く。

10000~20000レベルクラスの魔物が1000体……隔絶の魔塔での 経験(トラウマ) を思い出し、頭を抱えたくなった。

クレアにとってはその程度、有象無象を薙ぎ払うような感覚なのかもしれない。

俺たちの間にある差を強く実感する中、彼女は続ける。

「ハイオーガと戦わずそのまま下に向かえば、最下層である60階層にも通常のボス部屋が存在していました。そこでは本来のダンジョンボスであるオーガが出現し、レベルは25000。攻略報酬はダメージ軽減率20%の硬化薬のみとなっていました」

「ハイオーガを倒した時にもらえた硬化薬は30%軽減だったから、その辺りには差が出てるんだな。他に違いがあるとすれば、レベルアップ報酬か」

ハイオーガを討伐した際は、ダンジョン攻略報酬とエクストラボス攻略報酬を合わせて300レベルも上がった。オーガを倒した場合は、これが100レベルとなるんだろう。

そう考えた時、ふと疑問を抱いた。

「余計なお世話かもしれないが、ダンジョンの調査はクレアが担当しなくてもよかったんじゃないか? Sランク冒険者が 再挑戦期間(スパン) を受け入れるだけの上り幅だとは思えないが」

数は限られているものの、100レベルを大きく上回るレベルアップ報酬をもらえるダンジョンは日本にも幾つか存在する。

それを知っているからこそ抱いた疑問だった。

しかし、クレアは少しだけ困ったような表情を浮かべると、

「……それも含めて、ギルドに所属する者の役目ですから。私も納得しているので、天音さんが心配される必要はありませんよ」

まるで事前に用意していた定型文を紡ぐかのように、そう言った。

「ならいいんだが」

彼女がそう言うのなら、これ以上俺が首を突っ込む話でもない。

カップを持ち上げ、まだ温かいミルクティーを口に含んだ。

「今日の用事っていうのは、これで終わりか?」

「いえ、ここまではお礼と事後報告です。本題はここから。といっても、個人的な内容になるのですが……」

クレアは姿勢を正し、まっすぐと俺を見つめる。

「天音さん、あなたが冒険者を目指した理由について、お聞きしてもよろしいでしょうか?」