軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ダンジョンスコップ

「これください」

再びやってきたギルドの建物で、僕はスコップを手にレジへ向かい、口を開いた。

言った瞬間、後戻りできない気がした。

喉がひりつく。

これまでギルドで借りていた普通のスコップとは違う、ダンジョンで採れた鉄を使って作られたというスコップ。

僕のお年玉であり、一年のお小遣いをすべてつぎ込んで、ダンジョン用スコップを購入する。

係の人も、まさか僕みたいな子どもがスコップに大金を払うとは思わなかったのだろう。

驚いた顔をしている。

とはいえ、売り物を断れることはなく、驚きつつも普通に対応してくれた。

「買った。買っちゃった。どうしよう」

そんなダンジョン用スコップを手にした途端、今さらながら鼓動が早くなる。

すでにお金は払い、このスコップは僕のものだ。

今なら、まだ返品できるかもしれない。

でも、一度でも使えば、もうお金は戻ってこないだろう。

本当にこんなことをしてもよかったのだろうか。

お母さんが知ったら怒るかも。

そんなことが頭によぎる。

けれど、それでもこのスコップが欲しかった。

初めて手にしたときに感じた感触が忘れられなかったからだ。

うまく言えないけれど、握った瞬間に思った。

――これだ、って。

今まで使っていたスコップが悪かったわけでは全然ないが、この新しいスコップは柄を握ると、自然に収まる。

手に吸い付くみたいだ。

これを一度手にした以上、どうしても普通のスコップでは物足りなさを感じてしまう。

が、はたして手に持っただけで実際の使い勝手はどうなのか。

ぶっちゃけた話、ダンジョンで採れる鉄というのが普通の鉄とはどう違うのかとか、それを使うことによってスコップに違いが出るのかを全く知らない。

完全に自分のフィーリングだけで大金を使ってしまったことは、さすがにちょっとやりすぎだったかもしれないと思わなくもない。

焦る気持ちを抑えて、スコップは借りず、手押し車と土嚢袋だけを借りてダンジョンへ向かう。

いつもどおり、ダンジョン入口で監視員のおじさんと軽く挨拶をかわし、中へと進む。

そして、午前中で穴を掘っていた場所へと戻ってきた。

やっぱり、穴はまだ健在だ。

ダンジョンの壁に開けた穴が午後になって閉じて元通りになってしまう、なんてことにはなっていない。

小さな穴だけれど、土嚢袋を何袋も満たしただけあって、そこにははっきりとした穴が残っている。

その穴をさらに掘り進めるべく、新スコップを構えた。

ダンジョンスコップは、先が尖った丸い刃を持つタイプだ。

いわゆる「剣スコ」と呼ばれる形状をしている。

手元はしっかりと握ることができるようにグリップが付いていて滑りにくくなっている。

ダンジョンの壁に対して半身で構えて手の力と体のひねり、重力も合わせて突き刺す。

いつもであれば、ダンジョンの固い壁に対してガツンという衝撃が来るので、わずかに突き刺さったスコップをさらに推し進めるためにスコップに足をかけて体重を加えることになる。

だが、今回は違った。

――ザクッ。

軽い。

ありえないくらい、軽い。

いつもは固い壁に弾かれるような衝撃が来るのに、このダンジョンスコップだとザクっと突き刺さったのだ。

……すごい。

こんなに違いがあるのか。

あまりの違いに衝撃を受けるが、ここでまだ終わったわけではない。

次に体重をかけて、てこの原理で突き刺さったスコップを返して掘り起こす。

するとダンジョンの壁から土がザっと掬い上げることができた。

一度で採れる土の量が全然違う。

今までの苦労が、嘘みたいだ。

その違いに気をよくした僕は休憩アラームをセットするのも忘れて、そのままずっと掘り続けていた。