軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

腹式呼吸

長い棒状の食べ物であるダンジョンバー。

袋を破ると、銀紙に包まれた補給食が出てくる。

それを一口分齧って飲みこむ。

僕の口からのどを通って胃に落ちていくと、お腹のほうで、じんわりとしたあたたかさを感じながら広がっていく。

おへそを中心に広がるそのぬくもりは、次第に胸や腰へと広がり、そこからだんだんと手や足の先にまで到達する。

僕は飲んだことがないけれど、よくお父さんがお酒を飲んで「五臓六腑に染み渡る~」なんてことを言っているのを聞くけれど、もしかするとそんな感じなのかもしれない。

全身に栄養が行き渡っていくような感じがした。

もう一度、その感覚を得ようとダンジョンバーを齧るが、今度は先ほどまでよりもあたたかななにかを感じ取れなかった。

もしかすると、スコップで穴を掘って疲れた体だからこそ感じていたのかもしれない。

もしこの感覚が、体内に魔力を取り込んでいるものだとしても、ダンジョンバーを食べれば食べるほど魔力が得られるというわけではないのかもね。

だが、感覚は得た。

あたたかなぬくもりが全身に行き渡ることで、それまであった疲労や筋肉の張りが軽減している。

魔力が影響した結果なんじゃないかと、勝手に予想する。

そして、このぬくもりを自分の意志で使って体を強化して穴掘りがしてみたい。

スコップを手にした状態で立ったまま、一度目を閉じて深呼吸する。

魔力じゃないかとあたりを付けたぬくもりエネルギーはお腹から全身に行き渡る感じがあった。

片手をおへその下あたりに当てて、この辺があたたかさの出発点だったよなと認識する。

どうすれば魔力を使えるのか、全く見当もつかないが、今日の学校の授業で聞いた話がなんとなく頭に浮かんだ。

それは音楽の授業だった。

もうすぐ、僕の学校では音楽発表会がある。

クラスごとに課題曲をほかの生徒の前で発表することになっている。

で、そのための練習が音楽の授業であったのだけど、先生がこう言っていた。

腹式呼吸が大事なのだ、と。

普通に声を出そうとするとたいていの人は胸で息をしてしまう。

だけど、大きくのびやかで人の耳に届きやすい歌声を出すためには、お腹から声を出すことが大事だそうだ。

で、その時の練習でお腹に手を当てて声を出し、呼吸するというものだった。

なんとなく、その腹式呼吸のことが頭によぎり、それが利用できないかと考えた。

お腹に手を当てたまま、息を吐くときにお腹が引っ込むように、吸い込むときに膨らむように意識して、深い呼吸を繰り返す。

ゆっくりと息を吐き、ゆっくり吸う。

すると、なんとなくだけれど、僕はお腹の奥がじわーとあたたかくなったように感じた。

集中力を切らさずに深い腹式呼吸を繰り返す。

するとそのあたたかさがお腹全体に、広がり、胸や腰、さらには手足にまで続くように感じた。

うまくいったかもしれない。

そんな実感を得た僕はそのまま腹式呼吸を維持しつつ、お腹から手を離し、両手でスコップを握り締め、それをダンジョンの壁へと突き立てる。

すると、これまでとは全く違う結果が得られた。

いつもよりもスコップが深く壁へと突き立てることができた。

予想外にうまくいき、僕は喜びすぎて呼吸が乱れ、腹式呼吸に慌てて戻しながら、もう一度スコップを使い始めた。