軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

(第7話)目覚めないデイジーお嬢様~専属侍女サラ目線~

デイジーお嬢様の専属侍女である私サラは、『名誉なことだろう?』と平然と告げた旦那様に対して込み上げてくる怒りを必死で抑えておりました。

フレディ殿下の側妃になることがデイジーお嬢様の名誉なわけがないのに……。

私がこのお屋敷で働きだしたのはデイジーお嬢様がまだ七歳の頃ですが、デイジーお嬢様は出会った当初から完璧なご令嬢でした。

昔からいる使用人達は、お嬢様は五歳でお母様を亡くされてからずっと『少しでも侯爵家の力になれるように』とまだ幼いにも関わらず必死で努力をされてきたと涙ながらに話してくれました。

お嬢様の涙も、奥様のお葬式の日以来見ることは決してなかったと……。

旦那様は健気なデイジーお嬢様に甘えているのか、お嬢様に対する対応はかなり冷たいものでした。

デイジーお嬢様を褒めているところを見たことがないですし、フレディ殿下との婚約もお嬢様の意思を確認することもなく一方的に結んで、解消の時でさえも冷たく通達しただけでした。

普通の令嬢であればきっと一人では対処できないようなこともデイジーお嬢様は旦那様に頼らず解決されておりましたので、旦那様や私達使用人の感覚も『デイジーお嬢様なら問題ない』と麻痺してしまっていたのだと思います。

いくら侯爵令嬢とはいえまだ十五歳の少女が、慕っていた婚約者に『真実の愛を見つけた』という理由で一方的に婚約を解消され、実の父親から『側妃になるのは名誉なことだ』などと言われて絶望しないはずがないのです。

デイジーお嬢様のお側にいつも仕えていた私でさえも、一度も弱音を吐いたり涙を見せたことのない完璧なお嬢様のお姿に、彼女の内面の脆さ・悲しみ・痛みに気付いておりませんでした。

そのことに、デイジーお嬢様が傷ついていたことに、問題がないはずなどなかったことに、私がやっと気付いたのは、翌朝、目を覚まさないお嬢様に絶望した時でした。

「ふてくされて寝坊しているだけだろう? 心配なら医者を呼んで見てもらえ」

朝食の席で執事からデイジーお嬢様が目覚めないという報告を受けた旦那様はそれだけ言って、いつも通り出発をしたそうです。

お嬢様が寝坊をしたことなど今まで一度もなかったのに。

そもそもお嬢様はこのような早い時間に起きる必要などないのに、毎日旦那様と一緒に朝食をとるためだけに早起きをされておりました。夜も旦那様と一緒にディナーをするためだけに遅くまで起きておられましたので、その睡眠時間の短さを私達使用人はいつも心配しておりましたが、デイジーお嬢様ご自身は『どちらにしても勉強をする時間が必要だから』と笑っておられました。

「原因不明の昏睡状態です」

お医者様の診断はそんな曖昧なものでした。

執事からの速達で状況を知った旦那様は、お帰りになられたのはいつも通りの時刻でしたが帰宅されてすぐにお嬢様のお部屋を訪れました。旦那様がお嬢様のお部屋を訪れるのは、私がこのお屋敷でお仕えしてから初めてのことでした。

「デイジー。目を覚ましなさい。お前には第一王子であるフレディ殿下の側妃となる義務があるのだ」

信じられないことに、旦那様がデイジーお嬢様にかけたのはそんな言葉でした。

そのような言葉でお嬢様が目を覚ますはずがないではないですか! そもそもお嬢様がこのような状態になってしまったのはきっとフレディ殿下のお心変わりと旦那様の心無い態度で心を痛めた精神的なものに違いないのです。

それなのに旦那様は、こんなにも傷ついたお嬢様に、なおフレディ殿下の側妃となることを強要するだなんて……。

あまりにもお嬢様が不憫で、思わず旦那様に抗議しようとしました。けれど、今まで見たこともないほど焦燥した様子の旦那様は、執事に命令を残したまますぐに部屋を出て行きました。

「明日違う医者を手配しろ。その医者にも原因が分からなければ別の医者を手配しろ。デイジーが目を覚ますまで手配し続けろ」

それから毎日のように国中から様々なお医者様がいらっしゃいましたが、デイジーお嬢様の目が覚めることはなく、その原因も不明のまま一か月が経とうとしておりました。

この一か月の間、旦那様がデイジーお嬢様のお部屋を訪れることはただの一度もございませんでした。

お嬢様宛にお花やお見舞いの品はたくさん贈られてまいりましたが、お見舞いに訪れてくださいましたのは、生徒会でご一緒だったというライアン公爵子息と、ベッキー伯爵令嬢のただお二人だけでございました。

「デイジーお嬢様。いよいよ明日は、聖女様がお嬢様に癒しの祈りを捧げてくださいます。フレディ殿下がかかったティアーズ病さえも治した聖女様ですもの。きっとお嬢様のことも治してくださいますよね」

私はいつものように反応のないお嬢様に話しかけました。

デイジーお嬢様はすでにフレディ殿下との婚約は解消されているうえ、聖女様はフレディ殿下を治癒されてからそのお力を使われてはいないとのことでしたが、なぜかお嬢様のために侯爵家を訪れてその力を使ってくださることになりました。

どういった経緯でお嬢様のために聖女様が力を使ってくださることになったのか、ただの使用人である私には分かりませんでしたが、聖女様がその聖なる力を使ってくださるということはお嬢様の回復を願う私達使用人の希望となりました。

「デイジー様が目覚めますように」

初めて見る聖女様は、誰からも愛されるような可愛らしい顔立ちをしておられました。

そしてそのお隣には当然のようにフレディ殿下が寄り添っていることに悔しい気持ちはしましたが、それでも聖女様は、デイジーお嬢様のベッドの側に立ったままその祈りを捧げてくださいました。

しかし、どんなに聖女様が祈りを捧げても、お嬢様が目覚めることはございませんでした。