軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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朝が来て一行は出発した。朝食は移動しながら取る。

小さい山に差しかかったとき、レカンが厳しい声で警告を発した。

「ヴァンダム。魔獣だ」

「なにっ」

「約百匹の魔獣がこちらに向かっている。先頭は千歩少しの所まで迫っている。速度は速い」

ヴァンダムが、信じられないという顔をレカンに向けた。

「ヴァンダム殿。レカンがそうだというならそうなのさね。対応を」

さすがにベテランだけあって、切り替えは早かった。

「五十歩下がって森から離れる! 急げ!」

五十歩下がるなり、次の指示が飛んだ。

「オルストは扉の鍵を閉めて馬車に閉じこもれ! ゲットーは馬が暴れないよう管理! ゼキ! 前に出ろ。一発大きいのをぶっ放したら馬車の後ろに下がって援護射撃。 ニケは最前列! 右後ろに俺、左後ろにレカン! エダは……」

「あたいは馬車の上に」

「よし」

ゼキは早々に馬を前に進め、胸に差し込んでいた短い杖を右手に持ち、柄の部分についた宝玉を額に押し当てて、詠唱を始めた。

「大いなる叡智よ、火と風の支配者よ、わが願うは地上の太陽、わがささげるは生け贄の血、まつろわぬ者どもを討ち滅ぼし、神の栄光を証す者に祝福を与えよ……」

ニケの配置が不可解だ。ショートソードが武器なのだから、最前列より後列が向いている。しかも、距離も離れすぎている。

配置が終わるか終わらないかというときに、敵の姿がみえた。 赤猿(ウルドゥ) と 蜘蛛猿(インドゥ) だ。木々の高所を伝ってやってくる。こちらが木々の近くにいたら、高い木の枝から直接飛びかかってきただろう。しかし森から距離を取っているため、いったん地面に降りなければ攻撃できない。

猿どもの先頭が地に降りたころ、ゼキは魔法を発射した。

「〈 獄炎(ゲルバン) 〉!」

巨大な炎の塊が飛んで行った。それは段々大きくなり、最終的には差し渡し三十歩ほどの大きさになって猿どもに襲いかかった。

地面を走りだした猿どもの多くが転んだ。樹上にあった猿どものうち少なくない数が転落した。

直接殺せた数は多くないが、二十匹以上の猿に打撃を与え、あるいは大怪我をさせた。何より敵の勢いをそいだ。

それでも敵の数は多い。怒濤の勢いで襲いかかってくる。

そこに目にも止まらぬ連射で矢が射ち込まれた。

エダの攻撃だ。

驚異的な速射だが、さらに驚くべきは、その精度である。

すべての矢が魔獣たちに的中した。しかも手足や腕や頭ではなく、胸か腹に刺さった。

それでよいのだ。確実に当てられる腹か胸を狙うのが、こうした場合の常識である。

エダの矢をもくぐり抜けた魔獣たちが、いよいよ馬車に迫ってくる。

ニケが剣を抜いた。その剣身が白く光り、剣の長さがぐいっと伸びた。

剣自体が伸びたのではない。剣を取り巻く魔法の光だ。レカンの身長に匹敵する長さである。

まず三匹の赤猿がニケに跳びかかる。

ニケは手前の二匹の首を魔法剣で刎ね飛ばすと、すばやく右に移動して後ろ側の一匹の首を薙いだ。それはとても届かない距離だったはずだが、魔法剣が二倍の長さに伸びた。首を失った三匹の魔獣の死体は、今までニケがいた場所に落下した。

息つくまもなく、四匹の蜘蛛猿が殺到する。

ニケの魔法剣は、さらに伸び、地を這うような斬撃が、四匹の小型魔獣を一度になぎ払った。

魔獣たちの手足や頭が切れ飛んで地に転がる。

右に左に自在に移動しつつ、長さの変わる剣を、ニケは縦横無尽に振った。

すさまじい勢いで魔獣どもが殲滅されてゆく。

その左右を通って馬車に殺到しようとした魔獣たちは、レカンとヴァンダムの剣の餌食になった。

レカンは〈ラスクの剣〉を持ち、一振り一殺で敵を屠る。ヴァンダムは、まず足を斬って機動力を殺しつつ、手のすいたときに地を這う敵にとどめを刺している。

馬車の陰から打ちもらしを狙おうとしているゼキには出番はない。

レカンは一撃必殺の剣をふるいながら、ニケの動きを観察していた。

驚くべきは魔法剣の操作だ。あの長さは魔力によるもののはずであり、長さが変わるということは、魔力の操作によって調整していることになる。あんなにも瞬時に、あんなにも的確に、剣の長さを変えることができる、そのことこそ驚異的だ。素人がみれば、すごい剣士だ、としかみえないだろう。だがレカンは、今まさに、ニケの魔法使いとしてのすごみをみせつけられた思いがしていた。

わずかな時間で、敵の攻撃は途切れた。だがレカンは森をじっとにらんでいる。

ひと息つきかけたヴァンダムも、レカンのそのようすをみて表情を引き締めた。

来た。

のしのしと歩いてきたのはレカンの知らない大型の猿の魔獣だ。数は三頭。この魔獣は体毛も顔も真っ黄色であり、盛り上がった筋肉は恐ろしい力を秘めているだろう。もしかするとこれが猿鬼族第三階位の 黄猿鬼(パウドゥグ) なのかもしれない。

誰いうともなく、ニケとレカンとヴァンダムは、一人一頭を相手にする態勢になった。

三頭の獣は、申し合わせたようにいったん立ち止まり、胸をたたいて威嚇の遠吠えをあげた。普通の旅人なら、魂も凍り付いて砕け散る恐ろしさだろう。そして魔獣どもは巨大な体に似合わぬ素早さで襲いかかった。

まず接敵したのは中央のニケだ。敵の間合いの外から首を刎ねた。

レカンは〈ラスクの剣〉を右手に持って敵に突っ込んでいったが、攻撃しようとしたとき、奇妙な感覚を覚えた。その感覚に従って剣を前に突き出すと、頭のなかに何かが言葉を形作った。

〈刺突〉

そうだ刺突だ。まさにレカンはその技を使った。

すうっと不思議なほどあっさり、〈ラスクの剣〉は相手の喉元に入り突き抜けた。目にもとまらぬ速度でその剣を引き抜き、レカンは後ろに飛びすさった。

ゆっくりと魔獣は倒れた。

このときレカンは知った。あの金色のポーションで得た技能は〈刺突〉だったのだ。

突きは危険な技だ。威力は高いが失敗する確率も高く、そうなればこちらが窮地に陥る。だからレカンは、よほど狭い空間で戦うのでないかぎり、ほとんど突きは使わない。

だが、今突きを行う瞬間、その技がまちがいなく相手の急所を貫くことを確信していた。どこをどういう力加減で突けばよいかを知っていた。これまでで最高の突きをずっと上回る鮮やかさで剣をふるうことができた。

ふと横をみると、ヴァンダムが大きな猿にとどめを刺すところだった。ただし自身も少なくない傷を負っている。

すべてが終わったあと、オルストが馬車から出てきて感激の声をあげた。

「なんという、なんという見事な戦い! 今回の戦力は頼りになるとは思っていましたが、ここまでとは! 素晴らしい! 本当に素晴らしい!」

「へっ」

馬車の屋根の上で、エダが右手の親指で鼻を横からこすって自慢げな顔をしていた。

レカンは馬車に近寄り、オルストに訊いた。

「オルスト。昨日予定外の場所で野営したのは、これを予想していたからか?」

オルストは控えめな微笑で答えた。

「襲撃があるだろうとわかっていましたからね。予定を少し変えてみました」

護衛たちが凄腕でも、依頼する側が愚かな指示やふるまいをしたのでは、護衛任務はむずかしい。

だが今回の依頼については、その心配は低いとみてよさそうである。