作品タイトル不明
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式が終わり、レカンとノーマとエダは、ヴォーカに帰った。もちろんジンガーも一緒である。「事後処理が大変なのですが」とリーガン・ノートスが泣き言を言ったが、振り切ったらしい。
ノーマはマンフリーに、贈り物の整理をしていくように言われたが、ノーマはフジスル殿に任せますと答えた。フジスルはかしこまりましたと答えたが、その目は死んでいた。そのフジスルに、ノーマはさらに、贈り物は基本的にすべてワズロフ家の物としてお納めいただき、どうしてもレカンが受け取らねばならないものだけをヴォーカに送り届けていただきたい、と告げた。フジスルの目はさらに死んだ。そこでノーマは、フィンディンを一か月間置いてゆきます、と言った。フジスルは生き返った。
ボウドも連れていこうとしたら、もう少しだけ学習を続ければ、日常会話に不自由ない程度には言語が習得できるということだったので、ワズロフ家に残した。
ヤックルベンドからの結婚祝いがゴンクール家に届いていた。
その名は、〈湯沸かし君〉。
こどもの頭ほどの丸い魔道具で、風呂に入れて〈湯沸かし、始め〉と唱えれば熱くなって湯を沸かしてくれる。
〈湯沸かし、やめ〉と唱えれば常温に戻る。
こざかしいものを送ってきやがって、とレカンは思ったが、すぐに〈湯沸かし君〉を手放せなくなった。
ゴンクール家にいるとき、湯に浸かりたければ小間使いたちが湯を沸かして桶で運んでくる。レカンが自分でやるわけにはいかない。しかし井戸はあるのだから、〈湯沸かし君〉さえあれば、夜遅くでも自由に風呂に入れる。
こんな便利なものはない。
レカンとノーマとエダは、ヴォーカの診療所の庭にあるノーマの両親の墓に三人でお参りした。
実のところ、ワズロフ家の霊廟にもノーマの両親は祀られているのだが、やはりジンガーが作ってくれたこちらの墓こそが、ノーマには本当の墓だった。
六の月の二十八日には、『薬神問答』が王に献上されている。ついでマシャジャイン侯爵にも献上される。この本は王家から、各地の領主や神殿に、さらには主立った薬師たちに下賜されていくのである。
いったん王都に呼び戻されていた筆写師ラクルスもヴォーカに帰還し、『薬草学全書』刊行に向けての作業が本格化する。
レカンは、リプリンに行った。
そしてアゴストの息子に聖硬銀の鉱石を渡した。ユフで得たものの残り半分だ。もともとここに持ってくる気だったのだ。
はじめアゴストの妻は、鉱石を受け取ろうとしなかった。買う金がないというのだ。そこでレカンはこう説明した。
「この鉱石は、自分で使う以外は売れ。その金で生活し、修業し、必要なものを買い、いずれ〈ラスクの剣〉を超える剣を作ってくれ。オレの息子に使わせる」
レカンには息子などいない。作る予定もなかった。鉱石を受け取らせるための方便だった。だがそう口にしてみて、レカンは自分に息子がいたら、どんなだろうかと思い始めた。
(剣を教え)
(魔法を教え)
(戦い方を教え)
(迷宮探索に連れていく)
(それも面白いかもしれんな)
リプリンからの帰りにマシャジャインに寄った。ボウドの言語学習はいったん終了し、いずれまた機会があれば続きをすることになった。
レカンとボウドはダイナ迷宮に挑んだ。獣人たちの探索でも、最下層までは行き着けなかったという。
ひどく癖のある迷宮だったが、二人は力技で進んだ。ところが九十階層で物理型の巨大腐肉王が出てきて、これが強いし再生するしで苦戦し、やっと倒したと思ったらすぐ同じものが湧いてきた。実はこの階層は、戦闘力の低い者を先頭にして進むと出てくる腐肉王が弱くなるのだが、それがわからなかったので、エダを連れて来ようと考え、いったんヴォーカに帰った。
するとユリウスが来ていたので、エダとユリウスを連れ、四人で攻略を再開した。エダとユリウスははじめてなので一階層から攻略をし直さなくてはならなかったが、三十日間で最下層の攻略に成功し、ヴォーカに帰った。九の月二日のことである。ユリウスは途中で別れて里に帰った。
この年、王国暦一一九年八月には、ザイドモール家がジオ領主に任じられ、新たに一町三村が与えられた。今までは小さな村四つを領するだけの領主だったので、領地名はなく、家名をもってザイドモール領と呼ばれていたが、今後はジオ領と呼ばれる。ジオというのは、ザイドモール家が所在する村の名だ。ふつうは領地である都市の名が領地名になるのだが、新たに領地となったショアーの町は、とうてい都市といえる規模ではないため、このようになった。ショアーの町のほかには、ガスコー村、チッコリー村、ボイド村が新たに領地に加えられた。
領地加増の理由は、「冒険者レカンを庇護して獣人戦争の勝利に貢献した」ことと、「有力な資源を発見し、王国に利益をもたらした」というものである。
今までの領地と新たな領地のあいだには、いくつもの山がある。その周辺にはさらに多くの山があり、村がある。こうした場所はジオ領には含まれないが、他に有力諸侯もいないため、ザイドモール家の勢力範囲ということになる。何もなかった王国東北部辺境に一大勢力が誕生したわけである。
これと相前後して、王家とチェイニー商店がトロンのとげから作る剣と槍の専売契約を結んだ。獣人戦争でワズロフ家が大量に使ったし、ラインザッツ家も使ったので、あれがトロンのとげから作る武器だということは、王家でもつかんでいた。
専売契約というのは、王家あるいは王家が許可を出した相手にしか販売できないというものである。販売価格はチェイニーが決められるし、一本売るごとに王家から奨励金が出る。ワズロフ家に打診し、シーラとも相談したうえで、チェイニーは契約書に署名した。
同じころ、ヴォーカが子爵領に昇格した。ヴォーカはすでに子爵領にふさわしい経済規模を持っているし、王国北半分で最も目覚ましい発展をみせている都市だ。そこで、「冒険者レカンを庇護して獣人戦争の勝利に貢献した」功績をもって子爵に昇爵したのである。
九の月の二日にヴォーカに帰着したレカンは、数日休んだあと、ボウドとエダとともにツボルト迷宮を再踏破するため出かけようとする。そんなときエダの妊娠が判明する。それでもエダを連れて行こうとしたら、ノーマとジェリコが激怒し、レカンは懇々と説教される。
同じく九の月、ルビアナフェル姫が第一子を出産する。ギドルグレインと名づけられた。
レカンはボウドとともにロトル迷宮に行き、小火竜を狩る。そのあとマシャジャインに寄る。ボウドはしばらくワズロフ家で過ごすこととなり、レカンは一人でヴォーカに帰る。
この年の十の月の三十二日、オルバヌス・ラインザッツが宰相を辞任する。同日付で、イェテリア・ワーズボーンが宰相に就任する。
王国暦百二十年の二の月の二十日、レカンはボウドと腐肉王の迷宮に挑戦する。一階層から九階層までの敵は、一人で入ったときの倍ほども出たが、レカンの火力で強引に押し通った。最下層にはボウド一人で入ってもらった。案の定、腐肉王はへなちょこな攻撃しかできず、しかも敵の魔力が吸えないので、すぐに魔力切れになり、転移もできなくなった。ボウドは一撃で腐肉王を叩き殺した。神薬が出た。
なんとこの迷宮は一日で復活した。翌日も踏破して、神薬を得た。
二人はここに百二十日間とどまり、百個の神薬を得て山分けにした。
ボウドとは、ここでいったん別れた。ボウドは旅好きで、レカンと一緒にいたときも、迷宮に潜らないときはよく一人で旅をしていた。
三の月の六日、ユフ迷宮騎士団が例年より早くユフ迷宮の探索を終えてユーフォニアに戻る。このとき、侯爵の命により、小火竜の肉を持ち帰ったのだが、食してみると美味にはほど遠かった。小火竜が捕れる迷宮は近くにいくつかあり、地上にも小火竜が生息している地域はある。ユフ侯爵は、いくつかの小火竜の肉を取り寄せた。いずれも食べられる味ではあったが、ロトルの竜肉にはまったく及ばない。これによりユフ侯爵は、小火竜の肉が美味なのではなく、ロトルの小火竜の肉が美味なのだと気付く。
五の月の三十日、レカンはマシャジャインに着く。ノーマからの手紙が来ていた。エダの出産が近いからすぐに帰ってくるようにという内容だった。レカンはヴォーカに駆け戻る。
これに先立って、四の月には、サリエル・ゴッセン子爵がソプデモア侯爵を継承し、ヘレスを妻に迎えている。
六の月の二十一日、エダが第一子を出産する。男児だった。レカンがホルスと命名する。もとの世界の言葉で「希望」を意味する。暗黒の世界に光をもたらした古代の王の名だという。
六の月の末日、ユフ迷宮騎士団の騎士百名がロトルを訪れ、ロトル伯爵に手土産を渡して挨拶してからロトル迷宮を探索する。三十五日目に踏破し、小火竜の肉以外の取得品はすべてロトル伯爵に無償で譲渡して帰途についた。