作品タイトル不明
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「ははは。グィド帝国軍全軍とユフ迷宮騎士団に取り囲まれたのでは、ザック・ザイカーズも、おとなしく秘宝を差し出す以外なかったろうな」
「ザックのやつは、その秘宝には心当たりがあると言って、すぐにそれを持ってこさせた。獣人が確かにそれがそうだと確認して、総指揮官がもらっていくぞと言ったんだが、ザックはおびえもせず、謝りもしなかった」
「ほう」
「その場でエダに〈浄化〉をねだって、その代金代わりに〈安寧の宝珠〉を持って帰れと言い放ったよ」
「それは……なかなかだな。ところで敵の総指揮官は、君の知っている人物だったのかね?」
「ああ。紹介しようか?」
「うん?」
「今、下にいるぞ」
さすがのマンフリーも、しばし言葉を失った。
「オレが客を連れてきたという話は、聞いてないのか」
「い、いや。聞いている。君が知り合いを連れてきたというのは。言葉が不自由だと。まさか」
「あんたにしては血のめぐりが悪かったな」
「ちょっと待ちたまえ。侵略軍の総指揮官が、わが家にいるというのか。一人で」
この質問に、レカンは答えなかった。答える必要がないからだ。
「すまんが最初から全部聞かせてくれ。十八日にここを出てからのことを全部だ」
レカンは説明した。エダが時々補足した。かなりかいつまんでの説明だったが、かなりの時間がかかった。
マンフリーのほうからもいくつか教えられた。
やはりパルシモ魔法軍団は、マシャジャインに寄っていた。レカンたちが出発したあと、ここに寄り、戦局を聞き、帰途の食料提供を依頼しておいて、パルシモ侯爵の使者をここに置いて戦地に旅立った。
そしてやるべきことをやり終えると、マシャジャインに立ち寄り、パルシモ侯爵の使者とマンフリーに報告をして、そのままパルシモに帰ってしまったのだという。用意できた大型の〈自在箱〉に限りがあり、白首竜はひどく大食いであるため、急いで帰らざるを得なかったのだ。パルシモ侯爵の使者は、事情を報告するため王都に向かった。
ということは、あのとき獣人軍の本隊に突撃していたのがレカンたちだということを、ジザは最初から知っていたのだ。
説明が終わったあと、マンフリーはいくつか質問をした。フジスルも質問した。レカンはそれに答えた。
「ううむ。まさかこんなことになるとは。だが、予想以上によい結果だ。考えられる最上の結果だ。いや、それ以上だ。レカン。よくやってくれた。礼を言う、エダ殿にも感謝する」
「依頼は完了ということでいいな」
「もちろんだ。報酬はすぐに準備する。それにしても、宰相は大失態だな」
「宰相が?」
「最初に王国騎士団と王国魔法士団を派遣したのは、これは悪くない。だが、王国騎士団と魔法士団が惨敗したとき、正しく脅威を理解して、連携のよい組み合わせで諸侯騎士団を招集し、明確な指揮系統を整えたうえで迎撃するべきだった。そうでなければ、一万人規模の軍を整え、きちんとした総指揮官を置くべきだった」
「そういうことは、やろうとすればできたのか?」
「やろうとすればできたはずだ。だが実際には、中途半端な招集を行い、明確な指揮権の設定をせず戦力を逐次投入するという、最悪の方法を採った」
「なぜそうなったんだ?」
「明確な命令をすれば、結果に責任を取らなくてはならない。それが嫌だったんだろうね。強力な軍団を編成したり、きちんとした指揮系統を整えたりしなかったのは、特定の諸侯に大きな手柄を立てさせたくなかったからだろう。中途半端に多くの諸侯に派兵を打診したのは、これを機会に王家と諸侯との関係を強化したかったからだろうな。まあここまでいえるのは、今だからではあるがね。実際には、千人程度しかいない侵略軍に一万人規模の迎撃軍を編成したりすれば、宰相は正気を疑われたろう」
「一万人いても、パルシモ勢とユフ迷宮騎士団が来なければ、負けていたろうな」
「なに?」
「まあ、それはいい。どうにか侵略軍を追い返して、宰相はほっとしているんだろうな」
「ほっとしている? 宰相が? いや、逆だよ。今、宰相はどうやって収拾をつけるか考えて、夜も眠れないだろう」
「ほう?」
「考えてもみたまえ。戦争そのものは、ほぼ敗北だった。それをどうにか引き分けに持ち込んだのは、宰相が用意した戦力ではなく、自発的に参戦したユフ迷宮騎士団なのだ」
「ああ。それはそうだな」
「敵の総指揮官と一騎打ちをして勝利し、再交渉を可能にしたのも宰相が派遣した戦力ではなく、一諸侯が個人的に依頼した冒険者だった」
「あんたの手柄だな」
「そうだ。私の手柄だ。しかもその冒険者は、わが一族の姫の婚約者なのだ」
「それはそうだな」
「しかも最後がひどい。そもそも最初にグィド帝国は、ザカ王国の誰かが大森林の神殿を襲って秘宝を奪ったと主張した。これをザカ王国側は否定した。ところが結局ザカ王国の諸侯のしわざだったのだ。もちろん宰相は、コグルスにも部下を派遣して調査をしていたはずだがね」
「そうなのか」
「大森林に侵攻できるような位置にあり、武力がある諸侯は限られている。コグルス領主は、最も疑わしい人物の一人だったはずだ」
「じゃあなんで、わが国のしわざだというのは言いがかりだなんて返事をしたんだ?」
「戦争の口実を作るためだよ。そして戦って相手に痛手を与え、わが国の立場を強めておいて、秘宝を発見して返却する。謝罪と賠償をのがれるための算段だな」
「よくわからんが、秘宝を返却して獣人を追い返したのは、宰相にとって不都合だったのか?」
「国にとっては好都合だが、王宮と宰相府にとっては不都合だ。秘宝はコグルスにあると見当をつけ、グィド帝国軍を引き連れて交渉し、秘宝を取り戻して返還するという、その政治的にきわめて重要な役割に、宰相府は何一つ関与していないのだからね」
「もしかして、オレやデュオがやったことは、越権行為だったのか?」
「いいや。宰相は各騎士団を送り出すとき、騎士団の代表同士で話し合って事を進めるように指示した。そして現場で最も身分が高かったのはノッドレイン・ルッカ子爵だった。最も被害が少なく強いのがユフ迷宮騎士団だった。そして敵総指揮官との決闘に勝って再交渉の道を切り開いたのは君だ。何の問題もないとも。だが宰相は心底後悔しただろうね。なぜアスポラに宰相府の高官を派遣しておかなかったのかと」
「派遣していたら、どうなったんだ?」
「もちろんその高官はコグルスに同行した。そうすれば宰相府が交渉のすえグィド帝国の軍を撤退させた、と発表することができた。コグルスに懲罰を与え、王陛下の威信を守ることもできた」
「オレについて、あんたに問い合わせはなかったのか?」
「あったとも。宰相直々に〈ナータの鏡〉で連絡を入れてきたよ」
「どう答えたんだ?」
「わが従姉妹の婚約者である冒険者レカンに、敵総指揮官を倒すか、何らかの方法で獣人国の軍を去らせてほしいと依頼した、と答えたよ。ところでレカン。君はこれからどうするつもりかね」