軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

7

7

こちらの動きに合わせて、敵も陣形を変えてきた。

前衛十人のうち、六人が北側、つまりこちらからみて左翼に、四人が南側に布陣したのだ。

ジンガー率いる部隊が六人の獣人を、レカンたち四人が四人の獣人を相手取ることになる。

最初レカンは、いぶかしく思った。

先ほどの戦いをみているはずなのだから、レカンの強さがただごとでないのは理解しているはずなのだ。しかもエダの治癒能力もみているはずだ。だから十人の前衛のうち、少なくとも五人はこちらに回してしかるべきではないのか。

だがすぐにわかった。

それは獣人の考え方ではないのだ。

決闘を重んじることといい、彼らはたぶん、力を誇りにしている。

彼らからみれば、人間などひ弱な種族でしかないのだろう。

その人間が四人で向かってくるなら、絶対にそれ以上の数で迎え撃つことはできない。

それからいえば、ジンガーの部隊を迎え撃つのに八人、レカンたちを迎え撃つのに二人でもいいくらいのものだ。

だが彼らは、〈驟火〉も〈炎槍〉もみている。〈彗星斬り〉を振るって、白豹の獣人と赤熊の獣人の首を斬り落としたのもみている。

そこで彼らの誇りが許す最大限の人数である四人を、つまりこちらと同数を、右翼に配置したというわけだ。

むしろ同数の四人で迎え撃とうとしているのは、レカンへの最大限の敬意といってもいい。

現に獣人戦士たちの多くはレカンに厳しい視線を向けている。

押し寄せる強烈な殺意で、肌が焼けるような気がするほどだ。

(待てよ)

(そうか)

(そういうことか)

ザカ王国のような巨大な国に侵攻して王都を攻め落とすには、獣人軍は、あまりに人数が少ない。〈牙〉が五百人、〈鋏〉が五百人、〈鞭〉が三百人、そして〈尻尾〉が五十人。全部で千三百五十人だ。

それは獣人たちの矜恃のゆえだったのだ。その代わり、その千三百五十人は、恐るべき精鋭であるにちがいない。全員が迷宮深層の冒険者に匹敵するような強さを持っているかもしれない。

千三百五十人の迷宮深層の冒険者。

手ごわいどころの話ではない。

(おや?)

獣人たちの移動はすぐに終わった。だがその配置に妙な点がある。

レカンの前方三十歩に、獣人四人が横並びで立っている。

ジンガーの前方三十歩に、獣人六人が立っている。ここまではいい。

レカンの百歩とほんの少し向こうに敵の総指揮官がいるのだが、その総指揮官の近くにいた親衛隊十人のうち九人が、前方に移動して扇型に並んだのだ。総指揮官との距離は三十歩か、あるいはもう少しある。

(どうして総指揮官と距離を取るんだ?)

(近くにいたほうが守りやすいだろうに)

総指揮官の側に残っているのは、金色の兎の獣人ただ一人だ。右耳はずっと立ったままなのだが、左耳は半分位のところで折れていて、時々ぴんとまっすぐに立ち上がる。

親衛隊が総指揮官と距離を取ってくれたので、やっと総指揮官の姿がはっきりみえるようになった。

(おかげでこちらは動きやすくなった)

三十歩前方に四人の獣人がいて、その四十歩向こうに親衛隊九人がいて、その三十歩向こうに総指揮官がいるわけである。

三十歩前方の四人の獣人を突き破りさえすれば、〈白魔の足環〉で一気に総指揮官の目前に跳ぶことができる。そうなれば決闘を挑むことができる。相手が決闘を受けようが受けまいが、〈闇鬼の呪符〉で動きを止めて、〈彗星斬り〉で首を落とせばいい。

総指揮官を倒したからといって、それでこの戦いが勝ちになるのかどうか、レカンにはよくわからない。だが敵の総指揮官を殺せば依頼達成だ。それは戦局にも大きな影響を与えるだろう。

(総指揮官以外の将も倒せるようなら倒せと言われたが)

(どれが将なんだかわからんし)

(こいつらをまとめて相手にするのは無理だ)

(総指揮官の首を取ったら)

(さっさと逃げよう)

(〈不死王の指輪〉と〈突風〉で逃げられるだろう)

「エダ」

「なに?」

「オレが敵の総指揮官と一騎打ちを始めたら、逃げろ。最大速度で戦場から離れるんだ」

「え? うん、わかった」

はっきりしたのは、やはり敵の総指揮官は同郷の高位冒険者だということだ。だが不思議なことに、姿がはっきりしない。百歩という距離のせいだけでなく、何か妙にぼやけている。

(おっ)

(アリオスが近づいてきた)

いったん逃げたアリオスが、再び敵本陣の後ろ側から接近してきている。

〈死の街道〉より東側の、草の濃い場所を移動している。

肉眼ではみえないが、〈生命感知〉に映っている。

たぶんアリオスも、誰かから依頼を受けたのだ。敵の総指揮官を倒してくれという依頼を。

(アリオスが後ろ側で騒ぎを起こしてくれたら)

(こっちはやりやすくなる)

(いいぞ。どんどんやれ)

そう思ったのだが、金兎の獣人が振り返って草むらを指さし、何かを言った。

後ろ側を見張っていた六人の獣人のうち三人が、兎の獣人が指さしたほうに進んでいく。

(あ、アリオスが逃げていく)

(兎の勝ちだな)

(アリオス。お前の負けだ)

「進め!」

ジンガーの指示が出た。

左翼部隊が前進する。

レカンも〈彗星斬り〉を抜き、魔法刃を発現させて前進を始めた。

その右側にエダがいる。左手に〈イェルビッツの弓〉を持っている。

エダの前を騎士ヨーグが進む。左手の盾は急所を守るように慎重に構えられ、右手に持つ抜き身の剣が、盾の横から前方に突き出している。

レカンの前を騎士ウォルトンが進む。やはり盾と剣を構えている。

三十歩前方にいた獣人四人も、こちらに向かって歩き始めた。

向かって一番左は犀の顔をした色の黒い獣人だ。小振りだが重量のありそうな斧を持っている。レカンより頭一つ分背丈が高く、体重は倍か三倍ほどもあるだろう。

その右側は梟のような顔をした獣人だ。短刀をまっすぐこちらに向けている。そして強大な魔力の持ち主だ。

その右側は、山猫のような顔をした獣人だ。両手に短刀を持っている。

そして一番右側の獣人は、レカンの倍ほども背丈があり、大炎竜によく似た顔をしている。高さ三歩を越える巨大な盾を持っているのだが、その盾は、竜の外皮でできているかのようにごつごつした質感で、途方もない強靭さを持っているようにみえる。金属の胸当てを付けているほか、防具は身に着けていないが、地肌が鎧そのものといってよい。

この距離からならよくわかる。この四人の獣人は、迷宮深層の冒険者なみの強さだ。というか迷宮の主なみの強さだ。

彼我の距離が十五歩ほどになったとき、突然戦闘は始まった。