軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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ジンガーが、何か命令を発した。

騎士三十人と弓兵九十人が進撃を再開した。馬に乗っているのはジンガーと側近一人だけであり、あとは徒歩だ。

レカンは彼らを待たずに前方に駆け出した。

前方に向かって走りながら、レカンは右方向をみた。

レカンたちを阻止すべく中軍から離れて向かってきた獣人の一団を、ザカ王国軍の一団が食い止めている。

黒い革鎧主体の軽快な装備をまとう騎士たちだ。

やたら威力の高い剣を振る者がいる。

振ると爆発する剣を使う者がいる。

またある騎士は、斬られた敵が麻痺したように倒れている。

そして誰よりも目立っているのが、目まぐるしく転移する一人の騎士だ。いや、海賊だ。

その海賊が左手に持つ剣を振ると、敵の斜め後ろに転移する。そして右手の剣を振ると、異様な速度で敵を斬り裂く。

かと思えば、左手の剣を振ったので転移するかと思って敵が振り返ると、今度は転移しないで敵を後ろから斬り裂く。

敵が後ろから斬りかかれば、素早く転移して逃げ、味方と戦っている敵を後ろから斬る。

うまい。

後ろから敵を斬るのが、実にうまい。

〈転移剣〉は、振った軌道の先に短距離転移できる剣だ。ところが、あいだに障害物があると転移が発動しない。その欠点のような特性をうまく利用した、見事に卑怯な戦い方だ。

ヴィスカー・コーエン。

海賊侯爵フォートス家の切り込み隊長である。

(乱戦のなかで輝く男だったんだな)

目まぐるしく戦いながら、ヴィスカーは一瞬、レカンのほうに視線を送った。

レカンはにやりと笑みを浮かべた。

(助かったぞ)

(礼を言う)

〈転移剣〉は、隠された階層の、かなり深い所で出たはずだ。ずっと昔に得られた侯爵家の秘蔵品なのだろう。

そのほかの海賊騎士たちも、ツボルトで出た恩寵剣を使っているようだ。フォートス家はツボルトとは古くから交流があるようだし、たくさんの恩寵剣を買い込んでいたのだろう。

遠吠えのできる獣人たちは、じっとレカンたちをにらみつけたまま待機している。十分に引き寄せてから遠吠えを使うつもりなのだ。とどめを刺しやすいように。

後ろにいる獣人が号令をかけ、遠吠え獣人たちが大きく息を吸い始めた。

(そうはいくか!)

レカンは走る速度を上げ、呪文を唱えた。

「〈ゾルアス・クルト・ヴェンダ〉!」

転移した先は、敵から五十歩ほどだ。〈炎槍〉の射程内である。

「〈炎槍〉! 〈炎槍〉! 〈炎槍〉! 〈炎槍〉! 〈炎槍〉! 〈炎槍〉! 〈炎槍〉! 〈炎槍〉! 〈炎槍〉! 〈炎槍〉! 〈炎槍〉! 〈炎槍〉!」

遠吠えを発する寸前の獣人たちに、次々〈炎槍〉が着弾し、吹き飛ばしてゆく。

双頭の白蛇の杖を持つ銀鼠獣人にも〈炎槍〉を放ったが、着弾する寸前で消えた。

(なにっ?)

障壁ではなかった。〈炎槍〉がかき消されてしまったのだ。

たぶんこの銀鼠獣人には、魔法攻撃は効かない。

銀鼠獣人が呪文を唱えた。白蛇の杖に赤い光がともる。

レカンはなおも走る。銀鼠獣人までは指呼の間だ。

後ろから進み出た二人の獣人が、レカンを食い止めるべく前に出た。その二人に向けてレカンは魔法を放った。

「〈炎槍〉! 〈炎槍〉! 〈炎槍〉! 〈炎槍〉!」

二人のうち向かって右側は身の丈が三歩ほどもある。巨人だ。真っ赤な毛を持ち、熊のような顔をしていて、銀色の鎧を身にまとい、右手に巨大な棍棒を握っている。二発の〈炎槍〉が直撃したというのに、平気な顔をして立っている。

左側はレカンと同じほどの背丈を持つ獣人で、白い毛並みを持ち、豹のような顔をしている。緑の革鎧を身にまとい、右手に湾曲した剣を握っている。こちらは二発の〈炎槍〉を鮮やかにかわしてのけた。

二人をみると、レカンの背が粟立つ。それだけの強敵なのだ。

レカンは走りながら左腰に吊った〈彗星斬り〉を抜き、魔法刃を発現させ、赤熊獣人に斬りかかった。

赤熊獣人の後ろでは夕日のように赤い光が膨らんでいる。

赤熊獣人が振り上げた巨大棍棒が振り下ろされる直前、レカンは速度を上げて敵の懐に飛び込み、胸元を斬り裂いて右に身をかわした。その肩をかすめるように巨大棍棒が通り過ぎる。戦慄すべき威力だ。これをまともにくらったら、大炎竜の鎧を着たレカンといえど、ただではすまない。

赤熊獣人の右後ろで反転しようとするレカンの目の前に、白豹の獣人がいた。レカンの動きを予測して、こちらがわに回っていたのだ。

白豹の獣人が曲刀を振る。レカンは身を翻して赤熊獣人の懐に飛び込んで曲刀をかわした。ところが、届いていないはずなのに、右足のふくらはぎに鋭い痛みを感じた。

(斬られた?)

確かに斬られた痛みだ。しかもかなり傷は深い。骨に達する傷だ。

赤熊獣人が、振り下ろした棍棒をはね上げるように振ってレカンを襲う。レカンは左足で地を蹴り、飛んで後ろに倒れ込む。

「〈風よ〉!」

背が地に着く寸前に〈突風〉を発動して跳ね起きる。

そのとき赤い光がさらに広がり、レカンの足下まで達した。

一瞬しまったと思いつつ後ろに跳びすさる。

(なにっ?)

右足の痛みが引いていく。

あの赤い光は、味方も敵も癒やすのだ。

白豹の獣人が曲刀を振った。その刃筋の先にレカンの体がある。

「〈風よ〉!」

レカンは〈突風〉の力で身体を移動してかわした。

足下をみた。

右足に履いたすね当ては切れていない。だが、その下の足はさっき確かに斬られた。血が流れている感触もある。

(防具は素通りして肉体だけを斬る剣なのか?)

(しかも斬撃を飛ばすことができるのか?)

(これも始原の恩寵品なみの性能だな)

(くそっ)

(厄介な)

巨大棍棒を振り上げた赤熊獣人の鎧の胸元が、大きく切り裂かれている。〈彗星斬り〉で斬った跡だ。

先ほど赤い光の範囲が広がったのは、赤熊獣人の傷を癒やすためだったのだろう。

赤熊獣人が巨大棍棒を振り下ろして襲いかかる。とてつもない迫力だ。

その右後ろから、白豹の獣人が攻撃を放つ機会をうかがいつつ接近している。

同時に相手取るのは面倒な敵である。