軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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「じゃあ、出発しますぜ」

「うむ」

二十日の朝である。

デロスが声をかけ、ジンガーがそれに応え、マシャジャイン騎士団は前進を始めた。

森のなかの行軍である。しかも馬を連れての行軍だ。時間はかかる。だが急ぐ必要はなかった。目的とする地点までは遠くない。むしろ到着してから時間を持て余すだろう。

アスポラの町の北側は見晴らしのよい草原地帯が広がっている。その西側の森の切れ目が目的とする地点だ。

天気はよく、のどかな日和だ。

時は春であり、森の木々は青々としており、そこここに美しい花が咲いている。

だが、レカンは胸騒ぎを覚えていた。

何かよくないことが起きるような気がしてならない。

「ダリラ」

「あいよ」

「すまんが森のはずれまで行って、様子をみてきてもらえるか」

「あんた意外に心配性なんだね。わかったよ、ちょっくらひとっ走り……」

ダリラがそういいかけたとき、爆発音が聞こえた。

爆発音は何度か続き、大勢の人間がわめく声のようなものも聞こえてくる。

戦いが始まったのだ。

(くそっ)

(次の襲撃が明日だなんて)

(いったい誰が決めたんだ)

すべては敵の作戦だったのだ。

十三日、十五日、十七日、十九日と襲撃を繰り返し、ザカ王国軍の兵力を削った。

一回の戦闘で二百人ほど兵力が削られたとすると、八百人は削られている計算だ。

そうやって徐々に兵力を削る一方、襲撃のない日には、味方同士で力比べをするなど、遊んでいるふりをして、こちらを油断させた。

そして一日おきの襲撃にこちらが慣れきったとき、いつもの遊技のふりをして、そのまま攻め込んできたのだ。

今まで町のなかに攻め入ってこなかったのも、たぶん作戦だ。

今回の襲撃は、こちらを撃滅するまで終わらないのではないか。町のなかに深々と進撃してくるのではないか。

レカンの心に浮かんだ想念を斬り裂くかのように、ジンガーの声が響き渡った。

「各隊隊長に告ぐ! 戦闘が開始されたもようだ。前進を早めよ! ただし焦ってはならぬ。作戦通りに行動せよ。このまま北上して、しかるべき地点で森を抜け、敵を討つ! 進めえっ」

ジンガーはデロスとダリラを近くに呼び寄せた。

「今すぐ森を出たのでは奇襲にならない。かといって予定していた地点まで進んだのでは時間がかかりすぎる。手遅れにならず、敵の横腹を突けるぎりぎりの場所まで案内してもらいたい」

「なんて無茶な注文だい。あたいの大好物だよ。デロス。あたいは森の端に行って戦場の様子を確認する」

「頼んだ。おいらは騎士団を誘導する」

こうして心急く進軍が始まった。

レカンからすれば、いらいらすることこの上ない。

どうしてもっと早く進めないのかと思う。

だが馬で森のなかを進むのだ。時間がかかるのはしかたがない。

じりじりとしながら、いっそ自分一人で敵陣に突っ込もうかとも考えたが、それでは騎士たちの援護が受けられない。マンフリーはジンガーに、精鋭数名をレカンにつけて、敵の総指揮官の近くまでレカンのために血路を開け、と手紙で命じていた。ジンガーは七人の精鋭を選出してくれている。ここは我慢するしかない。

一つだけありがたいことは、戦場では大騒ぎをしているので、森のなかで少々物音を立てても気付かれる心配はないことだ。

そうしているあいだにも、戦闘の音はますます激しくなる。

レカンのいら立ちが頂点に達したころ、ダリラがやって来た。

「ここがご注文の、ぎりぎりの地点だよ」

「よしっ。各隊長に告ぐ! 右に転進せよ。森の出口で態勢を整えよ。そして突撃の合図を待て!」

マシャジャイン騎士団の騎士二百人、従騎士二百人、弓兵百人、槍兵百人が、森のなかを移動し、森の端に集結していく。

レカンはいちはやく、森の端に達し、大樹の陰から戦況を確認した。

赤い。

〈生命感知〉に映る敵の色は赤だ。つまり人間だ。獣人は姿は獣に近くても、やはり人間なのだ。

ジンガーの指示は続く。

「騎士と従騎士は、敵の本陣を攻撃せよ! 総指揮官を討ち取るのだ。弓兵と槍兵は、アスポラを攻めて戦っている敵を、側面から討て!」

ザカ王国軍は、アスポラの町の前に騎士や冒険者を並べて防御陣を敷き、グィド帝国軍は厚みのある陣形で、ザカ王国軍を飲み込もうとして苛烈な攻撃を加えている。その後ろには五十人ほどの小集団がいて、戦闘には参加していない。それが本陣なのだろう。そしてもし敵が〈イシャスの陣〉を用いているなら、そこにいる五十人は一騎当千の力を持つはずだ。

軍団と軍団、塊と塊の戦いだ。突破されたほうが負ける。こういう戦いになったときは、陣を食い破られたら、そのまま敵がなだれ込んでくる。その勢いは何をもっても止められない。軍同士の戦いとはそういうものだ。

こういう状態にあるとき、細かな指示など与えられないし、与えても誰も聞かない。

戦いのさなかにある軍団は、一つの生き物のようなものであり、ともに体全体で相手をねじ伏せようとして、相手の弱い部分を探っているのだ。

レカンは、のどの奥がひりつくのを感じた。

(ジンガー! 何をしている)

(もう突撃の準備はできているじゃないか)

(今突撃しないと味方の陣が食い破られるぞ!)

一見互角にみえる激突だが、レカンの目からみてグィド帝国軍は、じりじりと押している。それを受け止めるザカ王国軍だが、跳ね返す力はない。こうしている間にも、どこかに亀裂が生じそうだ。そうなればザカ王国軍は崩壊する。

その様子をにらみつけるレカンの二つのまなこが、焼けるように熱い。

(ジンガー!)

(なぜ突撃しない?)

焦りを覚えているのはレカンだけではない。

騎士が何人か、ジンガーに詰め寄る。

「突撃のご指示を!」

「今こそご命を!」

「ジンガー様!」

主立った騎士たちが、必死で突撃指示を請う。

だがジンガーは馬上で手綱を左手で握り、はやる騎士たちを押しとどめるかのように、右手を横に差し出し手のひらを開いている。その姿は巨大な巌のように揺るぎがない。

(ジンガー!)

(まだか!)

そのとき、グィド帝国軍の戦列のうち、やや後ろにいた者たちが、ぐうっと前進した。この生き物のような塊は、ザカ王国軍の抵抗が限界に近いと感じ取り、勢いのままザカ王国軍を飲み込もうという動きが生まれたのだ。

そうした動きが起きた結果、軍団と、その後ろの本陣とのあいだに隙間ができた。

ジンガーが、くわっと目をみひらいた。

美しい白銀の剣を抜き、まっすぐ前方に向ける。

大きく息を吸ったジンガーの口から、雷のような号令がとどろいた。

「突撃せよーーーーーっ!!!」

森から湧き出たマシャジャイン騎士団は、引き絞った弓から放たれた矢のように、まっすぐに敵の本陣目指して突撃した。