作品タイトル不明
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「話を戻そう。ダイナを出たグィド帝国軍は五百人だった。ただし密偵たちの報告によれば、出撃の前夜、ダイナを出て森に入った獣人たちが、かなりの数いたらしい。こうした情報が王都に届いたのは少しあとのことだがね」
「ほう」
「たった五百人だ。随伴する兵もない。森に隠した戦力が五百だとしても、合わせて千。彼らは日中はかなりの速度で進むが、まだ日が高いうちに狩りをしてそれを焼いて食らう。朝もゆっくり食事してから出発する。だから一日に進む距離はそれほどでもない。ダイナから王都まで、十二日から十四日かかるものと思われた。もちろんこうした情報は、王都に届く前にスマーク騎士団やトランシェ騎士団には伝えられている」
レカンはグィド帝国軍とやらの行軍のしかたに感心した。夜はゆっくり肉を食い、朝もしっかり食事を取ってから行動するというのは、レカンの考える冒険者の作法だ。それでこそ戦士は存分に力をふるうことができる。
「本軍とみられる軍はダイナ街道を進撃し、その西側の森のなかを別動隊が進んだ。別動隊も堂々と肉を焼いて食うので、その位置は探索するまでもなかった。そうしているうちに、密偵たちが次々に殺された。どうもやつらには、おそろしく探知にたけた者がいるようだ」
騎士団長同士の相談により、トランシェ騎士団は敵の別動隊に当たることになった。トランシェ騎士団とエジスの冒険者たちが別動隊を食い止めているうちに、スマーク騎士団とワードの冒険者たちが本隊を打ち破るという作戦だ。
「五百と九百の戦いだ。地の利もある。負けるはずはないと考えた」
「街道を進む本軍と、左翼の森を進む別動隊、か」
「どうかしたかね?」
「もしかして、その別動隊は、かなり離れた場所にいたりしないか?」
「そうなのだ。本隊から丸一日もかかると思われる距離にいた。それが罠だったのだ。だが、君はどうしてそう思ったのだね?」
「いや、ふと思っただけだ。それで、どうなったんだ?」
「話を急ごう。四の月の五日、スマーク騎士団は、ワードの冒険者たちを従え、敵の本軍と交戦した。このあたりだ」
マンフリーが地図を指さした。そこに印が打ってある。
予想以上にダイナに近い場所だ。王都まで三分の一も進んでいないだろう。
「アスポラの町とダイナの町の中間より、ややダイナ寄りだな」
レカンはもちろんアスポラの町を知っている。なにしろここには迷宮があるのだ。八十階層もあり、楽しめそうな迷宮だ。いつかダイナ迷宮に行くときには、必ずアスポラに寄り道しようと思っていたのである。
「弓兵と魔法使いたちは戦いの最初に敵に大きなダメージを与えるはずだったのに、獣人たちはおそろしく防御力が高かった。弓にも魔法にもだ。敵は遠距離攻撃をしてこなかった。両軍は激突した。スマーク騎士団は奮戦したが、数で劣る敵をなかなか突き崩すことができない。そうしているうちに、なんと敵の別動隊が現れ、スマーク騎士団の横腹を食い破った。敵の本軍も反撃に転じた。別動隊は五百人もいたのだ。本軍と合わせれば一千の戦力だ。スマーク軍は潰走した。全軍の半数を失う惨敗だ」
「やっぱりな。別動隊はけた外れの機動力を持っていたんだな」
「そうだ。移動に丸一日はかかると思われた距離を、やつらはその何分の一かの時間で走り抜けた。移動しにくい森のなかをだ」
「味方の別動隊はどうなった」
「敵の別動隊をみうしなったトランシェ騎士団は、スマーク騎士団と合流しようとして東に急行した。普通ならこれは賢明な選択なのだが、合流すべき地点にすでにスマーク騎士団はおらず、そこには一千の敵がいた。物見の報告でそれを知ったトランシェ騎士団は、ただちに転進して王都に向かおうとした。だがまだかなりの距離があったのに、敵の別動隊があっというまに追いついて襲った。人間同士の戦というより、強い獣の群れが弱い獣の群れに襲いかかるような戦いだったという。森のなか、連携も集団行動もままならないまま、トランシェ騎士団は大打撃を受けて敗退した。ただし、敵の別働隊の将である銀狐の獣人イオスは討ち取った」
「ほう。トランシェ騎士団にも強者がいたか」
「そうではない。イオスを討ったのは冒険者エスキスだ」
「エスキス?」
「そうだ。エジスに拠点を置いていた〈落ち人〉の冒険者だ」
「なに? エジスにいる〈落ち人〉は、もっと違う名じゃなかったか」
「ああ、 ふとっちょ(シーフース) か。その名が有名だが、あれはあだ名のようなもので、本当の名はエスキスというのだそうだ。私も今回知ったのだがね。敵の将を倒したものの、エスキスも死んだ。どうかしたかね」
レカンは少しだけ表情を曇らせた。エスキスというのは、もとの世界にはよくあった名だ。同郷人だったかもしれない。それならもっと早くに会いにいけばよかった。白炎狼を倒したあと、せっかくエジスを通ったのに、そのときは〈落ち人〉のことなど忘れていたのだ。
「いや、何でもない」
「エスキスは老いて引退していたが、エジス侯爵みずからが、冒険者たちのまとめ役として出馬を乞うたのだ。私はこの話を聞いたとき、君を思い出した」
「ほう」
「わが国は、長年の平安に慣れて、戦い方を忘れている。本当はこういう戦争には、全体の指揮をする絶対的な存在が必要なのだ。だが、そういう人物はいない。無理に総指揮官を立てても、諸侯の騎士団をうまく使えないだろうし、諸侯の騎士団もどこまで従うかわからない。そこで各騎士団ごとに役割を振って自由に戦わせたのだが、その結果がこれだ。これは私の勘だが、獣人たちは戦争にひどく手慣れている気がする」
「オレもそれを感じていた」
「だから君だ。戦場に強大な冒険者を投入して、敵の将を討つのだ。それしかない。そう考えて君のもとに急使を派遣した。そうしたところ、君がこうして帰ってきてくれたわけだ」
「なるほどな。ところで聞きたいことがある」