軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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「レカン兄ちゃん、この前はごめんなさい」

ぺこりとメイド少女が頭を下げた。前回のラナとかいうメイドは銀髪だったが、今度は黒髪で、顔立ちもちがっている。だが、やはり中身は機械人形だ。ただし、〈生命感知〉には赤い点で示されている。どういう仕組みかわからないが、この機械人形のなかに生きた人間が入っているということだ。

「お前は誰だ」

「あたしはプリムです。でも今はヤックルベンドでーす」

つぶらな瞳をくりくり動かし、口を大きく動かしながら、はきはきした声でそう言うと、派手で可愛いしぐさでおじぎした。

「シーラ。こいつがヤックルベンド本人なんだな?」

「そうだよ。あんたが爆発する道具を使ったとき、すぐ隣の部屋にヤックルベンドの本体がいたそうでね。吹っ飛んじまった。だから今はこれが正真正銘のヤックルベンドだ。これを殺せばヤックルベンドは消滅する。平気なふりをしてるけど、そうとうびくびくしているはずさね」

そういう状態で屋敷の外に出て、今レカンの目の前にいるということが、誠意といえば誠意なのかもしれない。悪魔の誠意にどんな価値があるのかわからないが。

「お前はオレに、奴隷になれと言ったな」

「緊張を和らげるための、ほんの軽い冗談でございます」

少女人形は、深々と頭を下げた。

むかむかと怒りがこみ上げてくる。だが、シーラが安全を保証してくれている以上、こちらも手出しはしない。

「お前がオレを屋敷に呼びつけた用事は、結局何だったんだ?」

ひょこっと頭を起こし、少女人形はきらきらした表情を浮かべた。

「レカン兄ちゃんの剣の修復ができたので、みせびらかしてほめてもらおうと思ったです」

「その件については礼を言っておく。で、恩を売りつけて何を要求する気だったんだ?」

「レカン兄ちゃんの指の先っちょの肉を、ほんの少しだけ削らせてください!」

「断る」

「じゃあ、足の指を一本」

「シーラ。オレは退席していいか」

「レカン。あたしたち研究者のあいだじゃね、指の先をほんのちょっと切り取ったりして分析したりするってのは、そんなに異常なことでも危険なことでもないんだ。ただ、今のあんたにヤックルベンドが言えることじゃないね。ヤックルベンド。おふざけはいいかげんにしな」

「はーい。じゃあね、レカン兄ちゃん、髪の毛を一房と、爪の先を下さい」

一瞬、それくらいならいいかと思った。だが、すぐに思い返した。たとえ髪や爪であっても、こいつに渡したら危険だ。

「断る。それより外套はどうなんだ」

「あ、あれですか。あれはですね、時間がかかるけど、何とかなると思いますう」

「本当か?」

「あ、うれしそうな笑顔頂きました。レカン兄ちゃん、素敵です」

「やかましい。それで、どのくらい時間がかかるんだ?」

「それはもう少したってみないと答えられないかな。植物素材の外套だったら、たぶんどうにもならなかったけど、魔獣素材だったから、うまい方法を思いついちゃったんだ」

「どんな方法だ? いや、やっぱりいい。聞いても理解できないだろう」

「懇切丁寧に基本の基本からご説明申し上げますです」

「いらん」

「二週間ぐらいかかるかなあ」

「たった二週間で修復できるのか?」

「基本の基本からのご説明に、二週間ぐらいかかりまーす」

「シーラ。こいつ破壊していいか?」

「ごめんなさい。すいません。もう二度としませんです」

「次に同じことをやったら、オレはこの場を去る」

「修復には最低でも一年はかかると思いますです」

「一年以上か。なるほど。それでも修復できるんならありがたい。よろしく頼む」

「ではその修復は、前回のご招待のときの不手際のおわびということで」

「その不手際という言葉にすごく引っかかるんだがな」

「あらためてお願いです。もとの世界から持ち込んだ物品を、一つでも、二つでも、三つでも、いくつでもいいから、分析させてください」

予想通りの要求だ。こう言われた場合にどうするか、レカンはあらかじめ考えていた。

レカンは〈収納〉に手を差し込み、〈赤火弾の杖〉を取り出した。

「これは、〈赤火弾の杖〉という。〈赤火弾〉という初級攻撃魔法が五発詰まっている。こっちでいう〈火矢〉のような魔法だな。握りの部分にくぼんだ部分があり、そのなかに突起があるだろう。こんなふうに杖を構え、その突起を押さえながら、〈キャステル〉、と呪文を唱えると、杖の先からまっすぐに魔法が飛び出す。発動に魔力は必要ない。つまり魔法使いでなくても使える。威力の調整はできない。以前一発使ったので、今は四発残ってる。使ってしまった魔法はもう詰め直すことはできないそうだ」

ヤックルベンドは喜びを顔に浮かべたかと思うと、両方の目をぐりぐりと回しはじめた。左右の目がまったく別々に、ぐりぐり動き回るのだ。

「それはやめろ。気持ち悪い」

「すっごーい! すごい! すごい! 魔法使いでなくても魔法が使える杖! 万人に使える便利道具。しかも音声起動! それこそまさにあたしが欲しかったものよ。ありがとう、レカン兄ちゃん。どうしてこんなにあたしのことがわかるの? 相思相愛?」

大げさに喜んでいるが、すでに似たような魔道具をヤックルベンドが開発しているのは知っている。だから、これを再現できたとしても、どうということはない。ただ、似たような機能を持つ品であっても、仕組みはずいぶんちがっているはずだ。だからヤックルベンドの参考にはなるだろう。

それにしても、普通に話していても、片方の目が妙なほうに向いたりするし、言葉遣いもくるくる変わる。まるで、いくつもの人格が目まぐるしく入れ替わっているようにさえみえる。やはりこれは異常な存在だ。得体の知れない怖さがある。一緒にいると、正気が激しく削られていくような気がする。まともに付き合える相手ではない。