軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

13

13

食事も終わったので、レカンは思考を停止し、ごろんと横になった。

(美しいな)

木々の緑の葉も、降りそそぐ陽光も、遠い青空も。

世界の何もかもが美しい。

両目でみる世界の、なんと広く豊かなことか。

少し遠くでたくさんの鳥が飛ぶ音がする。

(うん?)

(こちらに向かって飛んでくるようだな)

レカンはむくりと起き上がり、〈収納〉から弓と矢を取り出した。

何の変哲もない、人間の職人が作った品だ。

矢をつがえて、鳥の群れが飛んでくるのを、じっと待った。

群れがレカンの少し横を通過する。

矢を放った。

狙いあやまたず、矢は鳥に刺さり、鳥は落下した。

レカンは矢を射た手応えに、自分で驚いていた。

もともとレカンは、飛んでいる鳥を確実に射落とせるほど、弓はうまくない。

だが今は、矢を放った瞬間、当たることがわかっていた。

(両目がみえるようになったからか?)

撃ち落とした鳥は、青緑色の美しい鳥だ。

頭部と羽の先が黒い。首には白い環がある。

何という名前だったか忘れたが、何度も食べたことがある。

とてもうまい鳥だ。

逆さにして木の枝に吊り下げると、首を落とし、腹を開いて内臓を取り出した。

血が抜けきるまで、しばらくかかる。

レカンは〈ラスクの剣〉を取り出して、右手で構えた。

違う。

今までと何かが違う。

しっくりくるというか、落ち着きがあるというか、剣の先まで神経が通っているような感覚がある。

虚空に剣を一振りした。

(おっ?)

やはり何かが違う。

レカンは近くの木のそばに歩み寄って、剣を一閃させた。

ぽとり、と木の枝が落ちた。

レカンはまじまじと剣をみた。

そして剣を握るおのれの右手をみた。

剣にも手にも、何の変化もない。

だが、違う。

昨日までとは何かが違う。

もう一度剣を振った。

木の葉が一枚、枝から切り離されて宙に舞った。

その葉が地に落ちるまでに、レカンは剣を二度振った。

木の葉は三つに切断されて地に落ちた。

「おおっ」

レカンは自分のしたことに驚いた。

こんなことは、今まではできなかった。

落ちる木の葉に剣を当てるだけなら、そう難しくはないが、斬るのは難しい。

しかも〈ラスクの剣〉は、それほど刃先が鋭くない。刃先が鋭すぎる剣はもろいため、実戦ではつかいにくいのだ。

その刃先の鋭くない剣で、落ちる木の葉を斬った。

しかも二度続けて斬った。

剣の正確さが格段に向上している。

目だ。

両目がみえるからだ。

レカンは、左目を失った戦いで、〈立体知覚〉という技能を得た。

〈立体知覚〉は、前後左右上下のかなり広範囲にわたって、自分の周りに何があるかを探知できる能力だ。

この技能によって、レカンには死角というものがなくなった。障害物に遮られることなく、相手の位置や動きをみさだめることもできる。複数の敵を同時に相手取るときなど、この技能は恐ろしく役に立つ。

ただし、〈立体知覚〉を使うと、いわば俯瞰図のように、自分も他者もみおろしているような感覚になる。その状態で適切に体を動かし、剣を振り、相手を倒すには、独特の感覚を鍛える必要があった。そして、その独特の感覚を身につけてからは、レカンの戦闘力は飛躍的に高まった。

では右目は戦闘の役に立たなくなったのかというと、そうではない。

やはり肉眼によってしか得られない情報というものはある。

〈立体知覚〉に頼って剣を振るときも、右目で得た視覚情報で誤差を調整した。強敵との戦いでは、右目がより重要な役割を果たした。

そういう戦いを長年続けてきて、今、再び左目がみえるようになった。

すると、剣先が今どこにあり、どこを通れば狙い通りに物を斬ることができるのかが、今までとは比較にならないほど、精密に把握できるようになった。

鍛え抜いてきた〈立体知覚〉と、両目の視覚情報とが、今こそかみ合ったのだ。

レカンの剣筋は、格段に鋭くなったのだ。

レカンは夢中になって、木の枝や葉を斬り続けた。

気がつけば、笑っていた。

笑いながら、枝や葉を斬り続けた。

やがてあたりは薄暗くなってきた。

すると、右目しかみえなかったときに比べ、薄暗い状態でも物がはっきりみえることがわかった。

それがうれしくて、なおも剣を振り回した。

すっかり暗くなって、ようやくレカンは剣を鞘に収めた。

(腹が減ったな)

吊してあった鳥を下ろしてさばいた。

ふと、この鳥を使ってエダが作ってくれた料理を思い出した。

あれはうまかった。

ちょうど、エダが使ったのと同じ野菜を、ティレン村で買った。

(あのやり方でやってみるか)

脂身のところを薄く切って、それで赤身の部分を包み込むようにして、串に刺した。

野菜の外側を剝いて内側の部分をざく切りにして、串に刺した。

これを繰り返して肉と野菜を交互に串に刺した。

ただし最初と最後は肉である。

これに岩塩を削ってかけ、ザンドの木の実を乾燥させたものを指ですりつぶしてふりかけた。

これで出来上がりである。

出来上がった肉串を、たき火の近くに突き立てた。

同じものをいくつも作り、たき火の周りに突き立てていった。

ちびりちびりと酒を飲みながら、焼き上がるのを待った。

やがて充分に火が通った肉串を、レカンは口に運んだ。

「うまい!」

思わず声が出た。

酒が進んだ。

次々に肉串を口に運んでかみしめ、飲み込み、腹を満たしていった。

ますます酒が進んだ。

たき火から立ちのぼる煙が、夜空に昇っていく。

この煙のように自由でいたい、とレカンは思った。

満天の星が美しく 煌(きら) めいて、レカンを祝福した。