軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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「ルビー、それは無理だ」

思わず、というふうにアシッドグレインが口を挟んだ。

「でもこのままでは迷宮騎士団が帰還するまでに三か月近くかかります。レカンが迎えに行ってくれれば、それが二か月に、あるいは一か月になりますわ」

アシッドグレインは、ノッドレイン・ルッカのほうをみた。最初にレカンを出迎えた男である。この男は迷宮の管理を受け持つルッカ子爵家の次期当主である。この場にはほかに五人の側近がいるが、ルッカが四十代前半ぐらいであるのを除けば、みな二十代前半の若さだ。北の塔の家宰であるペイネも若い。ここにいる人々は、次代のユフを担う人々なのだ。

アシッドグレインの促しを受けてノッドレインが口を開いた。

「御方様。すでに迷宮騎士団は、迷宮の最も深い部分に進んでいるはずです。いかにレカン殿が強くとも、一人ではそこにたどり着くことはできませぬ」

「ノッドレイン様。でも、レカンは風のように速いのです。戦いをさけながらであれば、一か月もかからず迷宮騎士団に追いつけるのではありませんか?」

「御方様。ユフ迷宮にはさまざまな魔獣がおり、なかには何千歩も先から人間の姿をみつけたり、匂いを嗅ぎつけたり、気配を察知できるものもいるのです。人間が魔獣を発見する能力より、魔獣が人間を発見する能力のほうがはるかに高いのです。みつからずに進むことは、ほぼ不可能です」

「でもレカンなら、魔獣に追いつかれずに走り抜くことができます」

「御方様。敵は一度人間を察知すれば、追いつくまであきらめません。人間のほうは、食事をしたり眠ったり、休憩をしなければなりません。必ず追いつかれます。しかも、人間を追う魔獣は遠方から仲間を引き寄せます。弱い魔獣は何百匹という群れを作りますが、追っているうちに何千何万という数にふくれあがるのです。ただし人間をみつけてから仲間を呼び始めるまでには一定の時間があります。ですから迷宮騎士団は、魔獣に出会ったらその場にとどまり、相手が仲間を呼ぶ前に全滅させるのです。それ以外の方法では、先に進むことはできません」

「一ついいかな」

「レカン殿。何でしょうか」

「オレは二千五百歩先の人間や魔獣を探知できる技能を持っている。壁の向こうにいようが草むらに隠れていようが探知できる」

ノッドレインの目が厳しい光を帯びた。

「ほう。それは、位置や人数がわかるという意味ですか」

「そうだ。ついでにいえば、魔獣と、人間と、それから動物や昆虫は区別できる」

側近の一人がアシッドグレインに顔を向けて口を開いた。

「あの。よろしいでしょうか」

「もちろんだ。思いついたことがあるなら言ってくれ。これはほかの者も同じだ」

「大迷宮二つを踏破されたレカン殿は、驚異的な強さを持っておられるにちがいありません。むしろ領主様とサルジレイン様を救出していただいてはどうでしょうか」

サルジレインというのは、たしか当代のルッカ子爵だ。つまりノッドレインの父親だ。領主と一緒にとらわれているようだ。

側近何人かがうなずいた。だが異見を言う者がいた。

「しかしそれでは戦闘になってしまう。治安騎士団の騎士たちが死ぬことになってしまうぞ」

さらに別の側近が反論した。

「なにを今さら。やつらは領主様の騎士団の騎士たちを殺したではないか。むしろレカン殿には、南家ご当主とダンテスタ・ワイド子爵閣下の捕縛、あるいは成敗をお願いするべきではないか」

「そんなことをすれば領主様に危害が加えられるかもしれない」

ここでアシッドグレインがレカンに聞いた。

「レカン殿。父が無事であるかどうか、ご存じだろうか」

「いや。オレは昨日ユーフォニアに着いたばかりでな。連れてきた密偵が一日がかりで、ここ最近のユフの動きについて調べてくれて、とにもかくにもこの北の塔にやって来たんだ。領主殿や騎士エストファリンが今どうなっているかはわからん。だが時間をくれるんなら、密偵に調べさせる」

「殿下。これはありがたいお申し出です。今のわれわれには、何といっても情報が不足しています。宮殿がどうなっているのか、誰と誰があちらに加担しているのか、正確なことが何もわからない。そこのあたりを調べていただければ、本当に助かります」

「なるほど。もっともな意見だ。ノッドレイン、どう思う?」

「は。その前に、レカン殿」

「うん?」

「貴卿はどうやってこの北の塔に入ってくることができたのですかな?」

「ああ。壁や人を跳び越えて転移できる恩寵品を持っているんだ」

「〈守護の壁〉も越えられるのですな?」

「この塔の下半分を覆っている魔法障壁のことか? ああ。まあ、やってみたらできた」

アシッドグレインが口を挟んだ。

「どうして〈守護の壁〉が北の塔の下半分しか覆っていないことをご存じなのだ。それは今回のことが起きるまで、ここにいる者たちにも秘密だったのに」

「オレには魔力がみえるんだ」

「なんと。レカン殿は魔眼持ちであったか」

(魔眼持ち?)

(たしかシーラもそんなことを言っていたな)

(魔力がみえるのを魔眼というようだな)

再びノッドレインが質問を放った。

「明かりをともし、肉を焼きだしてからは、外がざわついたようだが、レカン殿が入ってこられたときには、騒ぎが起きた感じはしなかった。警備の者にみとがめられなかったのですか?」

「オレは、〈隠蔽〉の魔法が使える」

「なに? ううむ。貴卿は多才ですな」

それからしばらくノッドレインは考え込んだ。

アシッドグレインも側近たちも、この年長者の考えがまとまるのを、じっと待った。

ずいぶん長い時間のあと、ノッドレインは顔を上げた。

「殿下。やはりレカン殿には迷宮に入っていただけないか、お願いしてみるべきかと存じます」