軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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それは金属の頭飾りだった。

葉のついた枝をくるくると丸めたような意匠で、緑がかった銀色の光を放っている。レカンが今までにみた始原の恩寵品のなかでは抜きんでてしゃれた品だ。とはいえ、格別の価値がある品のようにはみえない。ところどころに刻まれた文様は、〈不死王の指輪〉や〈闇鬼の呪符〉や〈白魔の足環〉に刻まれた文様に似ている。

レカンは細杖を出すと、呼吸を調え、テルミンから習った準備詠唱を行って、〈鑑定〉の魔法を行使した。

〈名前:神腐樹の冠〉

〈品名:サークレット〉

〈出現場所:パルシモ迷宮百五十一階層〉

〈深度:百五十一〉

〈恩寵:空虚〉

※空虚:心の臓が十回打つ時間、装着者の攻撃に対する相手の防御力が消失する。効果範囲は百歩。発動呪文は〈ニコラ・リワード〉。この恩寵は一日に一度だけ発動する。この恩寵は女だけが発動できる。この恩寵は命あるものとその装備品に対してだけ効果を持つ。

「おいこら」

「師匠に対して、なんて口の利き方だろうね」

「〈この恩寵は女だけが発動できる〉というのは、何の冗談だ」

「冗談じゃないと思うよ」

「この恩寵品は、男には発動できないのか」

「少なくとも、マハザール王陛下には発動できなかったねえ。だからあたしに下賜されたんだけどね」

マハザール王というのは、ワプド国を繁栄の頂点に導いた賢王であり、破滅のきっかけを作った愚王でもある。そしてたぶん、シーラが主君と仰いだ唯一の人物だ。

「オレがこんなものを手に入れて、何の役に立つというんだ」

「そんなこと知らないよ。欲しがったのはあんただろうに」

今までの始原の恩寵品には、性別による制限などなかった。だから、こんな落とし穴があるなど考えもしなかった。

レカンは、怒りと興奮を静めて冷静な思考を取り戻そうと努めた。

(貴重な品であることは間違いない)

(性能は破格だ)

(持っておいて損な品じゃない)

(エダに装着させるか)

(エダならこれを使えるだろう)

(いざというとき絶大な突破力が得られる)

(それがエダの命を救うかもしれん)

だが、この恩寵は守りの品ではなく、攻撃の品だ。殺戮の品だ。実際に使った場合、たぶん、ひどく凄惨なことになるような気がする。

(だめだな)

(エダにはこれを使わせるべきではない)

期待していただけに落胆は大きい。こみ上げてくる憤りも抑えられない。

シーラは、この恩寵品は女にしか使えない制限がついてるから、あんたが手に入れても、あんた自身は使えないよ、と教えてくれてもよかったはずだ。だがシーラは教えてくれなかった。それはだましたのと同じではないのか。

(ゾルタン)

(あんたがここにいたら)

(どう言うんだろうな)

(まあ酒でも一杯やれ、話はそれからだ、とでも言うのかな)

目の前に、ワインの入ったグラスがある。レカンは、グラスを持ち上げ、じっくりワインを飲み干した。

うまいワインだった。口のなかに残る香気と、喉を流れてゆく心地と、腹に生じたぬくもりを、レカンは目を閉じてゆっくり味わった。体中に酔いが染みわたっていく感覚が、なんとも心地よい。

そして干し肉をかじり、ワインをもう一杯ついで一口飲んだ。

いつの間にか、心はすっかり落ち着いていた。

(シーラはこの品を手放したくないようにみえた)

(たぶんシーラは今でもマハザール王を敬愛しているんだろうな)

(その王の形見のようなものなのかな)

(シーラの事情や思いなど知ろうともせず、いきなりこの品を要求したのはオレのほうだった)

(あれはシーラの心を傷つけたかもしれん)

もう一口ワインを飲んで、〈神腐樹の冠〉をシーラのほうに押しやった。

「オレの見込み違いだった。この恩寵品を、オレは使いこなすことができん。交換条件にする前に、鑑定ぐらいはしておくべきだったな。それに、この品が交換条件にふさわしいか、あんたの意見を聞くべきだった。オレに手落ちがあった。これはあんたに返す。バリフォアの魔石の対価は、預けておく」

シーラが、驚いたような顔をした。

「あんた……少し変わったね」

「そうかな」

「ちょっと待っておいで。次のワインを持ってくるから」

夕闇が落ちかかるまで、二人は話をし、ワインを飲んだ。合計で四本のワインが空になった。飲んだのはほとんどレカンだ。

パルシモであったことを報告した。ジザの豪快な暴れぶりを聞いて、シーラは声を立てて笑った。ジザとの会話のなかでエダがみせた機知には、大いに感心した。

〈白魔の足環〉をみせ、手に入れたいきさつも説明した。チェイニーの怒りようを聞いて、うんうんとうなずきながら、シーラは楽しそうにワインを飲んだ。

楽しい夕べとなった。

そしてレカンはシーラに別れを告げ、ほろ酔い気分で壁や屋根の上を飛び移っていった。

このあとゴンクール邸で、悪夢のような知らせを聞くことになるとは思いもせずに。