軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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レカンは深いため息をついて、椅子に深く体を沈めた。

そしてカップを手にとって、すっかり冷めた茶を口に含んだ。

冷めてはいたが、味わい深い茶だ。

「成功した、だと? そうか。それでか。それにしても、ずいぶん危ない橋を渡ったんだな」

「そうともさ。だけどあたしは勝った」

「何に勝ったんだ?」

「あんたにさ」

「なに?」

「あらためてあんたに聞くよ。あたしは人間の子として生まれ、人間の子として育ち、今も人間としての記憶と思考と感情と肉体を持っている。そしてあんたの〈生命感知〉は、あたしを赤く映しているはずさ。そうじゃないかい?」

「ああ。確かに赤い」

「そうだろうともさ。そして今や〈浄化〉はあたしを害さない。あたしを癒す。さあ、あんたの基準でいえば、あたしは人間かい?」

レカンはしばらく沈黙したのち、答えを出した。

「あんたは人間だ」

シーラは笑った。会心の笑みだ。

「あんたの口から、それを言わせたかったのさ」

「あんたが赤かろうが青かろうが、オレにとっては師匠であり恩人であることは変わらない」

「それとこれとは別さ。あんたは面と向かってあたしを妖魔呼ばわりして、今も生きてる唯一の人間だ。あたしはあたしが人間であることを、絶対にあんたに認めさせたいと願った。その願いがかなったわけさ。そしてあたしは、生命の秘密にまた一歩近づけた。今日はめでたい日さ。あ、そういえば、あんた左目がつぶれたままだったね。お祝いに〈浄化〉をかけたげようか?」

シーラは細杖を取り出すと、レカンに向けた。

「ほら。最上級の〈浄化〉だよ。たぶんその目はみえるようになる。うれしいだろ」

細杖をレカンに向けたまま、その先をふるふると動かした。

「かけてほしいかい。え? なんだって? ありゃ、そうか。あんたはエダちゃんの成長を待つんだったっけか。でも、手がすべりそうだよ。〈浄化〉」

杖の先に青い光が生じた。その光はレカンの顔の前に飛んできて、くるくると回っている。

「うりうり」

シーラはとても楽しそうだった。

その笑顔に腹が立った。

(このくそばばあめ)

(同情なんかするんじゃなかった)

(もう二度と同情なんかせんぞ)

(こいつのしぶとさと性格の悪さは筋金入りだ)

「あっはっは。今日は気分がいいねえ。さてと。ちょうど飲み頃になったかね。ちょっと待っといで」

奥に入ったシーラは、ワインとグラスと皿を持って現れた。ワインの栓は抜いてある。空気を吸わせていたのだろう。皿には干し肉や豆などが載っている。

シーラは二つのグラスにワインをそそいだ。

「さ、乾杯だ」

シーラに合わせて、レカンもグラスを持ち上げた。

「あたしの人間復帰に。ジョー・ジョード」

「大魔導師エルシーラの復活に。ジョー・ジョード」

シーラはグラス一杯のワインをそのまま飲み干してしまった。

「うまいねえ」

レカンはシーラのグラスにワインをそそいだ。

「バリフォアの魔石はどうなったんだ?」

「粉々だよ」

「なるほど。ヴルスはどうなってるんだ?」

「生きてるよ。ちっこいけどね」

「ほう。どこにいるんだ」

「さてね。どこだろうね」

「地竜トロンの魔石は何に使ったんだ。まさかトロンも復活させたのか」

「あ、それだ。あんた、あたしに嘘をついたね」

「嘘をついた覚えはないな。能力を隠したことはあるが」

「トロンの素材は何一つ残っていないってあんたは言ったね」

「ああ。素材を取る前に魔石を取った」

「とげが残ってたじゃないか」

「なに? ああ、とげか。あれは、本体が消えても消えなかったんだったかな」

「生きてるときに体から射出したんなら、本体が滅んでもとげは残るに決まってるだろう」

「そういうルールなのか。で、なんであんたがとげのことを知ってる」

「ザイドモール家の使いがあれをチェイニー商店に売り込んだのさ。チェイニーは金になる品だとは思ったけど、何なのかはわからなかった。あれは鑑定するのもむずかしいからね。それであたしに相談してきた」

相談できたということは、チェイニーはシーラの連絡先を知っていたということだ。それともシーラのほうで時々連絡を取っていたのかもしれない。

「あのとげは武器として使っても一級品だし、何といっても魔法防御には最高だからね。数をそろえれば、とんでもない威力を発揮するよ」

「魔法防御?」

「あんた、トロンと戦ったんだから知ってるだろう。あれの何が手ごわいといって、魔法無効が始末に負えない」

「魔法無効?」

「あんた、ほんとにトロンと戦ったのかい?」

「そのころオレは、攻撃魔法は使えなかった」

「あ、そうだったっけか。あのね。トロンには魔法が効かないんだ。体に触れる寸前で消えちまう。特にとげは魔法を消滅させる効果が高くてね。とげを削りだした剣か槍を構えてたら、大抵の魔法攻撃は消えちまうか、少なくとも威力を半減させられる」

「ほう。そうなのか」

そういえば、トロンのとげに腹を突き破られたとき、〈突風〉が一瞬消えたような気がした。そして体から力が抜けていくような感じがした。

「魔法防御のできる恩寵品や魔道具はいろいろあるけど、ある程度以上の攻撃は通してしまうし、魔力が切れたらそれで終わりだからね。ところがトロンのとげは、障壁を張るわけじゃなく、ただ魔法を消滅させちまうだけだから、かなり威力の大きな魔法にも有効だし、魔力を消費するわけじゃないから、効果が消えることはない」

「高く売れそうだな」

「売れるよ。ただし売る相手は選ばなくちゃならない。品の価値をわかって有効に使える裕福な相手じゃないとね」

「そういえばチェイニーは、ワズロフ家に出入りを許されたと言ってたな。オレのおかげだと礼を言っていたが、トロンのとげをワズロフ家に売り込んだのかもしれんな」

レカンはトロンと戦ったことを、ザイドモール家の人々には話していない。たまたま発見したのだろう。かなりの数のとげをトロンは放ったはずだ。それがザイドモール家の収入になったとすれば、それはいいことだ。

「武器として使うんなら、槍や剣にしたほうが本数が増えて防御範囲が広がる。といっても、あれの加工ができる職人はちょっといないだろうからね。あたしのほうで槍や剣に加工してやることになったよ。その代わりとげを何本かもらった。あれは前から欲しいと思ってたんだ。ヤックルベンドにもとげを二本やったんだけどね。ひどく喜んでたよ」

その話題には乗りたくなかったので、聞かなかったことにした。