軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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「ところでレカン様、お礼を申し上げねばなりません」

「うん?」

「わが商店は、ワズロフ家への出入りを許されました」

「ほう?」

「北方の木材工芸品や毛皮を納めるようにとのことなのですが、商品の加工や仕上げについてワズロフ家の職人がたがいろいろ助言や指導をしてくださっております」

「それは、あんたの商売にとっていいことなのか?」

「もちろんですとも! ワズロフ家への出入りを許されたことだけでも望外のことです。バンタロイの一流商店でも、直接ワズロフ家と取引はできないのですよ。そのうえ、ワズロフ家のお抱え職人たちの技術が学べるのです。こんなに素晴らしいことは、またとありません」

「そうか。それならよかった」

「レカン様のおかげです」

「オレは何もしていない」

「私は、侯爵様にお目通りを許されました。侯爵様ご本人にですよ」

「ほう」

「私は侯爵様の面前で着席を許され、お茶まで頂いたのです。レカン様のパルシモ踏破のことも、そのときお聞きしました。王都の高位貴族様がたのあいだでは、今大きな関心を呼んでいるとか。侯爵様はおっしゃいました。わが従姉妹殿の婚約者である冒険者レカンと昵懇と聞いている。今後はわが家ともよしなに頼む、と」

「ほう?」

「つまり単なる品のやり取りだけでなく、身内と申してははばかりがありましょうが、仲間扱いしてくださったのです。そしてこのメダルをいただきました」

チェイニーがみせたメダルは金色の大きなもので、美しい白銀の鎖がついていた。

「これを掲げれば、誰何されずにワズロフ家の本館前に馬車を進めることができるのです」

「あんたはオレの仲間だ。たしかマンフリーにもそう言った」

「レカン様」

「マンフリーが気を利かせたんだろうな。だがチェイニー。オレに気を使うことはないぞ。あんたの商売はあんたの自由にやれ」

「それはこちらの申し上げることです。どうぞわが商店へのお気遣いから、進まれる道を狭めることなく、あなた様はあなた様のお心のままに進まれますよう」

「そんな心配はいらん。オレはオレの好きに生きる」

「そういえばそうでした」

二人は顔をみあわせて大笑いをした。

「仇討ち許可証というものがあるのか?」

「ええ。あることはあります。発行されることはあまりありませんが。レカン様のお話では、チャダ領主様がそのリントスという若者のために許可証を発行なさるということですが、いささか奇異に感じました」

「どういうことだ」

「そもそも貴族同士のいさかいは貴族同士で片を付けるものであり、領主は裁定をすることはあっても、仇討ち許可証のようなものは発行いたしません。かといって庶民同士の場合にも、事前に許可証が発行されることはまれで、ふつうは仇討ちが行われたあと、それが正当な復讐であったかどうかが裁定されるのです。この場合、復讐する側に非がなく、復讐される側に大きな罪があることが明らかにならねば、復讐した側が処罰されます」

「それはそうだろうな」

「仇討ち許可証があれば、相手に決闘を申し込むことができます。その代わり、相手にも返り討ちの権利が発生します。しかしこの場合、復讐される側のほうが大きな戦力を用意できますから、決闘など申し込めばリントス殿が不利になるでしょう。それに、チャダの領主様が発行した仇討ち許可証が、ロトルの商人にどこまで有効か疑問です」

「なるほどな。確かに変だな」

「ただ、メイス商会のケラス殿が大金をはたいてチャダ領主様に働きかけたのなら、仇討ち許可証が発行される可能性はあります。強力な助太刀も準備できるでしょう。そんなことをすれば、メイス商会はロトル領主様からは憎まれるでしょうがね」

「そんなものか」

「領主様がたは、商人以上に利に聡いものですよ。そして商人には考えられないほど体面というものを大切になさいます。ロトル領主家と取引をしているロトルの有力商人を守れなかったというのでは、利も体面も失ってしまいます」

「ああ、それはそうだろうな」

チェイニーと会話をしながら、レカンは酒と料理を大いに楽しんだ。

個室を出たとき、ぽっちゃりの姿は消えていた。

それから二日後の夕刻、レカンが食堂に行くと、チェイニーとヴァンダムとニルフトが先に店に来ていた。

「ニルフト。レカン様に調査結果をご報告しなさい」

「はい。レカン様。ホータンとヌーガは、ともに偽名でした」

「なに」

「そうではないかと疑っていたのです。神々に誓約を立てて契約を結ぶときには、本名でなくてはなりませんから、当然ロトル領主様は、二人の本名をご存じでした」

「改名ではなく偽名なのか?」

「レカン様。この世界では神々に認められた正当な改名をするのでなければ、加護を失うばかりか、神々の怒りを買うこともあります。名を変えるというのは、よほどのことです」

「そういうものか。それで、その二人の本名は」

「ホータンと名乗っている男はケイブン、ヌーガと名乗っている男はゼアハドというのが本名でした。そしてこの二人は、顔も変えています」

「顔を変える?」

「はい。〈 変身(ウェジャパダ) 〉という魔法によるものと思われます」

「いや。あの二人は魔力を常時まとってはいなかったぞ」

「レカン様。〈変身〉は、身体の一部の形状を作り替えてしまう魔法です。いったん魔法が行使されたあとは、魔力を帯びてはいません」

「そういえば、〈変身〉は精神系や知覚系ではなく身体系だったな」

「はい。そして〈変身〉で顔を変える場合、もとの顔の面影が残っているのがふつうです。あまり大きく顔を作り替えると、顔が崩れてしまったり、死んでしまったりするからです」

「ほう。そうなのか」

「はい。そしてレカン様、ホータンは四日後に宝物の壺をロトル領主様に献上します。その日以降にチェイニー様とレカン様が少数の従者を連れてロトル領主様にごあいさつに訪れると、部屋にその壺が飾ってあります。レカン様が壺に〈鑑定〉をなさっても、領主家の使用人がたはみてみぬ振りをされます」

「でかした。よくそこまで段取りを整えてくれた」

「恐れ入ります」

「チェイニー。この男は役に立つな」

レカンが個室を出ると、店でぽっちゃりが食事していた。

にっこり笑って手を振ってきた。無視して通り過ぎようかと思ったが、ふと気が変わった。レカンはぽっちゃりのほうに向き直り、ずかずかと近づいた。

ぽっちゃりの顔が喜びと期待に輝いた。

テーブルの前に座ったぽっちゃりを、レカンがみおろす。

「ぽっちゃり」

「は、はい。旦那」

「お前は要らん」