作品タイトル不明
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「きさまっ。どこから現れたっ」
三人の盗賊は馬を止めた。
「みのがしてやるから、あちらへ行け」
「俺たちは、忙しいのだ」
三人目の男は胸の隠しに手を入れながら、そう言った。
隠しのなかで、男の手はナイフを握っている。レカンが背を向けたら投げつける気なのだろう。
レカンは大股で男たちに近寄った。
突然、男の一人がレカンに向かって馬を走らせた。
血走った目でレカンをにらみつけながら、剣を振り上げる。
いくらレカンが大柄だといっても、馬に乗った人間のほうが位置は高い。
そして馬という機動力と戦力を持つ山賊は、自分が優位であることを疑ってもいない。
レカンは〈ラスクの剣〉を抜いた。
「いやあああああっっっっ」
気合いの声を発しながら斬り掛かってきた山賊の、剣を持つ右手をレカンは斬り飛ばした。
(こいつ?)
(山賊にしてはよく鍛えられた斬撃だ)
(剣もそこそこの品のようだし)
(馬もいい馬だ)
(冒険者くずれか?)
横を馬が通りすぎてゆき、レカンの髪と外套が風にはためく。
そしてレカンの後ろで山賊が馬から落ちる気配がした。
「こ、こいつ!」
その光景に恐れをなすどころか怒りを沸騰させ、二人目の山賊が馬を駆って斬りかかってきた。
この男の武器は斧だ。体は大きく、乗っている馬も大きい。
蹴破るような大きな蹄の音を響かせて、馬が猛進してくる。気の弱い冒険者なら、これだけで腰が砕けてしまうだろう。
レカンはだらりと両手を下げて、馬の接近をみまもっている。
そして山賊が斧を振りおろそうとした瞬間、すさまじい速度で〈ラスクの剣〉を振った。
斧は柄の途中で断ち切られ、レカンの足元にどすんと突き立った。
山賊はレカンの横を通り過ぎてしばらく馬を走らせたあと、速度を緩めて反転した。右手は腰の剣をにぎっている。
山賊が剣をなかば鞘から抜いたところで、レカンの投げた斧の頭が胸に激突し、男は馬の上から吹き飛んだ。
レカンが振り返ると、三人目の山賊は一目散に走り去っていた。そして八十歩ほど離れた地点で馬足を緩め、振り返って憎々しげな目でレカンをみた。その位置なら安全だと思っているのだ。
「〈 炎槍(バンドルー) 〉!」
山賊の頭がレカンの魔法で吹き飛んだ。
レカンは左手を下ろした。
(左手で撃つ〈炎槍〉も)
(ずいぶん速くなったし正確になったな)
レカンは振り返って、遠くの丘をみた。
木立のなかに、馬に乗った人間がいて、ずっとこちらをみていた。
その人間は馬首をひるがえして立ち去った。ふつうなら誰かがいたことさえ視認できないだろう。しかし迷宮で位階を上げ続けたレカンの身体能力は、視力を含めて常人の域を超えている。わずかながら相手の顔をみることができた。
レカンは二人の若者に近寄った。
「だいじょうぶか?」
「ええ。おかげで助かりました」
若い男は剣をしまってレカンに礼を言った。だが女を後ろにかばい、油断なくレカンの挙動をみさだめようとしている。
「実はオレはある秘宝を探している」
「え?」
「ロトルの町の食堂であんたをみかけた。その足に巻いている脛覆いに興味を引かれた。もしかすると、それがオレの捜し物の一つかもしれん」
「えっ。でもこの 脚絆(きゃはん) は、わが家に代々伝わるものです。何かのお間違いでは」
「これをみてくれ」
レカンは〈闇鬼の呪符〉を取り出して、若い男の目の前に突き出した。
「この呪符に刻まれた文様は、あんたの脛覆いの模様に、よく似てるだろう」
「本当だ。似てますね」
「すまんが、その脛覆い、いや、脚絆だったか、それを鑑定させてもらえないか。もちろん、足に着けたままでいい」
「あ、だめなんです。この脚絆には〈鑑定〉は通らないんです」
「ほう。それならしかたがない。だが、試すだけでも試させてもらえないか」
「ええ、まあ。〈鑑定〉をかけるぐらいなら、べつにかまいませんが」
「すまん」
レカンは細杖を取り出し、準備詠唱をして魔力を練った。
「すべてのまことを映し出すガフラ=ダフラの鏡よ、最果ての叡智よ。わが杖の指し示すところ、わが魔力の貫くところ、霊威の光もて惑わしの霧を打ち払い、存在のことわりを鮮らかに照らし出せ。〈鑑定〉」
〈名前:白魔の足環〉
〈品名:脚絆〉
〈出現場所:エジス迷宮百四十階層〉
〈深度:百四十〉
〈恩寵:転移〉
※転移:前方二十歩先に転移する。転移は障害物に妨げられない。転移先に物体がある場合は、それを避けて転移する。走行していれば転移距離が伸びる。発動呪文は〈ゾルアス・クルト・ヴェンダ〉。この恩寵は一日に三度だけ発動する。
「か、〈鑑定〉が通った? 今、〈鑑定〉が通りましたね?」
「ああ、通った」
「その呪文は? その準備詠唱は聞いたことがありません。どういう流派のものですか?」
「この〈鑑定〉のやり方は、王都からツボルトに招かれたテルミンという鑑定士に教わった」
「テルミン老師! 武器の鑑定にかけては王国一といわれる鑑定士ではありませんか。そうなのですか。あなたはテルミン老師のお弟子さんなのですか」
「ああ」
若者からは、もう警戒心を感じなかった。