軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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二日目のおひろめでは、見せ物扱いだった。

領主邸のベランダに立って、領民たちに手を振るのだ。

レカンは手を振らなかった。こんなところに立つこと自体、嫌だった。だが、ジザから頼み込まれたので嫌とはいえなかった。レカンがジザの頼みを断ったためにジザの立場が悪くなるのは、もっと嫌だったのだ。

アリオスはにこにこと笑顔を振り撒き、女性たちから大きな歓声を浴びている。

レカンがジザの頼みを断りにくい理由は、もう一つあった。

晩餐が始まるまえに、ジザがレカンに渡したものが、そのもう一つの理由だ。

〈混沌の魔狼〉の魔石である。

「おいおい。これは魔法研究所が欲しがるんじゃないのか」

「ああ、欲しがるじゃろうな。じゃが、これは別のかたに差し上げたい」

「別のかた?」

「シーラ様じゃ」

「シーラはどこかに消えた」

「それは知っとる。しかし、亡くなられたわけじゃないんじゃろ」

「それはまあそのようだが」

「とすると、おんしがいつかまたシーラ様に会うことがあるかもしれん。そうじゃろう」

「いつのことになるかわからんぞ」

「いつになってもよいのじゃ。わしからの贈り物じゃ。差し上げてほしい」

シーラとは未来永劫絶対に会えないと言ってしまうのも不自然だ。だからレカンとしては魔石を預かるほかなかった。どうもジザにはいろいろみすかされているような気がする。

それにしても、これがあの精気にあふれた魔法使いと同一人物なのだろうか。すっかり枯れてしまったようにみえる。簡単にひねりつぶせるような気さえする。

そう考えて、ふと思った。シーラもそうなのではないかと。

確かにシーラは膨大な魔力を持っているし、高度な魔法を駆使する大魔法使いだ。

しかし同時に老人でもある。長期戦や大規模な戦闘を行うだけの気力と体力はないかもしれない。とてつもなく強いようにみせているが、それはシーラの一面であって、本当のところ、戦い方によってはレカンのほうが強いかもしれない。

べつにレカンはシーラと戦って倒したいと思っているわけではない。ただ、思ったよりシーラには弱い部分が多いのかもしれないと気づいたのだ。シーラは強大な存在だが、強大であるがゆえに弱みも大きいのではないだろうか。

(なんといっても年寄りなんだからなあ)

(長い年月を生きて疲れきっているだろう)

(体の節々も痛むだろうし、心細い思いもしてるんだろうな)

(少しいたわってやらんといかんな)

(土産でも買っていってやろうか)

(あ、〈混沌の魔狼〉の魔石があるからいいか)

八の月の十日に、レカンとエダはパルシモを出た。

アリオスとユリウスも一緒にパルシモを出て、門の外で別れた。

ユリウスは、里でしばらく修業して、またレカンのもとに戻ってくるというので、ヴォーカに来いとレカンは言った。

ぶらぶらエダと旅をしながらヴォーカに帰る。シーラに聞きたいことがいくつかできたが、急ぐ必要はない。

パルシモの探索ではいろいろなことを学んだ。

王都では〈浄化〉の長期間使用による問題点に気づいていなかったが、パルシモでは研究されていた。魔法研究所が研究成果を秘匿するのは無理もないので、そのこと自体に不思議はない。ところがジザほどの賢者が、対物理の〈障壁〉魔法の張り方を知らなかったし、物理障壁を張る恩寵品についてもほとんど知識がないようにみえた。だが、ゴルブル迷宮で物理障壁を張る恩寵品が出たのだ。他の迷宮でまったく出ないとは考えにくい。ツボルト迷宮で戦ったヴァンガードたちは、物理障壁相手の戦い方を知っているように思えた。物理障壁を張る恩寵品は、希少なものではあるかもしれないが、それなりに出回っているのだろう。

それからシーラだ。

シーラは、地竜トロンが冷気のブレスらしきものをはいたことには驚かなかったが、それがどういう魔法であるか確定はできないと言った。そして、自分では冷気のブレスをみたことはないと言った。ただし、冷気のブレスをはく魔獣を知らないとは言っていなかった。ということは、シーラはパルシモ迷宮に入ったことはないのだ。自分ではみたことはないが、パルシモ迷宮の魔狼が冷気のブレスをはくことは知っていたのだろう。だからあんな言い方をしたのだ。

シーラは何でも知っているような気もしかけていたが、そんなことがあるはずもない。そのことが、今回よくわかった。

シーラは〈神腐樹の冠〉を持っている。それは、すでにシーラに渡した魔竜バリフォアの魔石と交換で、レカンのものとなることが決まっている。〈神腐樹の冠〉は、パルシモ迷宮で出たものだ。ということは、シーラはそれを自分で手に入れたのではない。いったいどういう経緯でシーラのものとなったのだろう。レカンに引き渡すのが名残惜しいようにもみえた。事情を聞いておいたほうがいいかもしれない。

ともあれ、この世界ではかなり情報の伝達が進んでいると思ったが、ある面では分断されているのだ。つまり、ある場所では知られていなかった魔法や恩寵品が、別の場所に行けば当たり前のように使われていることもあると考えておかねばならない。

(離れた場所の迷宮にも行ってみたほうがいいな)

そうレカンは思った。

だが、それは少し先のことだ。パルシモでの探索は密度が高かった。迷宮探索はしばらく休憩するつもりである。

「あっ」

「どうしたの、レカン?」

「いや。何でもない」

ジザに〈驟火〉をみせると約束したのに、みせるのを忘れていた。

約束は果たさねばならない。

(ふふ。ということは、またジザに会うことがあるということだな)

(それも運命神の配剤だ。じたばたしてもしかたがない)

草の道をエダと並んで歩くレカンは、自分でも奇妙だと思うぐらい上機嫌だった。

「そういえば、レカン」

「うん?」

「導師様が、これをみせてくれたときにね」

エダは、首飾りの魔力を補充する袋を取り出してみせた。

「それは何だ、って聞いてたよね」

「ああ」

わからないから聞いたのだ。それがどうしたというのだろう。

「首飾りを使ってるのに、魔力を補充する袋は知らないことを白状しちゃったわけだよね」

「あ」

「で、そのあと、導師様が、この迷宮では、自分かレカンが魔力をそそげばいいと言ったよね」

「あ、ああ」

「レカンは何も言わなかった。ということは、レカンは〈付与〉の魔法が使えるって、認めちゃったわけだ」

「あ」

そういえばそうだ。あらためて考えると、ジザにはそれを知られてもかまわなかったが、問題はレカン自身が気づかないうちに、ジザにレカンの手の内を暴かれてしまったことだ。ほかにもいろいろと探られてしまったかもしれない。

(それにしても、エダがそれに気づくとはな)

「エダ。オレの魔力付与はもとの世界で得た技能で、魔法の〈付与〉とはちがう。〈付与〉持ちだと思われているのなら問題ない」

「あ、そうなんだ」

エダはいろんな意味で成長してきているようだ。それはよいことだ、とレカンは思った。