軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

18

18

一瞬、レカンは気おされた。

レカンは暴力の気配がどれほど強くてもひるんだりしない。

気品だ。この敵には気品がある。その気品がレカンの気迫を押し返したのである。

白炎狼は、乱入者たちを睥睨しながら、悠然と右前足を踏み出した。

次の瞬間、白炎狼の姿は部屋の中央にあった。

(〈転移〉だと?)

それはニーナエ迷宮の女王蜘蛛が持っていた能力である。

ただし、この広い部屋のなかほどまでを一気に跳べるとなると、白炎狼の転移距離は女王蜘蛛よりはるかに大きい。

(あんな距離の転移を自在に発動できるとなると厄介だな)

「バリフォルディア」

ジザの呪文が響いた。

手に持った杖がふわりと宙に浮かび、まっすぐ白炎狼のほうに漂ってゆく。

白炎狼は、浮かんだ杖の動きをみさだめるかのように、じっとしている。

レカンはすっと前進を開始した。アリオスがぴたりと併走し、ユリウスが一歩遅れてついてくる。

杖は白炎狼の上空で停止した。そして、四つの金属球が杖から離れ、四方に移動する。白炎狼は身をかがめ、レカンたち三人への迎撃体勢をとった。

「パドラシオ!」

ジザが鋭く呪文を発する。

とたんに白炎狼は身をひるがえして消えた。転移したのだ。

だが、ばちんと何かがはじけるような音がして、白炎狼が姿を現す。その右前足には土色の鎖が巻き付いている。あっという間に左後ろ足を赤色の鎖が、左前足を無色の鎖が、右後ろ足を水色の鎖が縛る。

みれば、その四つの鎖は、中空に静止した四つの金属球から出ている。

さして太い鎖ではない。だがレカンの〈立体知覚〉はその鎖が物質的な鎖であることを教え、〈魔力感知〉は、その鎖が魔力的な鎖でもあることを教えている。

(器用なものを作ったな)

そう思いながらレカンはすでに白炎狼に襲いかかっている。

歯をむき出してこちらをにらみ、身をよじる白炎狼の脳天に、〈狼鬼斬り〉をたたき付けた。

(なにっ?)

奇妙な手応えだ。いや、手応えは確かにあったのだが、斬撃が通っていない。

レカンはこれまで、ほぼ真っ黒な魔狼とも、完全に真っ黒な魔狼とも戦ってきた。だからわかる。これは物理攻撃が無効になっているのではない。ちゃんと物理攻撃は入ったのだ。にもかかわらずダメージがない。

これと似た手応えをレカンは経験している。ほかならぬ〈貴王熊〉だ。今その毛皮はレカンの外套となっているが、〈貴王熊〉は、物理攻撃も魔法攻撃もなかなかダメージを与えられない厄介な魔獣だった。

それでもレカンは剣をもう一度振り上げ、白炎狼の首筋に打ち付けた。白炎狼が威嚇のうなり声を上げる。だが、ダメージは入っていない。

これではっきりした。〈狼鬼斬り〉の特殊効果が働いていないのだ。それが働いているときに感じる手応えを、まるで感じない。狼鬼族に対してダメージが倍加するという恩寵が働かないとすると、この剣はとたんに並の性能になってしまう。

「ディオ」

ジザが短く呪文を唱えた。〈七頭の青杖〉を起動させているのだ。

「ヴェント」

素早く、しかし明確に、呪文は続く。

鎖に縛られたまま、白炎狼が口を開けてレカンに飛びかかる。

その頭部に魔法矢が着弾する。エダの攻撃だ。

「パードラ」

「カーツォ」

アリオスとユリウスも回り込んで白炎狼に一撃を与える。

「シャンタ」

「サリカ」

「イリエント」

レカンは、アリオスの一撃が、白炎狼の背中に傷をつけたのをみた。

そのとき、後ろから強大な魔法が迫る気配がして、飛びのいた。

巨大な白い熱線が白炎狼の体を直撃して後ずらせた。ジザの攻撃だ。

レカンの最大級の〈炎槍〉をも上回る強大無比の魔法攻撃である。

その魔法攻撃は白炎狼を直撃してまばゆい光を発した。

わずかな時間のあと光が収まると、白炎狼はわずかに後ろに押し戻されていて、その白い毛皮には魔法で出来た傷がありありと残っていた。

(ほう。これならやれるな)

だがその考えは甘かった。

白炎狼がひと声吠えると、その頭上に魔法陣が現れた。

ジザが真っ赤な熱線を撃ち込んだが、白炎狼を直撃する寸前に、みえない障壁に遮られた。

対魔法障壁である。

白炎狼が立て続けに吠え声を上げ、そのたびに頭上に魔法陣が現れた。全部で五つだ。そしてそのうちの四つから、それぞれ色の違う魔法攻撃が発せられ、ジザに襲いかかった。

たちまち〈インテュアドロの首飾り〉による障壁が生成され、攻撃を防ぐ。

ジザは委細構わず魔法攻撃を撃ち続ける。

白炎狼とジザのすさまじい魔法の撃ち合いになった。

エダも〈イェルビッツの弓〉で援護射撃を始めた。

レカンも〈ウォルカンの盾〉を手甲に戻し、左手で〈炎槍〉を放つ。

どんな障壁も、その強度や魔力を超える攻撃を加えれば破壊できる。ジザの魔法攻撃は、やがて白炎狼の障壁を打ち壊すだろう。レカンが手伝えば、それは早くなるはずだ。そしてまた、密度の高い魔法攻撃が続くことで、白炎狼の動きは制限されているはずだ。

そうしているあいだにも、アリオスとユリウスは、タイミングをみはからっては飛び込んで、白炎狼に斬撃を加えている。

もはやはっきりと、白炎狼の体は傷つき出血している。

(オレも魔法攻撃はやめて剣で攻撃するべきだろうか)

(だが、あてにしていた〈狼鬼斬り〉は役に立たん)

(〈彗星斬り〉を使うべきか?)

ちらりと後ろをみると、ウイーが絶妙な位置に立っていた。その位置ならジザが撃つ魔法の邪魔はせず、白炎狼が放つ魔法攻撃を、ウイーの首飾りで防ぐことができる。

この状態を続ければ勝ち目がみえてくるかもしれないとレカンは思ったが、そうはいかないことがすぐにわかった。

白炎狼がひと声吠えた。六個めの魔法陣が浮かび上がり、柔らかな緑色の光を発すると、白炎狼の体についた傷がみるみる癒されていったのである。

(回復魔法まで使えるのか!)

次の瞬間、白炎狼の頭上に浮いていた杖が砕け散った。