作品タイトル不明
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レカンの狙い通り、小火竜は喉を膨らませて火弾攻撃の準備に入った。
くわっと口を開きながら首の向きを変え、火弾を吹き出す。
レカンにとってはその動作は緩慢で、飛んでくる火弾もさほどの速度ではない。ただし威力はなかなかのものだ。
余裕をもって火弾をかわす。後方に着弾して、爆発する。
小火竜は、またも喉を膨らませ、次の火弾をユリウスに放つ。もちろんユリウスも充分に余裕をもってそれをかわす。
火竜はまたも火弾の準備に入った。両脚が傷だらけになっているので、火弾で時間を稼いでおいて、竜種特有の驚異的な回復力で脚が回復するのを待つのだろう。
レカンとユリウスは小火竜との距離を保ちつつ、左右に移動して、敵を牽制している。
火弾には大きな魔力が込められていて、威力も大きい。さすがの竜にとってもばかにならない魔力だ。こんな攻撃を立て続けに撃てば、魔力は減る。魔力が減れば、動きもにぶくなるし、防御力も落ちる。要するに消耗させて攻撃を通りやすくさせる戦法だ。
レカンに向かって火弾が放たれた。かわそうかと思ったが、今たまたまレカンの後方にエダがいる。レカンは〈ウォルカンの盾〉で火弾の軌道をそらした。
そのときレカンの足元の岩が崩れ、レカンは足を滑らせた。
この程度のことはレカンにとっては危機ではない。何とでも体勢は立て直せるし、敵の位置もきちんと〈立体知覚〉で把握している。
だが、周りからみれば、レカンが危機に陥ったようにみえた。
小火竜が大きく一歩レカンに踏み込み、体を前に倒してレカンを攻撃しようとする。
そのときユリウスが飛び込んで、〈疾風剣〉を一閃させ、小火竜の左脚を切断した。
あっ、とレカンは心のなかで驚いた。
美しい剣筋だった。
剣をふるう動作の全体が光り輝くようにみえた。
それほど素晴らしい一撃だった。
小火竜が転倒する。
倒れてくる小火竜を最小限の動作でかわしたユリウスは、轟音を立てて竜が地に倒れた瞬間、その頭部の後ろ側に位置を占めていて、竜の首を後ろから大上段に大きく斬り裂いた。
それが致命傷となった。
「やった! やったね、ユリウス君!」
エダが大喜びしながら近づいてくる。
ユリウスはといえば、両手に構えた剣を呆然とみつめている。
「今のは何のわざだ。名前はあるのか?」
「名前? わざ? いえ。わざをつかったわけでは。ただ無我夢中で剣を振っただけです」
このときレカンは理解した。
ユリウスは天才だ。ただしアリオスのような万能型の剣士ではなく、斬り裂く、という攻撃に突出した才能を持つ剣士なのだ。
たぶんアリオスは、自分の息子には大きな天分があることに気づいていた。だが、その天分は、アリオスの知識や技術で磨こうとしても、アリオスの技術や知識以上のものとはならない。
だからレカンのもとで学ばせたのだ。レカンは型を教えない。そもそも知らないのだから教えようもない。実戦のなかでレカンの戦い方に刺激を受け、ユリウスがみずから殻を破るのを楽しみに、ユリウスをレカンに委ねたのだ。
とにかく見事な一撃だった。
そしてそのあと振りおろして小火竜の首を刈った一撃も戦慄すべき切れ味だった。
もともと剣は最上級の業物であり、ユリウスはツボルト迷宮百二十階層に到達した冒険者なのだから、それだけの基礎能力は持っている。あとは心とわざが釣り合えばよいだけのことだったのだ。
そう考えてみると、レカンがユリウスに感じていた物足りなさは、翼ある生き物が飛ぼうとして飛べずに苦しんでいる姿に感じたものだったのだろう。
今やユリウスは飛び方を覚えた。翼はとてつもなく大きい。
(パルシモ迷宮の探索が一気に楽しみになってきたな)
レカンは小火竜の遺体を聖硬銀の剣で切り分けて〈収納〉に入れ、最後に魔石を採った。
「ユリウス。この魔石はお前のものだ」
「え」
「竜を倒した記念だ。まあ、飽きたら売ってしまってもいいがな」
「あ、ありがとうございます、師匠!」
「よかったねえ、ユリウス君」
「はいっ。エダ姉さんもありがとうございます」
「素材はあとでチェイニーに売る。金の分配は当分先になるが、かまわんな」
「はい」
「うん」
「さてと。この迷宮は休眠に入る。もうこの町に用はないな」
レカンとエダとユリウスは迷宮を出て、そのままロトルの町を離れた。
前回迷宮の主を倒したときには、町中が大騒ぎになり、あまりゆっくりできなかった。たぶん今回もそうなるだろう。食べ物はあるのだから、今夜は野営でよい。
その夜の野営は楽しかった。
炙った肉も、焼き酒もうまかった。
エダが作ったスープもうまかった。エダは王都に行って以来、いろいろと変わった香辛料や食材の使い方を学んだようで、今回もマシャジャインで食材を補充していたが、それがさっそく役に立った。
食事が終わったあと、ユリウスは暗い森のなかで何度も剣を振っていた。その剣筋の鋭さは、昨日までとはちがうものだ。
剣が空を斬り裂く音が、レカンの耳を楽しませた。