作品タイトル不明
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七十階層に入ると、ほかの冒険者はほとんどいなかった。
ここまではユリウスとエダを中心に戦闘し、レカンは補助するような戦い方をしたが、ここからは逆にレカンが先頭に立ち、ユリウスとエダに補助させた。
魔法を撃ってくる敵がいたので、〈ラットの盾〉を試してみた。ラカシュ迷宮の主である巨大百足を倒して得た品で、〈魔法反射〉という恩寵がついている。
だがその効果はレカンの期待を裏切るものだった。
確かに魔法攻撃を反射するのだが、威力は半減するし、跳ね返る方向が制御できない。表面がつるつるしていて滑るので、普通の盾としては使いにくい。
レカンはこの品を売り払うことに決めた。
最下層にいる迷宮の主を倒したのは三の月の三十三日のことだった。
ロトル迷宮の主は 小火竜(パルベイザム) だ。下位竜ではあるが、八十階層に出現するだけあって、恐るべき強さを持っていた。
だがレカンは〈 万竜斬り(アルザムシル) 〉の一振りで首を飛ばしてしまった。ツボルト迷宮百四十九階層で手に入れたこの恩寵品は、さすがに桁違いの威力だった。
実のところ、レカンはこの戦いで〈アゴストの剣〉を試してみるつもりだった。リプリンの町でアゴストの妻に会って話を聞いたのだが、〈アゴストの剣〉は〈竜滅剣〉とも呼ばれ、本当に竜を倒すために作られた剣だったのだ。ただしその竜とは地竜族でも飛竜族でも火竜族でもないという。ということは、竜種特殊個体か、さもなければ神獣のことだ。この剣が火竜族である小火竜に効果があるかないか知りたかったが、それはまた次の機会ということになった。
それにしても、この世界で最初に挑戦したゴルブル迷宮は三十階層であり、その最下層の主である大剛鬼とほぼ相打ちだった。それが今では八十階層の迷宮の主を苦も無く葬り去った。迷宮の難易度は単純に階層で決めつけられるものではないが、やはり八十階層の主はそれだけの強さがあった。
倒した竜に礼を捧げながら、レカンは感慨にひたった。
(この世界に来てよかった)
(オレは強くなった)
(そしてまだまだ強くなる)
三人は町の食堂で祝杯を上げた。迷宮が踏破されて休眠状態に入ったことで町は大騒ぎだ。どうもこの迷宮が休眠するのは非常に久しぶりのことらしく、怒号や悲鳴が飛び交っているが、この三人が英雄なのだとは、誰も気づいていない。
「ユリウス。春になったら一度里に帰ると言っていたな」
「はい」
「その前に、一度ヴォーカに来い。今回得た素材で鎧を作る。その寸法合わせをしてから里に帰れ」
「は、はいっ」
うれしそうだ。
無理もない。竜素材の鎧は戦いに身を置く者ならあこがれない者はない。物理耐性も大きいが、魔法防御も格段に高い。
「エダ。お前とオレの鎧も新調する」
「ありがとう。でも、この軽鎧も気に入ってたんだけどなあ」
「しまっておいて予備にすればいい」
「そうだね」
その竜素材と魔石はレカンの〈収納〉に入っている。竜の体のような大きなものをいくつかに切っただけで収納できるほど、その機能は進化していたのだ。〈生命感知〉や〈魔力感知〉や〈立体知覚〉には変化がない。もう上限なのだろう。町の人々は、竜の素材を持っている冒険者を探している。もちろんそんな冒険者はみつかるわけがない。まだ迷宮を出ていないはずだという声も聞こえる。まともに解体したら、さぞ時間がかかることだろう。といって、竜素材を放置して迷宮を去る冒険者などいるわけがない。
「さて、三人でヴォーカに帰るぞ。そして鎧の寸法取りをする。ユリウスは里に帰り、オレとエダはシアリギの若芽を採取する。そして魔力回復薬を山ほど作る。いつ再合流するかは別れるときに決める」
こうして三人は帰途に就いたが、立ち寄ったワズロフ家で予定が変わることになった。チェイニーというなじみの商人に竜素材の鎧を作らせるつもりだと言ったレカンに、マンフリーがこう言ったのである。
「レカン。失礼だがヴォーカの商人や職人に竜素材は無理ではないか」
そういえばチェイニーは、女王蜘蛛の素材で軽鎧を作るときでさえ、バンタロイの職人に頼ったのだった。
「悪いことはいわぬ。その素材で鎧を作るのは、マシャジャインの職人に任せてはどうか。そのチェイニーとかいう商人には、鱗や目や角や牙や肉を売ってやればよい」
「それもそうだな。あんたに頼もう」
「うむ。最高の職人を用意させる」
レカンはもろもろの感謝の意味を込めて、小火竜の魔石をマンフリーに贈った。
ロトル迷宮は宝箱の出現率が極端に低く、そのうまみは素材の獲得にある。五十階層までの素材は売り飛ばしたが、五十階層以降の素材は売らずにとってある。レカンは、その素材も全部チェイニーに売ってやるつもりだ。
夕食に竜の肉を使っていいかと聞かれた。
レカンがもといた世界では、竜の肉は薬の材料として珍重されたが、食べる者はいなかった。ひどくまずいらしいというのが冒険者の常識だった。
だから、変なことを言うなと思いながら、ああかまわない、と返事した。
この日の晩餐はマンフリーと一緒だったが、竜の肉のえもいわれぬうまさにレカンは驚いた。
なるほどここは異世界だ。常識だと思っていたものが全然常識ではない。
マンフリーによると、竜の肉というのはもともと腐りにくいが、薬草を添えて不腐布というもので包むと、一年間ぐらいもつのだという。
火竜族の肉は、美味であることはもちろん、疲労回復や体力増強の効果もあり、病気や怪我も治りやすくなるし、一説には寿命を延ばす働きもあるといわれている。竜の肉を食べたこどもが魔法の才能に目覚めることもあるという。要するに非常に貴重なものなのだ。
「マンフリー。竜の肉の半分をあんたにやる」
「ほう」
「残りの半分に、その処理を施してもらえるか。その肉は売らん。オレが持っていく」
採寸が終わり、ここでユリウスとはいったん別れることになった。竜の肉をアリオスへの土産に持たせた。六月末日にワズロフ家に集合して、いよいよパルシモ迷宮に再挑戦する。
こうしてレカンとエダはヴォーカに帰ったのであるが、そこでレカンは驚愕すべき事態に出会う。