軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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その刹那。

何かに突き飛ばされたかのようにレカンの体は左に動いた。

だが、何に突き飛ばされたわけでもない。レカンの体が窮地にあって信じがたいほどの反応をみせたのだ。レカンは、ゾルタンが殴り飛ばしてくれたように感じた。

しかし完全にかわしきることはできなかった。

魔獣の右こぶしが顎をかすめ、下顎が砕ける。

体勢を崩したレカンに、魔獣は、引き絞った左のこぶしをたたきつけてきた。

魔獣の左こぶしがうなりを上げて迫る。

もはやかわすことはできない。

その刹那。

レカンは思考をめぐらした。

(何か)

(何か武器があれば)

(手に持って殴れる近接武器が!)

レカンは脳裏に、少し前にみたある武器の姿を思い描いた。

その瞬間、レカンの右手には凶悪な四本爪の鉤爪があった。

さすがの魔獣も突然こぶしの前に現れた凶器をかわすことはできず、鉤爪はこぶしと激突する。

聖硬銀の剣でなかばまで断ち斬られていた魔獣の左腕は、鉤爪との衝突で奇妙な方向に折れた。そしてレカンは突進してくる魔獣に鉤爪をたたきつける。鉤爪は魔獣の顔を強打した。

レカンは鉤爪で敵の顔面を突き刺したまま、魔獣の体を押し込んで、岩の床にたたきつけた。何かが折れ砕ける音がした。

レカンは素早く起き上がると右手から鉤爪をはずした。

砕けた顎からは、血が噴き出している。

左手に持っていた杖は、いつのまにか手を離れている。レカンは〈収納〉から別の聖硬銀の剣を出した。

魔獣はすでに起き上がっていて、右足の蹴りを放ってくる。しかし左腕がないためか動きに鋭さがかけている。レカンは聖硬銀の剣を魔獣の首にたたきつけた。

首が飛び、魔獣はゆっくりと倒れた。

倒れてしまう前にその体は消え、そこには一つの小さな宝箱があった。

〈回復〉の呪文を唱えようとしたが、下顎が砕けた状態では、もちろん言葉を発することはできない。言葉を発することができなければ、魔法は使えない。

〈収納〉から大赤ポーションを引っ張り出して、ずたずたになった顎にかける。もう一つ大赤ポーションを取り出して脇腹にかける。

みるみる顎が治癒されていく。

「〈回復〉」

一度では足りない。

「〈回復〉!」

ぼろぼろになった身体が回復してゆく気持ち悪さをこらえながら、落ちている鉤爪をみた。爪は折れ曲がり、もう使えそうにない。

〈 掻山爪(シェルグラージン) 〉

第八十六階層で得た近接武器だ。基礎攻撃力が異常なほど高い。

どうしてあの瞬間、これが右手に現れたのか。

ふと思いついたレカンは、右手が剣を握っていると想像し、強く念じた。

(ラスクの剣よ!)

すると右手にラスクの剣があった。

〈収納〉が進化したのだ。

今やレカンの〈収納〉は、念じるだけでなかにしまったものを呼び出すことができるのだ。何か条件や制限のようなものがあるのかもしれないが。

そういえば、〈立体知覚〉も〈魔力感知〉もレカンの成長に応じて進化したではないか。どうして〈収納〉も進化しないわけがあるだろうか。

すると、〈突風〉も進化しているのかもしれない。調べてみなければならないだろう。

(それにしても)

(きわどい戦いだった)

(まともにやったら勝てない相手だった)

肩で息をしながら、まだくらくらする頭でそんなことを考えた。

めまいが収まるのを待って宝箱を拾った。

ずいぶん小さな宝箱だ。まるでポーションが入った箱のように。

開いてみると金のポーションが入っていた。

「嘘だろう」

レカンは思わずつぶやいた。

あれほどの危険を冒し、戦闘に次ぐ戦闘で身も心も疲労を重ね、それでも歯を食いしばってここまできたのは、ツボルト迷宮の主を倒せば最強の剣が得られると思っていたからだ。〈彗星斬り〉をも上回るような剣が。

金ポーションは悪い品ではない。だが、しょせんゴルブル迷宮でも手に入る程度の品だ。ツボルト迷宮踏破にみあう報酬とはいえない。

大きな失望感を抱えながら、レカンは金ポーションを〈収納〉にしまい、侵入通路を通って階段に出た。

「レカン殿! 無事でしたか!」

「ああ」

「でも血まみれですね。大丈夫ですか」

「一時は死にかかったがな。今は大丈夫だ」

「私はなかに入れませんでした。ここは制限人数が一人だったんですね」

ニーナエ迷宮を踏破したとき、アリオスには主の部屋によくある人数制限について説明したことがある。覚えていたようだ。

「ああ」

「どんな敵でした?」

「その話はあとだ。迷宮を出るぞ」

「え? あ、そうか」

最下層の主を倒したのだから、この迷宮は休眠する。〈眠らない迷宮〉が眠るのだ。大混乱が起きるだろう。ぐずぐずしていると、その騒ぎに巻き込まれる。

二人は地上階層に転移して迷宮を出て、迷宮広場からも早足で去った。

そして、そのまま〈ラフィンの岩棚亭〉に帰った。

「それで、迷宮の主というのは、どんな魔獣だったんですか?」

「〈鉄甲白幽鬼〉だ。ただし白い骨の鎧が完全に全身を覆っていてそこに赤い筋が走っているような姿だったな。武器は持たず、こぶしと蹴りで攻撃してくるんだ。ただし一度だけ〈炎槍〉で攻撃してきた」

「魔法も使うわけですね」

「その〈炎槍〉が、魔獣自身が持っていたものかどうかはわからん」

「え?」

「オレが撃った〈炎槍〉を、その魔獣は吸い取ったようにみえた。そしてそのまま同じような攻撃をしてきた。だから、あれは、魔獣がもともと持っていた能力かもしれないし、オレの魔法を吸って撃ち返してきたのかもしれない」

「魔法を吸って撃ち返すなんてことができるんですか」

「さあ、知らん」

「もしそうだとしたら、強力な魔法攻撃を持った冒険者ほど、強力な攻撃にさらされることになりますね。手ごわい敵だ」

「一番の問題は、〈恩寵〉が働かないということだ」

「えっ? 恩寵が働かないですって?」

「そうだ。迷宮の主との戦いでは、〈インテュアドロの首飾り〉の対魔法障壁も生じなかったし、〈彗星斬り〉の魔法刃も生成できなかった。場所が持つ働きなのか、魔獣の能力なのかはわからんが、とにかく最下層の主との戦いでは、恩寵が使えん」

「よく勝てましたねえ」

「ああ、正直、地力ではあちらがはるかに上だったと思う。魔法が効かんし反応速度はオレより速いんだからな。聖硬銀の剣を腕で受け止められるほど体が硬いし。そのうえ恩寵が働かない。よく勝てたものだと思う。もう一回戦えといわれても、今はやる気にならんな。とても勝てん」

「そうですか。レカン殿がそこまで言う相手ですか」

「お前、どうする?」

「どうするって、何をです?」

「迷宮の主と戦うか?」

「戦うには、何日か、何旬か、あるいは何か月か、迷宮が復活するのを待たないといけないわけですね」

「そうだ。さすがに何か月もは付き合えんが、少々ならオレも付き合う」