作品タイトル不明
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翌日から五日かけて第百四十九階層を踏破した。ここでは〈 万竜斬り(アルザムシル) 〉が出た。これはレカンのものとした。アリオスがうらやましそうにしていた。
そして二日間休養し、レカンとアリオスは再び迷宮に挑んだ。
(今日から第百五十階層か)
レカンは、すでに気力も体力も限界に達していた。今は意地だけで探索を無理に進めている状態だ。
(第百五十階層を終えてまだ先があるようなら)
(少し長い休憩を取るか)
(いったんヴォーカに帰るという手もあるなあ)
そんなことを考えながら、レカンは回廊に足を踏み入れた。
だがそこは回廊ではなかった。
その瞬間、レカンの心のなかで最大音量の警鐘が鳴った。
たちまちレカンの心と体は最高度の臨戦態勢に入った。
少しにぶくなっていたレカンの全感覚が張り詰める。
(これは)
(侵入通路だ!)
(第百五十階層は回廊がなく)
(直接侵入通路があるのか)
(ということは)
(ここが主のいる階層なのか!)
いよいよ最後の戦いだ。いつ果てるともない探索に疲れきっていたレカンは、今や精気に満ちあふれ、顔に喜びが浮かんでいる。
部屋のなかには一体の魔獣がいるのを感知した。これがこの迷宮の主なのだろう。
(どんな主だか知らないが)
(この装備があってアリオスと力を合わせれば)
(恐れることはない)
そのアリオスがなかなか入ってこない。
なお待ったが、入ってこない。
(まさか!)
レカンは侵入通路から階段に戻ろうとしたが、もちろんそこは通れなかった。
アリオスはまちがいなく、この侵入通路の入り口の向こう側にいる。そうであるのに、なかに入ってこない。
つまり入ってこられないのだ。
(この迷宮の主との戦いは制限人数が一人なのか!)
これほどの大迷宮の最下層の敵とたった一人で戦わなくてはならないなどとは、想像もしていなかった。だが、戦わずにここから出ることはできないのだから、戦うしかない。たった一人で。
(よかろう)
(オレの全力で)
(お前を殺してやる)
レカンは装備の確認をしてから左手に杖を構え、魔力を練り込んで、部屋のなかに踏み入った。
〈立体知覚〉は、この階層には入り口以外の階段がないことを示している。やはりここが迷宮の最下層なのだ。
部屋の中央に一体の〈鉄甲白幽鬼〉がいる。
体の表面を覆う白い防御骨が、すっかりと体全体を包み込んでいて、まるで真っ白な全身鎧を着けているかのようだ。そして白い鎧に走る深紅の筋が、ひどく不気味でまがまがしい。目の位置にあるくぼみは血のように赤い。
「〈障壁〉!」
対物理障壁を張り、レカンは十歩ほど進み出た。
(こいつ武器を持っていない)
(まさか素手で戦うのか?)
「〈炎槍〉」
強い魔力を込めてレカンは〈炎槍〉を撃った。
魔獣は右の手のひらを前に向けた。〈炎槍〉はその手のひらに吸い込まれていった。
(なにっ?)
今のは障壁で防いだのでも、魔法防御で防いだのでもない。そもそも着弾したとき爆発しなかった。吸ったのだ。この魔獣は魔法攻撃を吸えるのだ。
(ちっ)
(魔法攻撃は通じないということか)
そのとき驚くべきことが起きた。
魔獣が、突き出した手のひらから、〈炎槍〉を放ったのだが、その〈炎槍〉は、〈インテュアドロの首飾り〉に阻まれることなくレカンの胸の中央に着弾したのである。
レカンは後ろに吹き飛ばされた。背中から岩の床にたたきつけられたレカンを、魔獣の蹴りが襲う。だが、吹き飛ばされながらもレカンは物理障壁を維持していたので、この蹴りは障壁に阻まれた。
(何が)
(何が起こった?)
後頭部を岩に打ちつけたため、くらくらする頭で考えながらも、レカンは右手で〈彗星斬り〉を抜き、魔力をそそいだ。
だが〈彗星斬り〉は魔力を受け付けない。
(なにっ)
そうしているあいだにも、魔獣は両のこぶしで障壁を打ち、回し蹴りをたたきつけている。
(〈インテュアドロの首飾り〉の障壁は発動せず)
(〈彗星斬り〉の魔法刃も顕現しない)
(まさか!)
「〈ティーリ・ワルダ・ロア〉!」
何も起きない。
肌に粟が立った。
ここでは恩寵が働かないのだ。
恩寵無効。
それが敵のスキルなのか場の特性なのかはわからない。とにかくこの戦いでは、恩寵は役に立たない。となると〈彗星斬り〉など、平凡なショートソードでしかない。
魔獣はこぶしと蹴りを驚異的な速度でたたきつけている。障壁が悲鳴を上げている。長くはもたない。
レカンは〈彗星斬り〉をしまい、聖硬銀の剣を〈収納〉から取りだした。
障壁が負荷に耐えきれず消滅した。
迫る魔獣の脳天に向けてレカンが剣を振り下ろす。
狙いあやまたず敵の頭を両断する直前、敵は裏拳で剣の腹をたたき、剣は左にそれてしまう。せめて右肩に斬撃を浴びせようとしたが、魔獣はするりと身をかわし、レカンの額にこぶしを突き込んだ。
一瞬意識が飛んだ。だが殴られる瞬間自分で後ろに跳んだので、頭の骨は割られずにすんだ。
魔獣が前に飛び出して右の蹴りを繰り出す。
脇腹を捉えたその蹴りをレカンはかわせない。
その代わり聖硬銀の剣が魔獣の右脇腹を襲う。
しかし魔獣は右手の肘でレカンの剣を防ぐ。
レカンの体は空中で折れ曲がる。肉はえぐれ骨も何本か折れたろう。
それでもレカンは驚異的なバランス感覚と空間把握で半回転して足から降り立ち、反動で敵の懐に飛び込み、魔獣の頭に剣をたたき付けた。
レカンの渾身の力で打ち込まれた剣を、魔獣は両の手を頭の上で交差して防いだ。
聖硬銀の剣は神秘的な切れ味を発揮し、魔獣の腕に深く食い込み。
そして音を立てて折れ飛んだ。
魔獣がにやりとわらったような気がした。
レカンの顔めがけて魔獣の右こぶしが迫る。
避けようのない死が目の前にあった。