軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

4

4

なぜか迷宮事務統括官イライザ・ノーツが訪ねてくるようになった。

領主や父と〈ラフィンの岩棚亭〉に来たのは四の月の二十六日のことだったが、その十日後の三十六の日の午後、先触れをよこしてから、供も連れずに岩棚亭に入ってきた。いや供は連れてきたのだが、宿の外で待たせて一人でなかに入ってきたのだ。

「やあ、レカン殿」

この日は休養日で、レカンはちびちびといぶし酒をなめていた。

アリオスが立ち上がってイライザのために椅子を引いた。

「ありがとう、アリオス殿」

「どういたしまして」

「レカン殿は、ゾルじいと同じ世界から来た〈落ち人〉だったのだな」

「ああ」

その話は十日前にした。イライザはちゃんとそのことを知っている。それなのに、わざわざやってきて念を押すのは、どういうわけなのだろう。

「レカン殿」

「うん?」

「ゾルじいのいた世界のことを知りたいのだ。話してはもらえまいか」

「もとの世界のことを話せだと? いったいもとの世界の何が知りたいんだ」

「何でもだ。たとえば、もとの世界にも迷宮はあったのか?」

「ああ」

この質問はレカンのつぼを突いた。ほかのことを話せと言われたのだったら、めんどくさいからいやだと答えただろう。だが迷宮のこととなると話は別だ。レカンは、この世界の迷宮とのちがいを説明しながら、思い出深い迷宮踏破の記憶を語った。

「すごいな、レカン殿は。そんなにいくつもの迷宮を踏破したのか。それにしても、そちらの世界では、ずいぶんよく金ポーションが落ちるのだな」

「金ポーションが落ちるんじゃない。階層主や迷宮の主を倒すと、ある決まったスキルが体のなかに生じるんだ」

「これを倒せばこの技能が得られるということが決まっているのだな」

「そうだ。ただし時々、普段は通常スキルが得られるが運がいいと上位スキルが得られるような魔獣もいる」

やがて〈グリンダム〉の三人が帰ってきた。

「レカン」

「声を潜めてどうした」

「外に騎士が立ってちゃ営業妨害だ」

「ああ、確かに。迷宮事務統括官殿」

「私のことはイライザと呼んでいただきたい」

「外の騎士が営業妨害だ。なかに入れてくれ」

「これはすまなかった」

「イライザ。ところで今日は何の用事で来たんだ?」

「ゾルじいのことを教えてもらいたいと思って」

「ふうん? もう日が暮れた。今日は帰れ」

「そういえば夕食どきだな。この宿の野菜はおいしかったなあ。そうだ。私も今日はここで夕げを食すことにしよう。アリオス殿。ご亭主はどこだろう」

「今呼びます。ナークさーん」

「はいよ」

「ご亭主。レカン殿とアリオス殿と私に夕食を出してもらえるか。あちらの三人にもだ」

「は、はい」

「イライザ。あそこに立ってる騎士はいいのか」

「任務中は食事を取らない。気にされずともよい。それより私にもお酒を頂けるだろうか」

「ああ。あんたはワインがいいんだったな。アリオス。どこに行く」

「いえ。〈グリンダム〉のテーブルに移ろうかと」

「なぜそんなことをする」

「わかってないんですね。ええ。あなたはそういう人でした」

この日から、時々イライザが訪ねてくるようになった。

ちゃんと従者をつかわしてレカンがいるかどうかを確認してからやってくる。当然、休養日に来ることになった。

イライザの来る日は妙に客が多く来るようになった。座りきれない客は、カウンター前にたむろして酒を飲んだり、階段に座り込んで食事をしたりしている。

彼らの多くがイライザをちらちらみていることに、レカンは気づいていた。そしてイライザの来た日はネルーがカウンターの向こうにずっと立っていて、イライザとレカンが座るテーブルをじっとみている。やはり高位の貴族というのは珍しいのだろう。

「レカン殿は、ゾルじいと同じ匂いがするな」

「革と汗の臭いだろう。冒険者ならみな同じだ」

「ゾルじいも背が高かったが、レカン殿も大柄だな。そちらの世界の人は、みんな背が高いのだろうか」

「いや。ゾルタンもオレも、背が高いほうだな」

「やはり特別な人なのだな。レカン殿が剣を振って一撃で魔獣を倒す姿をみてみたいものだ」

「あんた迷宮の深層に潜れるのか」

隣のテーブルのアリオスが口を挟んだ。

「レカン殿。いろいろまちがっています」

「何がまちがってる? というか、どうしてお前はそっちのテーブルに座るんだ」

〈ラフィンの岩棚亭〉はひどく混み合っているのに、レカンとイライザが座っているテーブルは二人きりだ。最初客たちは隅に立っている騎士を避けていたが、今では置物のように無視して、近くに立って酒を飲んだり、横で荷物袋に腰を下ろして料理を食べたりしている。

そしてイライザが来たときには、アリオスは〈グリンダム〉の三人と一緒に座るようになった。どうしてそんなことをするのか、レカンにはわからなかった。

(イライザはたぶん)

(この際オレたちのもとの世界のことを調べておけと)

(伯父である領主から命じられたんだろうな)

(ご苦労なことだ)

(オレの能力を明らかにする狙いもあるだろうな)

(ゾルタンにかこつけて情報を引き出すのはうまいやり方だ)

(追い返すわけにもいかん)

(しかたないから気がすむまで付き合ってやるか)

(うん? まただ)

(またネルーがオレをみてほほ笑んでいる)

(なぜだ?)